40,タイムアタックに挑戦
バン! いつもの看板がテラオの顔前に現れたが……。
【チュートリアル -治癒魔法編- 終了!
治癒魔法は経験が物を言う、
練習あるのみ数をこなそう。
特別報酬:青い石】
「あれ? メニューが人形になってる?」
看板を持っていたのは、メニューをデフォルメしたようなかわいらしい人形だった。大きさはほぼ一緒だ。
「メニューちゃん人形が代行ですね。さてこれが報酬です、早速アップグレードしましょう」
ケンサンは不思議がるテラオをよそに、報酬の『青い石』を腕時計さんにコツンと当てる。
青い石はどろりと溶け腕輪に沿ってぐるりと一周すると、薄青いラインとなって腕輪の装飾に加わった。
「専用腕輪に魔力を込めてください。アルバイトと同じ要領ですよ」
アルバイトと同じと言うことは、気絶寸前までと言うこと。言われた通り魔力を込め始めたテラオ。
青いラインにきらりと光る玉ができると、ラインに沿って二手に広がる。ぐるりと一周した所でテラオは魔力を使いきったようだ。
薄青かったラインはネオンブルーの輝きに変化した。
「おぉきらりと格好良くなりました」
「魔力のリザーバータンクになります。ここでは不要でしょうが、フィールドに出た時に役立つ時があるかもしれません。それでは今日の講習はここまでです、お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
――♪ピンポロポン。ダンス講座の時間です。
牧場の入り口にはキレッキレのダンスを踊っているペーターが居た。
いつもは穏やかな雰囲気のダンスなのだが、今日のペーターはいつもと違う。
「やあテラオくんよく来たネー、おかげさまで悲しいヨ~~~♪」
台詞前の儀式がなくなっていた。昨日の小ダンジョン初回攻略報酬での要望が通ったらしい。
隣で軽装案山子が『いいゾー、よくやったゾー』と言っている所を見ると、ペーター以外は皆同じ意見だったのかもしれない。
「あ、えっと……。あはははー」
◇
ダンス講座はいつもより順調に進み、覚えられたことも多かった。要望を伝えた甲斐があったようだ。
帰り際にペーターから『生産講座待ってるヨ~~~♪』と言われたことから、多少は本人も自覚していたのではないかと思われる。
次はアルバイトの時間だ。
小屋にケンサンは居なかったが、昨日と同じ木箱が用意されていた。ただ小屋内には昨日と、いや先ほど受けた講習の時にはなかった扉が据え付けられていた。
「これがさっき話していた野戦病院入り口かな?」
テラオは扉を開けてチラッと覗く。扉の先は野戦病院、入り口と扉が不思議な力で繋がっていた。ベッドは相変わらず白黒で時間が止まっている、そして講習で治療が終わった患者は入れ替えられたのか、新しい患者に変わっていた。
「な、なるほど。アルバイトが終わったら野戦病院という流れができているんだね……」
今日もやっぱり長い一日になるようだ。
◇
どれほど時間が経ったのかは不明だが、アルバイトで七千百四十四回魔力を絞り出し、野戦病院でも魔力を搾って治療をする。体力も魔力もすぐに回復する高性能ボディーとはいえ、気力はまた別。へろへろとゴザへ戻るテラオの後ろ姿は、しなびた風船を思わせる物だった。
ゴザに戻ったテラオは本棚の上のペンギンにただいまと挨拶すると、ちゃぶ台の前に落ち着きノートを広げなにやら書き込みを始めた。今日教わった内容をまとめているるらしい。
へたばっていてもやることはやる。邪悪なる物が憑依していない限りは一応まじめな性格なのだ。
書き終えた所でテラオは周囲に魔力を張り巡らせ、張りぼて状に硬化させ始めた。
これはテラオが昨日の宿題としてできるようになった『魔法無効空間』が、ベイスの想定と違ってさらに進んだ物だったと言われたこと。
ベイスの想定は皮膚表面に張り巡らせた物理防御魔法を離れた場所に張ると言う物だった。と言われたのを思い出して、ベイスの想定していた物の練習を始めたと言うことらしい。
卵型の防御空間【殻】を作る事ができたようだが、テラオは納得いかないようだ。
「うーん、用途がいまいちなうえ頼りない、それに魔力を使う量が多いしな……」
何か思い立ったのか、テラオはすくっと立ち上がると訓練島へと走って行った。
訓練島では案山子三体がピョインピョインと大歓迎してくれた。自主練習では初めての出番と言うことで喜んでいるらしい。装備を調えたテラオはいろいろと試すように案山子達と打ち合い練習を始めた。
案山子三体が楽しそうに打ち合いをしていれば、当然出てくる模型君二体。五体にもまれてテラオは満足な結果を得られたようだ。
この自主練で新たに獲得した【遠隔盾】の魔法は、物理防御の魔法で作られた小さな壁を少し離れた範囲で自由に動かせる物だ。集団に囲まれた時に相手を押し出したり、タイミングをずらしたりと防御以外の使い勝手もいい。
さらにシノービに教わった空板をステップの補助に使ったり、相手の思うタイミングをずらすのに使ったり、相手の足を止めるのにも使い、攻撃手段だけではなくうまく攻撃を繋ぐための魔法として活用していた。
「自主練につきあってくれてありがとう。また明日もよろしくね」
結果に満足して訓練島を後にするテラオ。案山子や模型達が手を振って見送っている。
「さーてあとは……」とテラオが呟いた所で。
――♪ピンポロポン。iフィールド小ダンジョン行きますか?
