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閑話 VRMMO潜入調査!

「これがこっちであれがあっちで……。こんないい物どうやって手に入れたのです?」


「ロクコに頼んで入手してもらったッスよ。一番いいのを頼むッスと言ったらもらえたッス、特上ギアッス」


 ミイラが入っていそうな豪華な棺。それを立てて大きくしたような、少々怪しげな装置が二つ並んで置かれた部屋。シノービとメイが『ギア』なる怪しげな装置をせっせと調整しているようだ。


「できたッス。あーしに掛かればこんな物楽々接続完了ッス」


「ほとんどメイが終わらせたのです。シノービ姉さんは電源差し込んだだけなのです」


「これがインストールチップッス。早速行くッスよ」


 シノービは『オンラインゲーム:狩人になろう』と書かれた小さなメモリーチップらしき物を持っていた。

 この大げさ過ぎる装置とゲームと言う組み合わせ、つまりバーチャルな空間で遊ぶオンラインゲーム。二人は所謂VRMMOをプレイしようとしているらしい。

 早速ギアにチップを差し込もうとしたシノービ、だがメイに止められる。


「攻略サイトを見て行かないとなのです。さいきょーを目指すのです」


「モンスターの調査に行くだけッス。テラッチをコテンパンにできるモンスターの情報を仕入れるだけッスよ」


「コテンパンにできるモンスターに会うには最強にならないとなのです。さいきょーこそパワーなのです」


「なるほどッス一理あるッス、さいきょーこそパワーッスね!」


 ふんすふんすと鼻息荒く、二人は攻略サイトをじっくりと研究。レポートにまとめるほどに熱中している。

 斥候部隊は報告書を書く機会が多いのだろう、手慣れた様子でパッド数枚にも及ぶレポートを書き上げていった。




「さいきょーへの道が完成したッス。これで勝つるッス」


「もう怖い物はないのです、いざ行かんなのです」


 二人は颯爽と棺状の装置『ギア』に入るとパタンと蓋を閉じた。


――ギュイーン


――♪ピョイン。サーバーを選んでください。


 配管工のおじさんがジャンプした時のような音がすると、無機質な女性の声でアナウンスが流れる。どうやらこのゲームには複数のサーバーがあり、最初に選択しなければならないようだ。


《サーバーは一番上のにするッス》《じゃあメイは一番下を選ぶのです》


《なんで違う所を選ぶッスか! 一緒に冒険するッスよ》《了解なのです》


 仲がいいのか悪いのかわからない二人だった。


――♪ピョイン。キャラクター名を決めてください。


――♪ピョイン。容姿を決めて――

――♪ピョイン。職業を――



  ◆



 街道を馬車が走っている。

 藁を積んだ馬車はゆっくりと村を目指しているようだ。

 馬車の後ろに二人の女性が座っている、一人は蜂蜜色の髪をさらりと伸ばした褐色肌の少女、もう一人は黒髪を後ろで結んだ美白美女だ。


「シノービ姉さんより大きくなれたのです」


「ぐぬぬ。容姿も打ち合わせるべきだったッス。なんとなく負けた気がするッス」


 黒髪美女はメイ、褐色少女はシノービのキャラクターだった。

 シノービが負けたと言っているのは、メイのキャラクターの一部がボヨンとしているからかもしれない。

 たゆんたゆんだ、何がとは言うまい。


「お嬢ちゃんがた、そろそろ村に着くぞ。あれがプロト村だ」


「初期村ッスよ。早速さいきょーへの道スタートッス」


「まずはチュートリアルなのです。さいきょーへの道も一歩からなのです」




 初期村には同時期に始めたばかりの人がちらほらと見られ、同時にちょっと先に進んでいる自称先輩達が出会いを求めて集まっている。

 シノービ達も女子二人組、当然そういった輩に絡まれるのだが。

 『さいきょー以外はお断りッス』『急いでるのです、さいきょーが待っているのです』と、あっさり撃退していった。



  ◇



 二人はチュートリアルを終え、初めての狩りに向かう所だ。

 チュートリアルを受けると初期武器と防具、初心者冒険セットを支給され、さらに職業に応じたスキルも与えられるらしい。

 メイが大きな剣を両手に装備した二刀流戦士、シノービは片手メイスに盾を装備した神官タイプと思われる格好。

 初心者冒険セットは、なんだかいっぱい入るカバンとちょっと回復する薬、それに直前に居た拠点に戻れるスクロールのセット。特にカバンは必須アイテムなのでチュートリアルを受けないと言う選択はなかったのだ。


