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33,二回目の日用品クエストに行ってみよう

 アルバイトは箱に七千百四十四回気絶寸前まで魔力を込めるという、単純だがとても厳しいものだった。驚くテラオにケンサンは淡々と説明を続けた。


「そうですね。ここでは数秒休めば魔力は全回復しますから、比較的簡単な仕事ですね」


「こ、これで簡単……」


「やり方も簡単です、蓋を開けて瓶に触れ魔力を込める。

 君の魔力の容量に合わせてありますので、気絶寸前まで込めると瓶が丁度満タンになります。魔力は色の付いた液体になりますので、振ってみて気泡があったら手抜きをしてると言うことになります。そういった物はやり直しになりますので気をつけて下さいね。できた物はこちらの空箱に入れて下さい」


 椅子の反対側に空箱を置くケンサン。テラオの目にはハイライトが無くなっている。

 とても簡単とは思えない仕事だが、なにやら決意したようにテラオの目に光が戻ってきた。ちょっとにやんりと嫌らしく笑みを浮かべている。

 先ほどのペーターとの会話で、十六歳ボディーになったらダンスパートナーがどうとか何か勝手に期待していた。きっと不純な目標のためにやる気を絞り出したのだろう。


「ガンバリマス」


 謎のチケット一枚は、緊急クエスト一回でやっともらえるものだ。

 それ相当のきつい仕事だろうとは予想できただろうが、気絶寸前を七千回以上とはさすがに想像できなかっただろう。

 自分の身を自分で絞るような過酷なアルバイトが始まった。



  ◇



「お、終わりました……」


 すっかり干からびたようなテラオが机にぐたっと突っ伏し、蚊の鳴くような弱った声で終わったことを告げた。


「全部満タンになっていますね、よろしい今日のアルバイト完了です。預かっているチケットは合計四枚になりましたね」


 ちらっと見ただけで全部満タン手抜き無しと確認したケンサン、さすがである。

 テラオは手抜きなど一切しなかった、ちゃんと真面目に魔力を絞り出した。報酬のため、十六歳ボディーのため、シノービと釣り合うボディーのためには妥協は許されないのだ。


「ありがとうございましたー」


 体力も魔力も満タン状態の高性能ボディーだが、気持ちはすっかり干からびてしまったのか、とぼとぼとマイゴザへと戻るテラオの後ろ姿は頼りない。


 バン!


【日用品を手に入れよう その二

 ○フィールドクエスト(体験)○

 フィールド:剣と魔法のファンタジー世界17(ファスト村付近の山小屋)

 テラオ:9歳

 同行者:ベイス(父親役)


