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32,iフィールド野戦病院

 ケンサンが胸のバッジを叩くと、辺りの風景が一変。


 戦場にある怪我人収容施設と言った所か、テントの中には十二床のベッドが等間隔で並んでいる。

 不思議なことに、ベッドの周りだけ色が無く白黒の世界。そこだけ色が消されたような光景は不気味だ。

 ベッドに寝ている患者は誰一人動かない、まるでベッドには蝋人形でも置かれているのかに見える。


「君も何度か体験しているでしょう、ここはiフィールドに作られた野戦病院です。

 私が作り出した怪我人ですのでご安心を。雲上の孤島には怪我をするような人は居ませんので訓練できませんからね、はははは。

 さて、本日はチュートリアルですから、本格的な治癒魔法の練習や行使は次回からとしましょう。まずは治癒魔法がどういった物かを見て学んで下さい」


 なるほど。怪我人を用意するのにバーチャルな世界、iフィールドほど最適な場所は無いだろう。誰かを傷つけて治癒魔法を練習するなどと言えば、テラオは拒否してしまうに違いない。仮想空間で仮想の相手とわかっていれば、びびりでへたれなテラオでも安心して練習できる訳だ。


「わ、わかりました。寝ている患者さんは生きているんですよね? 全員動いてないようですが」


「ああ、不気味ですよね。リアルを追求していますので症状を訴えるのですよ。

 騒がしいのは好みませんので止まってもらっています。近寄ると動き出しますので驚かないで下さいね」


 確かに、うー、あー、痛いーなど全員から訴えられると、仮想とわかっていても辛いだろう。


「では患者を見てみましょう、こちらです」


 ケンサンはそう言うと一番近くのベッドへと向かった。テラオも慌ててついて行く。


 ケンサンが近づくとベッドに色が戻る。患者の時間が動き出した。


「うでがー腕が折れて、ぐっ、い、いたいぃー。早く直してくれー」


 最初の患者は右腕前腕部の骨折のようだ。

 皮膚に損傷は見られないが、赤黒く腫れている。とても辛そうに痛みを訴えている。

 確かにこの声が十二カ所から聞こえたとしたら、慣れない者には居続けるだけで辛いだろう。


「まず我々がするべきことは診断です。患者はこのように訴えていますが、それが正確かどうかは専門家が判断するべきです。

 闇雲に『腕の悪い所よくなれ』と魔法を使うと、患者の魔力を大量に消耗させてしまうことになります、できるだけ正確な診断は大事なことなんですよ。

 ちなみにここには『都合の良い患者』しか居ません。実際の現場で私たちがこうしてのんびり会話などしていれば、患者は怒り、早く直してくれと訴えてくるでしょうね」


「な、なるほど。焦らなくていいなら大丈夫そうです」


「さて、診断ですが。君の居たセカイにも非破壊検査という物がありましたよね。

 X線や、超音波エコー等聞いたことはあると思います。私たちは、魔力を扱うことができます。では魔力を使ってこの非破壊検査をするには、テラオ君わかりますか?」


「え、えーと。自分の魔力は他人の中に入れないから、レーダーのようには使えないし……うーん」


「惜しいですね。わからないことはわかる者に聞いてみるのが一番です」


「はい! ケンサン教えて下さい」


「いえ、そうではなく。患者の体のことは患者の魔力に聞くのが一番と言うことですね」


 早速素直に聞いたら違っていた。

 でも今回はケンサンの言い方がちょっと意地悪だったのではないだろうか。


「あ、なるほど。患者さんの魔力に自分の魔力を使って聞いてみると」


「君は空間把握ができるようになりましたよね。同じことを相手の魔力にやってもらって、教えてもらった情報を持って帰ってもらう、と言った所ですかね。

 では実際にやって見せますので、魔力の動きに注目して観察していて下さい」


 と言うと、ケンサンは患者の骨折した腕から、手の平をほんの少し浮かせた状態で沿わせた。

 ケンサンの手の平から白い魔力が患者の患部に当たると、青い魔力になって手の平へと戻って行く。


「君にも動きがわかりやすいように色を付けた上で、断続的に魔力を放ち、さらに動きをゆっくりにしています。私の魔力の動きは見えましたね。

 白い魔力は『診断したいので情報を持ち帰りたい。これこれこのように動いた結果を教えてくれ』という情報を相手の魔力に伝える役目を持って手の平から出て行きます。

 青い魔力は、相手の魔力が教えてくれた情報を持ち帰っている訳ですね」


「なるほどです。でも『これこれこのように動いて』の部分がわからないのですが」


「ははは、そこは自分が自分自身を診断する時の魔力の動かし方ですよ。だいたい空間把握と同じ感じです。

 では今日の宿題は『これこれこのように動いて』を自分自身で見つけること、にしましょう」


「うひょー、今日は宿題が多いなー」


「大丈夫ですよ、君の一日はとても長いですからね」


「あはははは……」


 そう、とっても長い。

 実際の時間は不明だが、テラオの一日は数十時間、いや三桁行っててもおかしくないほどの時を過ごしているのではないだろうか。


「宿題ができたらチュートリアルクリアーを認めてあげましょう。今日の所はここまでです」


「あれ? 治療はしなくてもいいんですか?」