「攻略サイト『効率厨最強への道』によると、最初はあの山のモンスターを倒してレベルを上げると書いてあったのです」


「早速行くッス。最速でさいきょーを目指すッス」


 あの山とは初期村前の草原の先、少々距離がありそうだがそこを指しているようだ。全く躊躇することもなく二人はずいずいと進んで行く。


 初心者の最初の狩り場になっている草原には、多くの同レベル帯狩人がモンスターを倒している。人気ゲームの初期狩り場というと、たいてい混雑していてモンスターの沸き待ちが発生する。このゲームも例外ではなく、モンスターの数より狩人の数が多いようだ。


 街道を脇目も振らずズンズンと進む二人の前に最弱モンスターが現れた。

 モンスターはコケコッコーという二頭身ニワトリ風なモンスター。二人は武器を構え攻撃しようとするが。


 バシュッ!


 飛んできた矢に倒されたコケコッコー。武器を構えたままの二人の前に弓を持った狩人がやって来た。


「あん? 何か文句あるのか? とろくせぇのが悪いんだよ、早い者勝ちなんだよ」


 ドロップアイテムの鶏肉と小銭を拾い、次の獲物へと向かって行く弓狩人。二人は少々、いや大いにイラッときているようだ。


「さいきょーの前の寄り道してもいいと思うッス」「メイもそう思うのです」


 ちなみにこの狩人オンライン。一昔前のゲームのように狙えば秘中と言うことはなく、遠距離攻撃にはそれなりの技術が必要だ。火力は高いが扱いが難しい、というのが遠距離攻撃の特徴となっている。

 それに加え遠距離からの攻撃は、現実と同じ挙動を再現しているため。


 バシュッ! ガイン! ザクザクッ


 弓狩人が弓を放った所で、シノービがその前に盾を構え弾き飛ばす。その隙にメイがモンスターを倒すというコンビネーションプレイを披露していた。


「早い者勝ちッス。とろくさいのが悪いッス」「とろくさいのです、悪いのです」


 粘着するよう何度も何度も横取りを繰り返し続けた二人。ついに諦めたのか、弓狩人は無言のままその場でログアウトしてしまった。


「勝利したッス」「むなしい勝利なのです」


 このような行いはハラスメント行為と言って、ゲームによっては通報されて処分されることもあるのだが。弓狩人自身の行為が原因だという負い目があったのだろう、通報されることにはならなかったようだ。



「レベルが三に上がったのです」「あーしは一のままッス。おかしいッス」


 パーティーを組むと経験値が等分配されるのだが、最強しか見えていなかった二人はそれを忘れていたようだ。しばらくそのまま狩りを続け、メイがレベル五、シノービは一から変わらなかったことでやっと気が付いた。


「メイのうっかりで損したッス」


「シノービ姉さんがリーダーなのです。リーダーから要請しないとパーティー組めないのです」


 いつものうっかりなので、二人の間がギスギスすることはない。まあ言うまでもないことだろうが。


「次のモンスターはあーしが倒すッス。早くレベルを上げたいッス」


 パーティーを組んだので、どちらが倒しても変わらないと気付いてないのだろうか。

 ズカズカと進む二人の前に新種のモンスターが現れた。


「なーっ! プリンとお供え餅ッス。あーしに対する当てつけッス!」


 現れたのは見た目はカラメルの乗ったプリンそのもの『カラプリ』と、お供え餅そっくりな『白段グミ』というモンスター。グミであってスライムではない、しずく型ではなく二段のお供え餅型だ。