「行きます行きます。お願いします」答えを言い終わるのを待たずにテラオは転送された。
◆
レンタル武器防具がそろえられた準備室。ここは昨日と変わらずきれいに整えられた装備が並んでいる。テラオが昨日使った装備もぴかぴかに整備されて並んでいた。
早速装備を調えたテラオが入り口の扉に手を掛けようとした所で。
『今日の小ダンジョンはタイムアタックなのです。制限時間内に全部のモンスターを倒せたらクリアーなのです。部屋は一つだけ、部屋に居るモンスターを倒すと次のモンスターが沸くのです。ギブアップは入った扉から出ればいいのです』
モンスタールームというのだろうか。倒すとさらに追加されると言う恐ろしい仕様に、部屋から出たら失格という厳しいルール。
確かに短時間で終わるとシノービは言っていた、だがクリアーできるとは言っていなかった……。
覚悟を決めたのか、テラオは扉に手を掛け部屋に飛び込んだ。タイムアタックスタートだ。
『スタートなのです、残り時間三十分なのです』
【照明弾】の魔法を放ったテラオの前に、小さなモンスターがずらりと隊列を組んで構えていた。昨日と同じ木人形隊かと思われたが様子が違う。
ここで焦ることなく【氷塊拘束】の魔法で全体を固めると剣で切りつける。
ガイン!
人形部隊は全て小さな金属ゴーレムだった。
【氷塊拘束】で半身を固定することはできたが、剣で切りつけても数体切れる位。金属人形相手では、昨日の回って倒す方法は有効でない。
「うひゃ、こういうのもあるのか。それじゃ【触手拘束】!」
ワイヤーの強度を持った蔓が地面から何本も伸び、氷で捕らわれている金属人形を数体ずつまとめては潰しまとめては潰し。
倒しきった所で、どさっと次のモンスターが落ちてきた。
今度のモンスターは流体生物。だが昨日と同じ焼き固める戦法は採れない相手だった。どろりと流れる真っ赤に焼けた生物、三体の溶岩ゴーレムがテラオに覆い被さるように襲ってくる。
「うっひょー、同じ対策は通用しないモンスターが出てくる感じかな? じゃあ【氷塊拘束】!」
相手の動きが遅いのが救いだ。テラオは逃げ回りながらさっきと同じ足下を凍らせる魔法を放った。だが溶岩ゴーレムは意に介さず、氷は溶かされ止めることができない。
「どうしようどうしよう。諦めちゃ駄目だ、何ができるかどうすればいいか。溶岩溶岩……、とりあえず水! 【水の玉】!」
氷塊拘束で捕らえられなかったことに焦ったテラオ。なんとかしなきゃと兎に角たくさんの水の玉を作っては投げ作っては投げ。部屋は湯気が立ちこめるサウナのようになっていく。
昨日の自主トレで空間詳細把握を身につけているテラオは、目視では何も見えない状況の中でも問題なく行動できる。逃げ回りながらひたすら水を溶岩ゴーレムにかけ続け……。
「あれ、動かなくなった?」
あまりに大量に水を掛けられ続け、さすがの溶岩ゴーレムも冷えてしまったようだ。さらに動きの鈍くなったモンスターは脅威ではなく。
「【爆破】!」と胸部を爆破された三体の溶岩ゴーレムは活動を停止した。
「そういえば今までのゴーレムは全部胸部を壊せば倒せてた。ってことは最初から狙って破壊すれば楽だったのかな」
ゴーレムの弱点がわかったようだ。が、安心していたテラオが突然吹っ飛ぶ。
湯気で視界が全くない状況。だが気配察知や空間把握ができるテラオには問題ないはずだった。
「ぐぁっ……、な、なんだ。気配は……ない。空間詳細把握にも何も居ない!」
剣を前に構え注意深く周囲を伺うが、突然背後から殴られたような勢いで前方に吹っ飛ばされる。
「うあっ……。くっそぉぅ、何か分からないけど防いでみせる!【魔法無効空間】展開。【殻】、【遠隔盾】発動!」
思いつく防御の魔法で固めたようだが、それでもテラオはあっちこっちに吹き飛ばされる。空間把握でも察知できない攻撃にテラオは翻弄されていた。
