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35,小ダンジョン探索に行ってみよう

 やたらと長い一日を過ごしているテラオ。

 今日を無事に終わらせるためにも課題をこなしていかねばならない。

 残り二つの課題はどちらも難題だ。まずはベイスからの課題、新しい魔法防御を考えるというもの。


(今覚えているのは、反対の力で身を守る物理防御の魔法と、包んでつぶす魔法防御。きっとこれの応用なんだろうな……)


「魔法を纏った物理攻撃対策と、まとわりつく魔法の対策。課題の対象を二つ言われたけど、一つの魔法でどちらにも有効なものってことだよね」


「共通するところはーっと、迎えに行って包んでつぶすでは防ぎにくい物と言うことかな。それと物理の防御じゃ防げない。それから……」


 向かって来る魔法剣や蛇のように纏わり付く魔法を想像しているのか、剣で受ける仕草をしたり、蛇に絡まれもがいているような仕草をしたり、おかしな行動をしているように見えるが真剣だ。


「あぁ、そっか。自分のテリトリーの中に魔法が入ってくるのを防ぐことができれば、どちらの魔法も成立しないってことになるのでは?」


 ベイスに言われた宿題は、『対策をなんとなく考えること』つまりここまでで達成しているのだが、テラオはどうすればそれができるかを考え続けた。


「反対の力で打ち消すとかどうかな、光と闇、炎に……あれ? 水じゃ水蒸気でダメージありそうだな」


(いやいや、反対の魔法って相殺できるようなことはなかったよね。暗闇空間の中で光の球が使えたし……)


「いくら魔力にお願いって言っても近くの魔法は全部不成立なんて無理だろうからな……。いや、試す前から無理とか思うのはいけないよな」


 何事も試してみてから結論を出すと意気込んだテラオ。スイカ位の大きさの魔力の球を作ると、その内部は魔法が成立しない空間になるようお願いをしたようだ。


「これに魔法が通らなければ成功だよね」


 今作った空間に、光の球が通過するように飛ばしてみると……。


「おひょ! 光消えたよ!」


 いきなり一発成功の好成績。

 だが成功はしたものの不満があるようだ。何度か試してみるがピンポン球サイズの光の球を消すだけで、スイカ大の魔力を使うと言う効率の悪い魔法と言うことが判明する。


「こういうときの節約魔法でしょう!」


 光魔法で成功してテンションの上がったテラオ。そのあと節約魔法で効率を上げた魔法無効空間に、氷や炎、風や闇などいろいろな魔法を通過させてみる。結果どの魔法も全て空間の中で消すことができ大満足な様子。


「できたー。でもこれって自分の魔法も放てなくなる? 自分の魔法だけは通すようにとか、お願いの仕方でなんとかなるかな……」


 これ以上は一人での実験は難しいと判断して、この『魔法無効空間』で宿題は一応達成ということになった。




 休憩も入れずに次の課題に取り組むようで、テラオはノートを見ながら思い出し、ケンサンから受けた宿題について考えている。

 ケンサンに診断魔法を掛けてもらったときにテラオが感じていたのは、体の中を魔力が往復したと言うこと位。あれが何をしていたのかを理解できないとこの課題は終わりそうにない。


「行って帰ってわかること……、異常があるかどうかとか。いやいや、そこまで便利じゃないよね。だとすると……旅の思い出? 道順? マッピング? おっ! マッピングかもしれない」


 体内のマッピングを魔力に頼んでその情報を渡してもらう。そんな閃きでこの課題の解決策を思いついたようだ。早速やってみようと左腕に右手の平をかざして魔力にお願いをするが。


「ぬぅぉ~。頭の中に情報が溢れるー、これはつらい」



 不用意に放った診断魔法の、あまりにも多い情報量にダメージを受けたテラオ。気絶しそうになったのか、一瞬ふらっと倒れそうになるがなんとか耐えた。耐えられたのはテラオが成長している証だろう。


「すごい情報量だったけど、一応成功していたのかな……。多すぎる情報で訳がわからなかったけど」


 テラオは自分に起きたことを分析してみるようで、瞑想するように静かに座り込んだ。

 魔力が持ち帰った情報は頭に溢れるほど。それを少しずつ分けて思い出し、どんな情報だったのかを整理しているらしいが。端から見ると座禅を組んでなにやらもごもごと呟いている小僧のような姿だ。


