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36,意外と手強い小ダンジョン

 焦りながらも手段を探すテラオ、諦めることなく最後まで足掻く覚悟を見せている。


「表面が駄目なら隙間から通せばいいじゃない!」


 今までの経験を思い出し倒せる方法を探していたのだろう。

 盗賊の洞窟クエストで糸状の魔力を体内に通し、中で膨らませてダメージを与える魔法を使うようだ。

 テラオはゴーレムの攻撃を避けながら指先から魔力の糸を四本伸ばして誘導し、両肩と両足の付け根の関節部カバーの隙間へ糸を忍ばせる。

 伸ばした糸の先に魔力を集め玉にすると。


「爆破!」


 属性なしの純粋に爆発するだけの魔法を発動させたそれは、バッコォォーン! と大きな音をたて爆発した。


 四カ所一斉に爆破された金属ゴーレムは両手足が変形して、まともに動けない物体となってしまった。


「あ、危なかった。拘束の強度がまず問題だったな、蔦のイメージだから千切られたんだ……。イメージの強化が必要だろうな」


(ワイヤーの、橋を吊り下げている強靱なワイヤーのイメージでお願いします)


 改めてイメージしたワイヤー拘束で金属ゴーレムの胴体を締め上げる。


 ビキビキ バギャァッ!


「で、できた。これで金属ゴーレムも怖くないね」


 めこめこに潰された金属ゴーレムは見る影もない、熱して急冷よりも実用的な攻撃手段を手に入れた。



 慌てて入ったこの部屋。金属ゴーレムにばかり目が行っていたようだが、今までと違った部屋になっている。

 入り口から正面の扉には、青色に輝く魔法陣のような模様が半透明に描かれ扉を塞いでいる。部屋の左右にもそれぞれ扉がありこちらは通れるようだ。


「正面の封印されているっぽい扉は残りの敵を全部倒すと開く系かな?」


 魔法陣は触れても透明な壁のよう、扉を封じている物のようだ。叩いても壊れそうにない封印は、順番通りに攻略しないと通れない系だろうとテラオは判断した。



 拘束魔法の強化に成功したテラオにもう怖い物はなさそうだ。自信満々に正面向かって右の扉を開き中を伺う。


(またゴーレムかな? 今度は拘束を切られることはないよ!)


 これならいけると判断したのか、飛び込むように部屋に入ると『触手拘束』『照明弾』を放つ。



 部屋の中には巨大な流体生物が!

 強化された拘束も流体生物には意味がなく、どろりと抜けられてしまう。流体生物は液状化した状態から、その形をゴーレムに似た姿になるよう集まりだし、テラオに覆い被さろうと迫ってくる。


 泥が波のように襲ってくる、テラオは慌てて回り込むと火の玉の魔法を数発ぶつける。泥を乾かして固めようという作戦だったのだろうが、巨体に対して小さな火の玉では効果はほとんどない。


「厳しいダンジョンだな……、もう余裕かと思ったらさらにその上を行く敵が現れるとか」


 テラオは次々襲ってくる泥の波を避けながら魔法を放つ準備をしている。


「【業炎の大玉】!」


 大きさだけでなく温度も高い業炎の大玉は、青白く燃える巨大な火の玉となって泥ゴーレムを包んだ。

 泥ゴーレムは泥の体を動かそうともがくが、高温で焼かれた表皮がぼろぼろとこぼれ落ちる。ひびの入った隙間から流体を出そうとするも強力な火力がそれを許さず、こぶのような形にすぐさま焼き固めてしまう。