『残り時間五分なのです』
残り時間を告げられ焦るテラオ。だが冷静な部分も残っていたのか、新しいことを試してみるようだ。
「無効化されないってことは魔法じゃない。殻を通過するってことは物理攻撃じゃない? いやそれは……。よし、【氷の壁】!」
魔法では無く、物理でもないとしたら何なのか全くわからない現象になるだろう。テラオはこのままでは埒があかないと判断したのか、自分の周囲に氷の壁を作ってシェルターにした。
分厚い氷の壁がテラオを守っている。見えない敵からのダメージがなくなり、氷の壁に何かが当たる音だけが響く。なぜ今まで思いつかなかったのか、見えない攻撃をあっさりと防いでいる。
そして部屋にも変化が。大きな氷で冷やされたおかげで部屋に充満していた湯気が晴れてきた。
「カエル? 大きなカエルだ」
十匹ほどのカエルが姿を現した。
壁に平べったく張り付き這うように移動するカエル。大きく腹を膨らませるとプッと空気の玉を放って攻撃している。
気配が感じ取れないことや空間把握に掛からなかったのは、擬態が得意なカエルの特性なのかもしれない。
「あぁ、圧縮された空気そのもので攻撃とか今まで考えてなかったよ……。無意識にお願いで呼吸のための空気を見逃していたんだね……」
姿を確認できて、落ち着いて考えることができれば簡単な相手だった。だが溶岩ゴーレムのあとでこのカエルという選択。ダンジョンの狙いに見事はまったと言うことだろう。
相手が見えれば攻撃を避けるのも倒すのも簡単だった。あっさりカエルを倒したテラオは次の敵を待つ。
緊張して待っていたテラオの正面で突如壁が崩壊した。さらに緊張したようだが、崩れた壁から出てきた物は扉だった。
――♪ぱんぱかぱーん
「タイムアタック小ダンジョン攻略おめでとうなのです。攻略タイムは二十八分なのです。福引き券は二枚になったのです」
扉を開けたテラオを迎える調子外れのファンファーレとメイの声。
昨日よりは早い展開だったが、撤退という逃げ道が塞がれた今回の攻略は厳しい物だった。
いつ終わるかわからない、どんな敵かわからない、そんな緊張感の続く状況がやっと終わり、テラオは安堵と疲労の入り交じった表情でぐったりしていた。
「今日はお知らせが二つあるのです。まず一つ目はこれなのです!」
とカウンター奥の幕をバン! と払ったメイ。そこには昨日と同じ景品リストが、いや一品増えていた。
【豪華! 福引き景品はこちら!
金:あこがれの! 小さな小屋一棟
銀:とっても頑丈! 武器または防具一式
銅:おいしい! 故郷の味を一品
白:うれしい景品! ノート一冊
黒:やったー! 戦闘糧食一セット
】
黒の景品戦闘糧食セット。なにがやったー! なのかは不明だが、食事が不要な今のテラオにあまりうれしい景品では無さそうだ。
「えっと、一ランク下の景品が追加されたってことは……、昨日一回引いておけば良かったのかな……」
「な! ランクが下とかとんでもないのです! 今すぐ訂正した方がいいのです」
「わ、わかりました。ごめんなさい当たったらいいなー戦闘糧食~。ほしいなー戦闘糧食~。いい物追加してくれてありがとう」
メイの圧力にあっさり負けたテラオ。感情があまりこもっていないようだが。
「もう一つのお知らせなのです。明日から小ダンジョンは大規模メンテを行うのです。明日と明後日はお休みなのです。三日後に三回分お楽しみいただけるので楽しみに待つのです」
大規模メンテとはまるでゲームのようだが、きっと何か思惑があるのだろう。あと三回攻略すれば福引き券が五枚貯まって一枚おまけがもらえる。どちらにしろ三日後なのだからまとめられても問題ない。納得したテラオはメイに了解の意を伝え、元の場所に戻してもらえるよう頼む。
「それでは三日後にまた会いましょうなのです」
ケモ耳がピコピコンと動くと、テラオは送還され部屋から姿を消した。