 シイタケを二十本採取しよう。

 採取したシイタケは、ファスト村へ売りに行こう


 レンタルアイテム:鉄製武器一種類

 クエスト期限:一日間

 クエスト報酬:希望の日用品二個まで】


「うけますか?」


「おー、早速クエスト用意してくれたんだ! ありがとうメニュー。当然受けます」


「あはは、さっきまで干からびてたのにもう元気ね。じゃあベイスの小屋へ行くわよ」


「通学用鞄ともう一つは何にしようかなー」


 ついさっき提案された日用品クエストを、もう用意してくれたメニューはさすがだ。笑顔に戻ったテラオはベイスの小屋へ向かう。

 さっきまでのへろへろ姿が嘘のようだ。


 小屋の扉を開けたテラオは、「おとうさん!」と一言。


「だーかーらーよー、オレをからかうなってんだよ。まったく……、んじゃいくぞ」


 やっぱり今回もベイスの顔は赤黒い。照れているようだ。


 ベイスがパーンと両手を合わせると周囲の風景が一変する。



   ◆



 現れた場所は前回来た時と全く同じ場所。

 だが前回のようにいきなり大声で叫んだりしない。そんなテラオにちょっと感心した様子のベイスが声を掛けた。


「実はな、今回のクエストは急だったからすっげー楽なんだよ」


「え? 岡マリモより?」「もっと簡単だな小屋の裏を見てこい」


 一応油断しないテラオは周囲の気配を探りつつ山小屋の裏へと回る。

 そこにはシイタケ栽培の原木らしき物が井桁に組まれていくつか置いてあった。


「えーと、もしかしてですけど……。採取ってここからですか?」


「だな。二十本選んで取ったら終わりだ」


「えー、簡単すぎますよー」


 山へシイタケ狩りに行く物と思っていたのだろうが、まさかの原木栽培シイタケの採取。それも到着地点から歩いて数歩という簡単すぎるクエストに驚くテラオ。


「まあ、村に売りに行くってのが今回のメインイベントだな。袋やるからさっさと採取してこい」


 小さな麻の袋を受け取ったテラオは、肉厚のオイしそうな所を選んで二十本採取する。


「おわりましたー」「親子設定の言葉遣い忘れんなよ。んじゃ小屋に行って装備整えてから村へ出発だ」「はーい」


 ベイスと共に小屋の武器防具置き場で装備を調える。テラオは前回と同じく皮防具に片手剣と盾を持っている。

 ベイスは武器は特に持たず、いつの間にか用意したイノシシらしき物を肩に担いでいる。

 手足伸ばしたらベイスと同じ位ありそうなイノシシ。かなり大物だ。


「ようし、準備できたな。いくぞー」



  ◇



 のんびりと砂利道を歩く二人。

 今日はテラオが雲上の孤島に来て以来一番長く、そして充実した一日になっている。

 二回目のドサイル村緊急クエストから始まり、二回目の盗賊の洞窟クエスト、反省会があって、いつもと同じ訓練に治癒魔法講習、さらに加えてアルバイトとこのクエスト。これが終わったら宿題も待っている。