 ケンサンの後ろには痛みをこらえて腕をさする患者が居る。だがまだ治癒魔法を使えないテラオには直してあげることができない。このまま放置は残酷すぎると思ったのだろう。


「次回あなたが診断するためにそのままにしておきましょう、離れれば時間は止まりますしね」


 というとベッドから離れるケンサン、ベッドの周りの色が消え患者の動きも止まった。


「では戻りましょう」――♪ピヨキョロ。



  ◆



 ケンサンのバッジから緊張感の無い音が響くと、周囲の風景は一変し元の小屋へと戻っていた。

 テラオは椅子に座った状態、ケンサンはその脇に立っている。


「ここからはおまけ講座みたいなものですが、ヒントかきっかけになるかもしれません。私が君に診断をしますので、自分の魔力の動きを感じ取ってください」


 ケンサンがテラオの顔に手を添える。テラオに診断の魔力を放っているのか、先ほど野戦病院で見せたのと同じように白と青の魔力が行き来している。


(顔の内側にあった魔力が動かされて……、顔から離れるように動く。後頭部で反射して顔のほうに戻る……)


「この感じを覚えて下さい。自主トレで今私が何をやっていたかを理解できれば成功ですね。では今日はここで終了です」


――♪ピンポロポン。ダンス講座の時間です。


「ありがとうございましたー」


 治癒魔法講座でもノートとペンをもらった。テラオは急ぎマイゴザへと戻りちゃぶ台の上にのせる。


「通学鞄があると良いわね、毎回その往復は面倒でしょ?」


 毎度唐突に現れるメニューからの提案。確かに毎回戻るのは面倒だろう。


「是非欲しいです! 日用品クエスト第二弾を希望します!」


「あはは。そうね、お父さんとふれあい旅第二弾ね」


「ははは、マンガ肉パーティー楽しみだー」


「クエストは準備するから、案山子と踊ってらっしゃい」


「うっ、いってきます……」


 急ぎ牧場へ向かうテラオ。

 メニューとのんびり話してしまったので、結構待たせてしまっている。

 牧場にはすでにドレスを着込み、何だかもじもじしている案山子が待っていた。


「おそいゾー、早く始めるゾー」


 仕草はかわいい。

 戦闘訓練の時は気合いの入った声だが、今はほわっとした幼い女の子ボイス……。だが案山子だ。テラオはそっち方面にはアレではない……だろう。


「えーと、お待たせしました。すぐ着替えます!」


 慌てて羊小屋へ向かい、レンタルタキシードに着替えたテラオ。


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「昨日の続きをやるヨー。動きをもっとなめらかに、流れるように踊るんダヨ~~~♪」


 昨日の続きならペーターの台詞前の儀式を何度も見ることはなさそうだ。

 シノービに教えてもらった、儀式キャンセルの裏技を実践するのはまた後日。



  ◇



 今日もダンス講座後半では女装して踊ったテラオ、軽装案山子もまんざらでもなさそう。


――♪ピンポロポン。アルバイト時間です。


「お! 早速今日からアルバイト始まるんだ」


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「早く新しいボディーもらえるようにダネ~~~♪」


「すごくありがたいです。あーでもボディーが変わったら案山子さんとバランス取れなくなっちゃうなー、一緒に踊れないなー、新しいパートナーが必要かもしれないなー、シノービさんとかぴったりじゃないかなー、ちらっちらっ」


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「アハハ、楽しみにしているといいヨ~~~♪」


 ちょっと期待するテラオ。また想像の世界に旅立とうとした所で。


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「アルバイトはケンサンの小屋で受けられるヨ~~~♪」


 想像よりまずは先立つものからだ。テラオはご機嫌な笑顔でケンサンの小屋の扉を開ける。

 扉を開けた先にはびっかびかに照らされているケンサンが立っていた。


「ま、まぶしい」「まさか同じことをもう一回とは予想外でした」


 ケンさんは左胸のバッジをぽんと叩く。――♪ピヨキョロ。


 緊張感に欠ける音が鳴ると明かりは消され、ややあきれ顔のケンサンが確認できた。


「では、テラオ君座って下さい、アルバイトの内容を説明します」


 二度目なのに慌てるテラオに対して、ケンサンの動じなさはなかなかだ。

 目をしばしばさせながら椅子に座るテラオ。ここに来て講習以外のことに時間が使えるのは初めてのこと、わくわくしているのかとてもいい笑顔で指示を待っている。


「テラオ君にはこれに魔力を込めてもらいます」


 ケンサンは教卓の後ろから木箱を一つ運びテラオの椅子の脇に置いた。

 木箱を開けると黒い小さな箱がぎっしりと入っている。そこから一つを取り出したケンサンはテラオに手渡す。

 渡されたのは手の平に収まるサイズの金属でできている箱。

 広い面が蓋になっており、開けると空のガラス瓶が入っていた。裏には何かに接続するようなねじ穴が空いている。


「同じ物が七千百四十四個あります、この全てに気絶寸前まで魔力を込めて下さい」


「な、七千百四十四回も気絶寸前までですか?」



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