34,ファスト村でのんびりしよう
「よし、ここが村長の家だ。おまえの収穫したシイタケもここで売るぞ」
村長の家は村の真ん中辺りにある他の家の三倍ほどの大きさの家だった。村が豊かなことがこの家の大きさからも覗える。
入り口にはスプーン形の看板、テラオは読めなかったが文字が彫られてるものが掛かっていた。
「村長ーっ、来たぞー」
「おう、ベイスか!」
いきなり扉を開けたベイスが大声をあげた。返ってきた村長の声は意外と若い。
(ずいぶん若い村長さんだね……)
村長と言えば老人。そんなイメージが崩されたようだ。
家の中にはテーブルが幾つも並んでいる。客は誰も居なかったが、どうも食堂として使われているようだ。入り口にあったスプーン形の看板は、食堂の目印だったのかもしれない。
入って左側にカウンターがあり、その奥はキッチンになっている。一人下ごしらえで忙しくしているのが若い村長だ。
「村長、こいつとシイタケ買い取ってくれ」
ベイスは肩に担いだイノシシをペシペシ叩く。
「でかいな。こっちに持ってこられても解体できないから裏に頼む」
イノシシとシイタケを裏口へ持って行き食堂に戻ってきた二人。ベイスはどかっと席に着き、正面の席にテラオも座った。
「これでも飲んで待っててくれ」と言って村長がテーブルにドンと置いた物は、木のジョッキに入ったビールらしき物と、小さなコップに入ったお茶らしき物。
「ぶはぁ、うめぇな」
置かれるやいなや飲み干したベイスだが、テーブルに戻した途端になみなみと注がれた状態に戻る。
ベイスが使うジョッキは無限にビールを生み出すらしい……。
他の人が見ている所で堂々と無限ビールを飲んでいるが、おかしいと思われたりはしないのだろうか。
「待たせたな、これで買い取るがいいか?」
村長が小袋に入った硬貨と思われる物をベイスに渡した。ベイスはちらっと中を確認する。
「おう。色付けてくれたのか? ありがとよ」
「でっかいからな。今日の献立はこいつを使ったイノシシフルコースだな。ところでそのチビは?」
「あぁ、テラオってんだ。ふらっと拾ったオレの子供だな」
「相変わらずだな。テラオ、ファスト村長をやってるヨサークだ、よろしくな」
「テラオです、よろしくお願いします。村長といえばお年寄りのイメージだったので驚きました」
吹き替えにも大分慣れたのか、テラオも普通に会話できるようになっている。
ファスト村の村長ヨサークは若旦那といった雰囲気。力仕事よりは事務仕事という感じのほっそりとした体型。
「あぁ、うちのじいさんさっさと引退しちまってよ。村長やめて漁に出てるんだよ、そっちのほうが楽しいとかなんとか言ってな。ははは……」
「な、なるほど」
面倒を押しつけられた可哀想な若旦那だったようだ。
「そのじいさんそろそろ戻ってくる時間じゃねぇか? ちょっと昼飯仕入れに行ってくるか」
「おい、材料から料理まで全部ただで済まそうとしてないか?」
がははと笑いながらベイスは村長の家を出て行く。テラオは慌ててついて行った。
湖方面へのんびりと歩きつつ、ベイスは村長宅のことを語り出した。
「村長の家は食堂と宿をやってるんだ、おまえも一人でこの村に来たらあそこに泊めてもらうといい」
「村長一人でやってるの?」
「いや、嫁さんと娘が居たはずだ。客が出て行った後の時間だから掃除でもしてるんじゃネェか? しらんけど」
一人で異世界探索。そんな光景を想像しているのか、テラオはにやにやしながらベイスについて歩いて行く。
きちんと平らに整備された道は、ぼやーっとしながら歩くテラオにも優しい。異世界をのんびりと旅する転成後の生活はなかなか楽しそうではある。
二人は港に到着した。
まんまるな湖の周りを険しい山がぐるっと囲っている、村のある辺りだけ山が欠けた形。この広い湖の恵みはファスト村が独占できるような地形だ。
「おー、湖だー広いね。なんだか火山の火口みたいに丸い湖なんだね」
「ここは隕石が落ちた跡だ。たっぷり貯まった水がこの辺りからだっばーっと漏れ出して、その跡に村ができた。この辺の土地が豊かなのもその影響かもしれねぇな」
「なるほど、まさかの隕石落下跡とは……」
「作物はたくさん取れるし、魚もたっぷり捕れるからな。ここは飯がうまくていい村なんだよ」
丁度朝の漁から戻った小さな木造船が、テラオ達の立つ桟橋に帰ってきた。
「ベイスか、久しぶりだな。今日は大きいのが捕れたから持って行け、どうせただ飯食いに来たんだろ」
「でけえ鱒だな、ありがてぇ遠慮なく持って行くぜ」
どうやらこの漁師が元村長のようだ。
久しぶりだと言ってたのに、昔なじみのような元村長とベイス。不思議な雰囲気は気にしたら負けなのはいつものことだ。
さっそく宿へと戻った一行は、もらった鱒を村長に渡すとさっき座っていた席へと落ち着く。
昼にはちょっと早い時間だが、村長はいやな顔一つせずに調理を請け負ってくれた。
しばらくして出てきたものは、『鱒のカルパッチョサンドイッチ』というなかなか凝った料理。
ビネガーの酸味と良質なオイルをまとった鱒に、粗く岩塩を砕いたものと胡椒が振りかけられ、辛みの残った玉葱らしきものを挟んだふっくらパン。
田舎村の村長宅兼食堂で出される料理が、こんなにおしゃれなものだとは予想外だ。
「な、うまい料理出すいい村だろ。湖あり山あり畑あり、あとは海があれば最強だよな」
「あはは、ベイスはおいしいものがあればいい村なんだね」
「大事なことだからな。がはは」
おいしいものが食べられれば心も豊かに、健やかに育つというもの。異世界っぽさがあまり見られないが、それはそれ。
「さて、用事も済んだし帰るか」ベイスがそう言うと両手をバチッと合わせる。
◆
唐突に雲上の孤島に戻されたテラオ。
「ダイナミックな食い逃げですね……」
「ちげぇよ! ちゃんとただ飯って約束だからいいんだよ」
「ふぅ~ん」と、ちょっと納得できない風なテラオ。次に行く機会があれば是非お金を払っておいしい物を食べて欲しい。
バン!