 テラオの一日はいったい何時間なのだろうか。


「今回は黄金色に輝く麦畑が見られたな」


 前回来た時は緑色の麦畑だったが今回は黄金色の穂が揺れている。

 暗い森を抜けると風に揺れる金色の麦の穂が視界の端まで広がるという演出は、テラオでなくても感激してしまうだろう。


「村までこの道をまっすぐだ。この辺りで丁度半分来たって所だな」


 森と畑の境目辺りで丁度半分。小屋から村までは歩いて一時間位の距離になるらしい。


「そんなに大きくない村だって言ってたよね」


「だな、ドサイル村の倍位の規模だ」


 緊急クエストで行ったドサイル村。

 あのクエストは現実ではなかったが、実際にある村を元に作られているらしい。その倍位ならせいぜい六十人程度の村と言うことになるだろう。


「そのくらいの村にしては畑が広いよね」


「このくらい、いや確かに広いな。やる気が溢れてるのかもしれねぇな。がははは」


 やる気溢れ過ぎな気がするが、豊かなのは悪いことではない。


 村への道を二人は歩いて行く。ちなみに油断無く周囲の警戒をしていたテラオは、気配察知で見つけた近場の岡マリモをもれなく踏みつぶしている。

 前回は発見に手間取っていたが、こういった所で成長がみられた。



  ◇



 村の入り口が見えてきた。

 周囲はテラオの身長ほど高さでぐるりと囲われた石垣。ドサイル村より守りが堅そうに見える。道の先には見張りと思われる男が一人立っていた。


「よし、村に入るぞ。驚くことがあるかもしれねぇがあまり顔に出すなよ」


 何があるのかとびくびくなテラオ。

 何があってもベイスが居れば何とかなるだろうが、ビビりはまだ直っていないようだ。


「お、ベイスさんか! 朝早くからでっけーイノシシ担いでくるとは、相変わらず元気だな。そいつを売りに来たって所か?」


「おう、でっけぇのを仕留めたんで持ってきた。それからこいつはテラオだ、その辺に落ちてたのを拾ってな、俺の息子だ」


「エライ拾いもんだな、わははは。俺はゲイト、このファスト村の門番やってるんだ。テラオって言ったなよろしくな」


「よ、よろしくお願いします」


「んじゃ通るぞ、早いとここいつを売っちまいたいからな」


 ベイスに引っ張られて村の中へと進んで行くテラオ。

 何だかぽかーんとしているテラオは何かに驚いているようだ。


「おら、正気に戻れ!」後頭部をぺしっっと叩かれたテラオは、やっと驚きから復帰した。


「えと、村人もベイスも夜中の通販番組みたいな感じだったから驚いちゃって」


「ガハハ、だから驚くって言っただろ。これは吹き替えって奴だ」


「へ? 吹き替え? は? どういうこと?」


「おまえのために豪華声優陣がこのセカイの人々の台詞に被せて、おまえにわかる言葉で翻訳吹き替えしておまえの耳に届けてる。

 おまえのしゃべる言葉も口から出る前に声優が吹き替えて出している。

 まあそんな感じだ。ちなみに相手に違和感が無いようにしてるから安心していいぞ」


 あまりにすごいことなのだが、毎度よくある深く考えても仕方ないことなのだろう。

 テラオ一人のためだけに、これ程大がかりなことをしてくれる。

 雲上の孤島の人達にとってはそれほどでもないのかもしれないが、恵まれ過ぎな環境に感謝しないと罰が当たりそうだ。


「だが、これもフィード体験のうちだけだ、面倒だしな。本番フィールドでは強制的に言葉覚えさせられるだろうから覚悟しておけ」


 やはり面倒なことだったようだ。『強制的に』の部分が非常に気になる点だが……。まあきっと悪いようにはされないだろう。


 驚きのあまりぼーっとしながら歩いていたので、周りを全く見ていなかったテラオ。改めてキョロキョロと村の観察を始めた。


 入り口からまっすぐ通っている道は手の平ほどの石が敷き並べられ、コンクリートのような物で固められている。

 道をまっすぐ抜けた先には湖が見える。小さな港があり、湖には木製の小舟が浮いている。

 空荷の荷車を引いた村人が数人村の外へと向かっていった、収穫した麦を積むための荷車かもしれない。だが何かが荷車とは違う……大事な何かがどこにも付いていない。


「あ、あれ? あの荷車に車輪がついてないような……。浮いてる?」


「ありゃ魔道具だな。あんな物はそこら中にあるからいちいち驚くんじゃねぇぞ。田舎者っぽくて恥ずかしい。ガハハハハ」


(異世界は中世ヨーロッパ風だと思っていたけど全然違うぞ。魔法を使った所はもしかすると前世の世界より進んでいるのかもしれない……)


 魔法のある『剣と魔法のファンタジー異世界』は、テラオが当初考えていた中世ヨーロッパ風世界とは違う世界だったようだ。

 その辺の説明をしてもらわず、勝手に思い込みで異世界を決めつけていたテラオの失点だろう。


 車輪の無い荷車に目を奪われていたテラオ。しばらくすると気を取り直して村の観察に戻った。

 洗濯物を干している村人、数人集まって井戸端会議中の女達、湖に向かって走って行く子供達と、なかなかに賑やかな村の風景が広がっている。

 目に入る家の数は四十件以上はあり、どう見てもドサイル村の四倍以上の規模はある村。それぞれの家も石壁に木の屋根と頑丈そうな造り。

 どう見ても村の規模がベイスの説明とはずいぶん違う。


「ベイス……、聞いてた村の規模より大きいね」


「だ、だな。そういえばしばらく来てなかったからな。ガハハハ」


 村の規模が倍以上になるほどしばらくとは、一体どのくらいぶりなのかは聞かないほうがいいのかもしれない……。

 しばらくぶりなのに入り口のゲイトと知り合いのように話していた、というのも矛盾だが。

 まあ、毎度よくある不思議なことなのだろう。



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