「あれは魔力が体全体を巡って得た僕の全身の情報だったのかもしれない!」


 自己分析で何が起きたのか予測がまとまったようだ。

 どこまで細かい情報だったのかは不明だが、体全体の詳細な情報を一気に送られたのだとしたら、並の体では耐えられないのではないだろうか。

 気絶しそうになるだけで済んだのは、高性能ボディーのおかげだったのかもしれない。


「ケンサンにやってもらった時は手をかざした部分だけを診断してたよね。魔力の制御……いや、お願いする範囲の問題かな」


 どこを調べてというお願いが足りなかったと言うことか。今度はしっかりと範囲を絞って診断魔法を放ってみるようだ。再度左腕に右手の平をかざして魔力を放つテラオ。


「ぐぅ、まだまだ情報が多い……」


 くらっとすることはなかったが、満足な結果ではなかったようだ。


「うぅ、この情報量を処理できる頭脳があれば成功なんだろうな……。無い物ねだりしてもしょうがないよね、できることをやろう」


 なるほど、ケンサン達なら処理できる情報量でも、並のテラオでは難しい物なのかもしれない。そのまま真似をするのではなく、身の丈に合った魔法を開発する方向で進めるようだ。


 しばらく悩んでいたが、何か閃いたようでピコンとテラオの体が跳ねた。


「そっか、レーダーみたいに線状に走査して、頭の中で組み立てればいいかもしれない」


 レーダーみたいに空間把握。これはベイスに『おもしれぇこと』と言われた方法で、普通はふわっと全体に魔力を広げると楽だと教わったもの。

 だが情報が多すぎて困る診断魔法では、負荷を少なくする手段として使えると気が付いたようだ。

 魔力の壁をくるんくるん回していたテラオが、ベイスに周囲にふわっと魔力を配れば楽だぞと言われた時、頭の中で点と線を組み立てなくて良くなったと喜んでいた。

 今度は逆に頭の中で組み立てることになってでも、情報量を減らせば診断魔法を自分のものにできると判断したようだ。


 思いついたら早速実行とばかりに、左腕の上に右手をかざし腕の上を往復させ……。


「頭の中に左腕の輪切り画像が浮かんでくる! 成功だ!

 で、できたよね? 診断魔法完成だよね」


 これで今日の宿題は全て終わった。と言うことは腕時計さんが朝をしらせ――



――♪ピンポロポン。本日のiフィールド小ダンジョン未達成です、行きますか?


 長い長い今日という一日の終わりを告げることはなく、小ダンジョンのお誘いだった。


「お、これは宿題全て終わったと言うことだね。小ダンジョン行きたいですお願いします」


 無事宿題完了のお墨付きをもらい、さらに小ダンジョンというイベントに喜ぶテラオ。慌ててリュックを背負い準備をする。


「あっ、武器を借りてきます。少し転送待ってください」


――♪ピンポロポン。不要です、貸し出されますのでご心配なく。


 至れり尽くせり小ダンジョンらしい。

 と、そういえば、腕時計さんが普通に返事をしてくれたのはこれが初めてではないだろうか?


 手ぶらで行けると聞いたテラオは、期待溢れる笑顔で待機している……。


――♪ピンポロポン。iフィールド小ダンジョンへ転送します。



  ◆



 転送された場所は扉が一つだけある小部屋、中には武器防具各種が並べられていた。


「つまりここで装備を調えて出発ってことだよね」


 腕時計さんの言った通り、普段テラオが装備する武器防具とほぼ同じ物もちゃんと準備されていた。全く心配不要のお気軽ダンジョン攻略になりそうだ。

 テラオはそそくさと装備を調え、物理防御や気配察知などの戦闘準備を整えた。



 警戒しつつ扉を開けるが内部は真っ暗で何も見えない。テラオは頭上にヘッドライトの魔法を灯して中へと進む。

 扉の先は大きな部屋になっていた。岩をきれいに切り出して作ったような場所で、高さも幅も奥行きも二十メートルほどある広々とした空間。部屋の奥には同じような扉がもう一つ見える。


「時間掛からないダンジョンって言ってたから単純で短い感じかな。敵も二体だけか」


 落ち着いているようだが敵は迫っている。

 シノービのダンジョンでラスボスだった木人形が二体。ヘッドライトの明かりに反応し、先制攻撃を仕掛けるべくテラオに迫っている。


 が、テラオは全く動じることなく範囲拘束魔法の『触手拘束』で二体をまとめて拘束すると、一気に搾るように倒してしまった。


「見えないからっていきなりヘッドライトを使うのはだめだよね……。まずは気配察知と空間把握で中を探って確認。それから光を天井にでも飛ばすほうが安全だな」



 ヘッドライトを消したテラオは、次の扉をこっそり開けて内部を伺う。


「あれ? 中が見えない? と言うか空間把握も魔力探知も通ってない感じ?」


 扉を開けた隙間の外からでは中を伺うことができないらしい。いきなり失敗してしまったことで慎重になっているテラオは、無闇に突っ込まずにいろいろできることを試してから進むことにしたようだ。