 何か思う所があるモンスターだったのか、シノービは現れたモンスターをメイスでベッキベキと殴りつけて瞬殺してしまった。

 白段グミはレアモンスターだったらしく、多くの経験値を得た二人は共にレベルアップできたようだ。




 道中飛び出してくるモンスターをバッタバッタと倒しまくった二人。順調に育ってレベルはメイが八でシノービが六となっていた。


 そして到着したのがメイの言っていた効率の良い狩り場。

 『ドングリ山』とマップに書かれた場所は、大して高い山ではないが深い森で見通しが悪い。遠距離職には不向き、つまり近接職向きな狩り場と言えるだろう。


 二人は頂上を目指しガンガン進んで行く。

 ゴブリンが現れた。――双剣連斬なのです――臭い布を手に入れた。

 巨大蜂が現れた。――シノービメイスッス――はちみつを手に入れた。

 スコップモグラが現れた。――双剣十文字斬りなのです――スコップを手に入れた。

 イベリコ猪が現れた。――メイス殴打ッス――バラ肉を手に入れた。

 角ウサギが現れた。――双剣稲妻落しなのです――うさ角を手に入れた。


 来る敵来る敵バッタバッタと倒す二人。ちなみに二人の使っている技はゲームシステムの物ではなく、勝手に名前を付けて切ったり殴ったりしているだけだ。



 そんなこんなで頂上に到達した二人。そこには小さな祠とその横に看板が立っている。


【隠しダンジョン――推奨レベル二十以上】


 看板立てて隠しダンジョンとは……。

 推奨レベルが書かれているが、二人のレベルはこの時点でメイ十、シノービ八と全く足りていない。だが全く気にすることなくやる気溢れる二人。


「最速で攻略するッス」「さいきょーなのです」


 祠の扉を開けると二人は光に包まれ粒子化し、キラキラと輝く渦となって内部へ吸い込まれていった。



  ◆



「双剣ぐるぐる斬りなのです」「シノービぱーんちッス」「双剣滅多打ちなのです」「シノービ盾あたーっくッス」


 鎧袖一触。二人の歩いたあとにはぺんぺん草も生えない勢いだ。

 よくわからない技を繰り出し進み続ける二人は、攻略サイトで仕入れた情報を元に使えるお宝を回収し、順調に攻略を進めていた。

 お宝のおかげで装備も一新し、メイの双剣はより煌びやかな物に、シノービのメイスはよりトゲトゲした物に更新されていた。


「あの扉ッスね」「倒せばダンジョン攻略なのです。いい物もらえるのです」



――ぎぃぃーっ……

 重量感のある大きな両開き扉が開く。

 シノービとメイが堂々と部屋へ侵入した。

 二人が部屋に入ると、バタン! と大きな音をたて扉が閉まる。もうボスを攻略するか、力尽きて倒れるまで扉は開かないのだろう。

 正面には巨大な影。荒い鼻息だけが室内に響く。


 ブフォーブフォーッ!

 ♪ちゃ~ちゃらら~ららら~ら~ら~

 モンスターの雄叫を合図に突然流れ出したBGM。照明が灯り室内が明るく照らされる。

 二人を待ち受けていたのは二足歩行の大きな猪『イベリコオーク』だ。

 見上げるほどの巨大な体に、棍棒を両手持ち。筋肉質な灰色の肉体は、充分にパンプアップされ湯気を上げている。


 即座にシノービがオークの前に出た。前面に突き出した盾をメイスで叩き、オークの注意を引く。

 オークの棍棒がシノービを襲う! 強烈な一撃を寸前で躱すとその指めがけメイスで一撃!


 ピギャァ!


 トゲトゲメイスの一撃はオークの指を赤い粒子に変え消滅させた。

 怒りに震えるオークは両手の棍棒を高く掲げ、雄叫びを上げるとシノービめがけて振り下ろす。

 今度は躱さず前に出るシノービ。オークの股の間から背後に回り。


「メイ! 今ッス!」


 気配を隠し潜んでいたメイ。シノービにオークの注意を集め隠密行動に専念していたのだった。

 メイが潜んでいたのはオークの背後、それも天井付近。

 両手で棍棒を打ち降ろした直後のオークは、背後の、特に首元ががら空きだった。ひらりと降りてきたメイは、オークの首に左右から双剣を突き刺す。


「双剣落下突き! なのです」


 ここまでお膳立てされて技名が……、落ちて突くだけのそのまんまだった。

 まあその技が決まって、オークは赤い粒子となって消え去った。


 オークの立っていた場所にドロップアイテムの宝箱。金色の箱が輝いている。


「レア箱なのです。さいきょーへ一歩近づいたのです」


「素早く歩ける靴ッス、さいきょーへの近道を手に入れたッス」


 このゲームはパーティーのドロップ品は共通。みんなで同じ物を手に入れて喜びを共有できる、ギスギス要素を排したうれしい仕様だ。

 二人は目的の品を手に入れて満足しているようだ。くるくる回って喜びを表現していた二人だったが、シノービがふと我に返りメイに尋ねた。


「ところでメイ、モンスターの調査はできたッスか?」


「うっ、さいきょーに気を取られすぎたのです。目に入ったモンスターは即斬だったのです」


「あーしも同じッス、次からは二人でちゃんと調査するッス……」


「わかったのです」


 完全に手段が目的になっていた二人……。これで大丈夫なのだろうか。



この回から週一回火曜日投稿になります。

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