 状況はテラオの有利になったかに見えたが、巨大なゴーレムを包むほどの炎だ、部屋の温度はどんどん上がりオーブンの中にいるかのような環境になっている。

 テラオは距離をとり魔法で厚い土の壁を作り出し陰に隠れると、さらに氷の壁を造り自身の体が蒸し焼きになるのを防いでいた。


 泥ゴーレムが焼けるのが先か、テラオが暑さでやられるのが先か……。時間は掛かったが、テラオの勝利で幕を閉じた。


「な、なんとか倒した。全然油断できないね」


 やっと落ち着いたテラオは部屋をぐるりと見回した。

 この部屋の扉は入ってきた一カ所だけ。ただし熱くなった室内は触ればやけどするような状況だ。テラオは氷の通路を作ると溶ける前に急いで渡り部屋を出た。


 一つ前の部屋に戻るが、出口と思われる扉の封印は変わっていない。テラオは残った正面左の部屋へと向かう。


 扉を開けてそっと首を突っ込んだテラオは慌てて首を引っ込めた。


「うひょー、このパターンもあるか……。小さいのがうじゃうじゃと数え切れないほど居るよ……」


 「兎に角やってみなきゃだね」と意を決し、扉から部屋へ飛び込むと『照明弾』の魔法を放ち剣を構える。

 中には膝くらいの高さしかない小さな木人形がびっしりと並んでいる。

 木人形たちは一斉にテラオのほうへ顔を向けズザッズザッっと行進してくる。


「これはこわい」


 一糸乱れぬ行進で迫ってくる木人形たち。テラオは火の玉を連続して放ち、数を減らして行く。

 魔法では大して減らせなかったが、ハイヤァ! っと剣でぐるりと振り抜くと、数十体の木人形が吹っ飛んで行く。だが数が多い。多少数が減っても奥から続々と襲ってくる小さな木人形。


「うひゃ、一旦撤退!」


 周囲の木人形をぐるりと払うと、入ってきた扉から飛び出した。


「このパターンの対策も必要だよね……、でも一体一体はすごく弱い」


 こっそりと覗き込んでみる。目標を見失った木人形たちは、元の位置に戻ろうと後退している。減らされた数はそのままで補充されることはないようだ。


「なるほど、途中撤退もありだね。これで全部復活されたら面倒だったよね」



 途中撤退も有効な手段と確認できたテラオ。部屋に戻ると敵集団の真ん中まで走り、ぐるんぐるん回りながら無双状態で木人形を吹き飛ばして行く。


 いったい何体いたのかはわからないが、当たれば一発で倒せる小さな木人形は楽な相手だった。


「数に圧倒されたけど、近寄らせなければ余裕だったね」


 部屋に居た全ての敵を倒した。ここも泥ゴーレムの部屋と同じく入ってきた扉しかない。


「これで封印が解けているかな?」



 中央の部屋に戻ると、扉の封印の魔法陣が青色から赤色に変わっていた。そっと触れてみると。


 パキパキ……、パリーン。


「おぉー、粉々に砕ける封印魔法陣ってかっこいいなー。っと、ラスボスかもしれない、油断できないぞ……」


 早速扉を開けて中を伺う、中は暖色系の明かりで照らされた部屋だ。

 天井や壁には豪華な装飾、床はふかふかの絨毯敷き、正面にはずっしりと立派な木製のカウンターが部屋の一面に、その手前にはなにやら大きな箱が置いてある。高級ホテルのエントランスロビーのような部屋だ。


(気配は全く感じられない、ラスボスの部屋っぽくないな……)


 危険はなさそうだと判断し、そっと入ってみるテラオ。


――♪ぱんぱかぱーん


「小ダンジョン攻略おめでとうなのでーす」


 少々調子の外れたファンファーレと、女の子の声にテラオは驚いた。


「え? だれ? えぇ?」


 気配は無いと安心して侵入した部屋で、いきなり女の子から声を掛けられたことに驚き慌てている。


「小ダンジョンの担当に急遽決まったメーメイドのメイなのです」


 メーメイド……。

 確かに彼女は羊の被り物をかぶり、メイド服を着ている。

 テラオよりちょっと小さなかわいらしい女の子なのだが、何故か羊の被り物を被っている……。羊頭の両脇から伸びたくるるんとした角は、ちょっとなでなでしたくなる可愛らしさだ。


(気配も魔力も感じ取れないってことは……、この子もベイスさんと同じ不思議な人なんだろうな)