【日用品を手に入れよう その二
○フィールドクエスト(体験)○
クエストクリアー
クエスト報酬:希望の日用品二個まで】
「クリアーおめでとう、報酬は鞄となににする?」
「うーん、鞄をリュックにして欲しいな、フィールドクエストで荷物持つときに便利かなーって。あともう一つは方位磁石をお願いしたいな」
「なるほどね、じゃあその二つを報酬にするわね」パチン!
目の前に現れたのは、布製のリュックサック。
布と言っても帆布のような丈夫な素材で、荒っぽい使い方でも耐えられそうな物。ランドセル位の大きさで、生成り色したシンプルで長く使えそうなデザイン。
テラオの好みにぴったりだったようで、大喜びで受け取るとすぐに背負い調整を始めた。
「方位磁石はここでは使えないから……、そうだ! 専用腕時計に組み込んであげるわ」
というとメニューはテラオの腕時計さんにぺたっと触れる。
「指さしながらぐるっと回ってみなさい」
メニューに言われるまま、テラオは人差し指を伸ばし、小さく前に倣えの格好でその場をくるりと一回転。
「お、腕時計さんの重さが変わる? これはなに?」
ある方向に向けると腕輪の重さがわずかに重くなるのか腕が少し下がる。離れると元の重さに戻ようで、不思議な状況にテラオは驚いている。
「北向きだと重くなるようにしておいたわ。便利でしょ」
「方位磁石持ち歩かなくていいから便利だよ! ありがとうメニュー」
くるうことも壊れることもない、荷物にもならない腕輪に組み込まれた方位磁石機能は、実はかなりすごい物なのではなかろうか。重さが変わるという機能もテラオの前世の常識では考えられない物だろう。
「どういたしまして。リュックのほうもよく見てね、フィールドで使いやすくしておいたから」
リュックには肩掛けひもの部分にペン差しがついていたり、背当てのクッションに横からノートを入れられる大きなポケットがあったりと、使い勝手を考えた作りになっていた。
「おー、フィールドでのマッピングで使いやすい作りになっているんだね。何から何まで大感謝だよ」
「よかったな。武器防具はオレが戻しとくから帰って宿題でもしてろ」
フフンとのけぞるメニューの横にいたベイスに追い出され、リュックを背負ったテラオはマイゴザへと戻った。
ゴザへと戻ったテラオは、早速ノートとペンを鞄にしまう。
ただし、シノービからもらったペンだけは大事そうに本棚の上に置いた。万が一にもなくしたり壊したりしたくないのだろう。本棚の上にはペンギンとペンが並べて飾られた。
「さて、宿題やらないとなー。いっぱいあるから何からやろう」
今日の宿題として出されている課題は、ケンサンから出された診断の魔法を理解すること。これは一番優先度が高い。これが終わらないと朝が来ないことは明言されているからだ。
次にベイスから出された魔法防御の考え方。魔法をまとった武器や、まとわりつく魔法をどう防御するかを考える。これは終わらないと朝が来ないということはないようなあるような……。結局『しらんけど』ではっきりしていないのが怖いところ。
最後に、本当は一番優先したいだろうシノービの講習で感じた課題。走ったときの歩幅が、歩いたときの何歩分かを調べること。やっておけばシノービに褒められそうだというテラオの邪心が覗く自習課題。
時間があったらシノービのくれた特別報酬、腕時計さんに追加されたiフィールドダンジョンに行ける機能を使ってダンジョン探索が、今日のテラオに課された宿題だ。
「ははは、宿題……多いな」
自分で望んだ手段を増やすための講習なのだから、ここは頑張り所だろう。
「あー、もしかするとケンサンの宿題が終わると朝になっちゃうかもしれない。となると他のことができなくなっちゃう可能性があるよな……。ということはケンサンのを最後に回して、他から済ませたほうがいいかな」
時間はやたらとあるこの雲上の孤島だが、無駄な時間を過ごすわけにはいかない。
テラオは自分なりに考えて行動するようになっていた。少しずつだが成長は認められる。
リュックと一メートル長さの『ただの棒』を持ち出し訓練島へ行くと、土でできた棒を魔法で作り百メートル四方の正方形をしたコースを作り出した。
テラオはしばらくコースをぐるぐる走ったり歩いたりを繰り返し、メモをとりながら歩数と距離を調べていった。ついでに早歩きも加えたりと、一通り調べることが終わると、満足げにマイゴザへと帰った。
これで宿題の一つが片付いたことになる。シノービの担当するマッピングの課題から始めたことに邪心はなかったはず……。