 外からでは何もわからないと判断したようで、おっかなびっくり扉の中にちょっとだけ首を突っ込む。


(お、わかるわかる。やっぱり扉に結界? いや扉をまたいで違う空間になってるのかな)


 首を扉の外に引っ込めると、手を突っ込んだり引っ込めたりし始めた。


「手だけでも空間把握はできるね、魔力探知も……できた、気配は……だめか。中の敵は五体、二組に分かれていて……」


 また首を突っ込み、気配の大きさで中の敵の種類を判断しようとしているらしい。その結果、三体と二体の二組の敵は種類違うモンスターらしいことと、二体のほうが大きな気配だとわかった。


 次に扉の前から魔法を放ってみるが、内部に通すことができずにかき消されてしまうことがわかった。さらに手だけを突っ込んで魔法を放とうとするが、何故か発動した魔法が消されてしまった。

 安全地帯から一方的に攻撃することはできないようだ。


 さっと中に入って魔法を放ってすぐに外に出る。ゲームで言う所謂釣りで敵を挑発して見るも、扉の外まで追ってくることはなく定位置に戻る。


 色々試してわかったところでやっと中に進むようだ。


「よし、大体わかった。正々堂々と部屋の主を倒して進めってことだね」


 意を決したテラオは素早く部屋に飛び込む。二組それぞれに『触手拘束』を放つと、目視するための魔法を放つ。

 「【照明弾】!」ヘッドライトよりも強めの光を天井に向けて飛ばすテラオ。新しい魔法は光球を上空に飛ばす魔法だ。


 姿を確認できたモンスターは木人形三体と石のゴーレム二体。石のゴーレムは初めての相手、これは詳しく確認したい相手だろう。

 木人形をぐしゃっと潰すと、拘束されている石のゴーレムを念入りに調べ始めた。


 ゴーレムは二メートル近い巨体でがっしり体型。バケツをひっくり返したような頭部に、目だけがぎょろっと光っている。木人形と比べると力もかなり強いらしく、拘束を引き千切ろうともがいている。

 改めて一体ずつに分けて拘束し直し、片方を潰そうとするが堅くてそれは叶わない。水の玉で包んでみるが柔らかくなることもない。剣で刺してみるが通りにくい、だが関節部分だけは少し柔らかくなっていて刃を通せることがわかった。


 拘束から逃れようとゴーレムはじたばた暴れるが、テラオは作業のように関節部分をぐさぐさと刺して腕と足を落としてしまった。胴体だけになったゴーレムはゆさゆさとしか動けなくなっている。


「堅くて倒しにくそうだなー、どうすれば壊せるかな……」


 大人しくなったゴーレムにいろいろ試して倒し方を研究するらしい。さまざまな種類の魔法を当てて様子を見るうちに、火の魔法で熱々に熱してから水の魔法で包むと『パキーン』と音をたてて割れてしまった。


「熱してから急冷でパキッと壊れるか……、実用的じゃないよな。まあ倒せたからいいことにするか」


 確かに熱して冷ます方法は時間が掛かりすぎて実用的では無さそうだ。



 二体倒し終わったテラオは次の部屋へ、扉をちらっと開け中を伺う。


(サイズと気配が大きいけどゴーレムが一体だけ? 楽勝パターン?)


 テラオは『拘束』『照明弾』を放ち部屋に飛び込んだ。


 現れたのは石ゴーレムをそのまま大きくした三メートルを超える金属製のゴーレム。

 照明に照らされた金属ゴーレムは、拘束はブチブチと引きちぎり右腕を大きく振りかぶっている。


「うは、やばい」と、咄嗟に脇に避けるテラオ。


 バコォッ!


 巨大な拳で殴られた岩の床は弾け、破片ががバチバチと飛んでくる。

 テラオは慌てて【拘束拘束拘束、触手拘束!】と腕、胴体、足をそれぞれ拘束し直す。

 剣で金属ゴーレムに殴りかかるテラオ、グァっ! グゥオゥ! と叩きつけるが全く通らず弾かれる。間接部には石ゴーレムにはなかったガードが追加されていて刃を通すことができない。

 熱して冷やす魔法を試してみるが、金属は急激な温度差でも耐えるらしく効果が全くなかった。


「まずい……、本格的にまずいかも」


 いろいろ試している間に金属ゴーレムはもがき、腕や足の拘束はすでにちぎれて自由になっている。


「どうするどうする……、爆破? いや表面で爆破してもだめそう。あーどうする」


 焦るテラオは金属ゴーレムの強烈な攻撃を転がるように逃げ回りながら攻撃手段を探す。

 普通の攻撃が通らない金属ゴーレムを相手に、有効な打開策を見出すことはできるのだろうか。



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