「テラオです、よろしくおねがいします」


 メイの立つカウンター前まで進んだテラオ。ニコニコとご機嫌な彼女の態度に警戒心は消え去ったのだろう。


「はい、よろしくなのです。さて、小ダンジョン初攻略のテラオさんにご説明なのです。

 小ダンジョンを攻略すると報酬があるのです。こちらの『福引き券』が攻略の報酬となります」


 渡された物は金色に輝くぺらっとしたチケット。『ふくびきけん』とマジックで書かれた文字がやっつけ感を醸し出している。


「さらに、今回は特別に。そう特別に! 初回攻略報酬がございますなのです。

 な、なんと『講師陣に対して改選して欲しい点を、要望としてメニューにお伝えすることができる権利』でございますなのです。これはすごい報酬なのですよぉ!」


(び……びみょうかも、メニューに伝えるだけっていつでもできるんじゃないかな)


「初回報酬は今だけ、今だけなのですよ! 今すぐ要望をおっしゃってくださいなのです。さぁさぁ早く早くなのです」


 ぐいぐい迫ってくるメイ。唐突に要望と言われてもとても困るテラオ。


「ほらほら、講習でテンポが狂うような、色々支障がありそうな『あれ』とかあるのです。『あれ』を要望として出したらいいと思うのです」


(テンポが狂う? あー確かにあれが無くなれば講習がテンポよく進むかもしれない)


「それなのです、それ! さぁさぁ思い切って言ってみるがいいなのです!」


 人差し指をビシィと突き出し迫ってくるメイ。テラオは圧倒されているようで後ずさりしながら口を開いた。


「えっと、ペーターさんの台詞前のBGMとダンスを省略していただけたらいいかなーって」


「な! そ、そっち! そっちなのです?」


「いや、そっちもどちもこれしか思いつかなかったんだけど」


「むぅ、仕方ないのです……。要望はしっかり聞いてもらっちゃったのです。すごく仕方ないのです」


 なにやら思惑と違うことを言ってしまったらしい。

 だが他に要望と言われても思い付かなかったテラオは、どうしたらいいのかがわからずおろおろしている。


「さ、さて、気を取り直して通常報酬の福引きですが、商品はこちらとなっておりますのです」


 カウンターの奥の壁に掛かっていたカーテン状の幕をバン! と払ったメイ。幕の後ろにあったのは景品リスト。


【豪華! 福引き景品はこちら!


 金:あこがれの! 小さな小屋一棟

 銀:とっても頑丈! 武器または防具一式

 銅:おいしい! 故郷の味を一品

 白:うれしい景品! ノート一冊



「じゃじゃーんなのです」


「もしかしてメニューが言った福引きの冗談って元ネタはこれ?」


「ちがうのです。あの時のテラオさんの反応が面白かったので採用されたのです」


「そ、そうなんだ……。あれ? 僕の小屋はここの報酬に来たんだ。クエスト報酬かと思ってたんだけど」


「豪華景品がもらえる福引きなのです。福引き券は五枚ためると、一回おまけで六回引くことができるのです。ためないでいますぐ引くこともできるのです。さあさあどうするどうするなのです」


「う、一回やってみたい気もするけど……、悩むー。そ、そうだもし金が二個出たりしたら小屋二つになっちゃうの?」


「むー、捕らぬ狸のなんちゃらなのです。金が一回当たったら商品が変更になるのです、だから心配無用なのです」


「それぞれの確率とか教えてもらうことはできるの?」


「メイが用意した福引きじゃないので知らないのです。完全な運次第なのです」


 テラオは悩んだが、運の良さには自信が無かったのか、まとめて一回おまけの魅力に負けたようだ。


「ぐぅ、五枚ためておまけをもらいたいです……。今回はあきらめます」


「わかったなのです。武器と防具はこちらで片付けますので置いて行ってくださいなのです。次回もレンタル武器防具がありますので手ぶらで参加できるのです。

 ではまた次回お会いしましょうなのです」


 両手をパタパタと振るメイ。

 メイの被り物についているケモ耳がピコンピコンと動くと、テラオは転送されマイゴザへと戻された。



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