31,治癒魔法を教わろう
「すまなかったッス。あまり思い出させたくはなかったッスが、きっかけが必要だと思ったッス、ござる」
「いえ、ありがとうございます。おかげで気配のコントロールができるようになりました。怒りでコントロールではなく、ちゃんとできるように練習します」
「そッスね、自由にコントロールできるように自主トレで頑張るッス。あとお詫びというか、あれッス、これをあげるッス、ござる」
ぽーんと放られた細長い棒。突然もらった棒にしか見えない物にテラオは困惑している。
「一メートル長さの『ただの棒』ッス。走った時、歩いた時の距離を測るのに使うといいッス、ござる」
そういう用途なら巻き尺のほうがありがたいのだろうが、テラオは歓喜の踊りで棒を槍のようにうっほうっほ掲げながら部屋の中をぐるぐる回る。
シノービからもらった物は何でもうれしいらしい。
バン! 踊るテラオの目の前にメニューの看板が。
【チュートリアル -治癒魔法編-
治癒魔法の基礎を身につける方法を教えてもらおう。
】
「ご希望の治癒魔法講座よ。治癒魔法担当のケンサンの小屋は隣の青屋根の小屋にいるわ」
「今日はこれで終わりッスね、ござる」
テラオはシノービに深々と礼をし「ありがとうございました」っと小屋を出た。
シノービにもらった『ただの棒』とノートにペンをマイゴザへ持って帰り、ダンジョンで借りた武器を倉庫に戻す。
寄り道が多くなったので、急ぎ青い屋根の小屋へ走るテラオ。
テラオはまだ会ったことのないケンサン、どんな人だろうと緊張した様子で小屋に入ったテラオは、過剰なほどびっかびかにスポットライトを浴びている人物を目にすることになった。
「ま、まぶしい」「まったく、こんなことをするのは……」
ケンサンは左胸のバッジをぽんと叩く。――♪ピヨキョロ。
緊張感に欠ける音が鳴ると明かりは消され、正面に立つ人物が確認できた。
おでこが頭頂部まで広い、難しい顔をして白衣を着たオジサン。治癒魔術師と言うよりは、医者や科学者と言った雰囲気。
部屋は正面にホワイトボード、その前に教卓、小学生用の机と椅子。今までで一番教室らしい室内空間がそこにあった。
「テラオ君ですね。私が君に治癒魔法を教えることになりましたケンサンです」
自分にさん付けするなんておかしいな、などと思っていたのだろう。
「ちなみに、名前はケンではなくケンサンです。ですがケンサンさんなどと呼ばないように、ケンサンと呼んでくれれば結構です」
ケンサンからしっかり指摘されて納得したようだ。
「わかりました、ケンサンよろしくお願いします」
――♪ピヨキョロ。
テラオとほぼ同じ身長体格をした人形。ただし内臓が丸見え人形が現れた。
唐突に現れたそれは、理科室にある模型とは違いリアルすぎてグロテスク、思わず後ずさりしてしまうのは仕方ないだろう。
背後の扉からは骨模型君と筋肉模型君がやって来た。
前後をグロい人形に挟まれた状況。もし暗闇でこのような場面に遭遇したら腰を抜かしてしまいそうだ。
「模型君二人に新しい兄弟ができましたね、内臓模型君です。ただし戦闘訓練には出せませんよ、ぽろりとこぼれる恐れがありますからね」
何がぽろりかは聞くまでもない、三体の模型君は部屋の右隅で起立したまま待機している。
「治癒魔法を覚えるために必ず必要と言う訳ではありませんが、基本的な人体の構造などを覚えておけば役に立つことが多いでしょう。
今日は紹介しただけですが、追々この模型君達と医療について勉強することになります、そのつもりで居て下さい」
グロ模型君をじっくり観察する機会はまた後日と言うことだった。テラオは少しだけ安堵の表情を見せた。
「では、立ったままでは授業になりませんから、その席に座って下さい。机にノートとペンを用意してあります」
小学生用机に座り、天板の下の物入れを開けると、シノービにもらった物と全く同じデザインのノートとペンがあった。
何故かペンの尻をガシガシとかみだしたテラオ。
「ペンを見ていきなり囓り出すとは意外でしたが、何をしているのですか」
「え、いえ、目印を付けようかと……」
シノービにもらったペンと間違えないようにしたかったらしい。だがとても丈夫なペンは傷一つ付かない。
「まったく、おかしなことを考える人だ。シールをあげるから貼っておきなさい」
出だしから呆れられてしまうテラオ。
もらった赤丸シールは早速ペンに貼っている。これで間違えることはないだろう。
「さて君は、自分への治癒魔法に限っては怪我を治す程度できますよね。自分を治癒する時の行程を述べてください」
「えっと、怪我の状況を把握して……。損傷部位を直すように魔力に指示を出して、最後にその周りに内出血とかがあったら直すように魔力に指示を出しています」
「なるほど、指示を出して魔力にお願いしていると言うことですね。では、その方法が自分以外に使えない理由はわかりますか?」
「うーん、自分以外の魔力は僕のお願いを聞いてくれないから……ですかね?」
「正解ですね。
もし自分の魔力が他人からのお願いを聞いてしまうと、魔法で攻撃するまでもなく相手を殺すこともできてしまいます。そうなれば魔素のあるセカイ全体は混乱するでしょうね」
「なんか、想像したらぶるっと来ました」
「そこで、我々治癒魔法を使う者は、相手の魔力に『こちらは善意を持ってあなたの魔力にこのように動いて欲しいとお願いします』というお願いをするように自分の魔力に指示する、と言うことをしています」
ケンサンはこんがらがりそうな説明を始めた。お願いとか指示とか、言われてすぐに全てを理解するのが難しい説明。
「さらに、『あなたの魔力がもし足りないなら、あなたの魔力となることでそのお手伝いをしますよと呼びかける』と言うことを自分の魔力にお願いするのです」
えーともう一度お願いします、とテラオはケンサンにお願いする。
ケンサンはわかりやすく板書して、テラオがノートに書き写すのをゆっくりと待っていた。
ノートに書き写してはみたが、いまいちわからないといった表情のテラオ。身近な物で例えてみることにしたようだ……。
目を瞑り、ニヘラァとだらしない笑顔になったテラオの頭上に、ほわんとした魔力の球体が浮かび上がる。
球体の中には何かがうっすらと……。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
ここはテラオの想像世界。巨大修理ロボ『ロボテラオ』の秘密基地だ。
「きゃー、助けてーッス」
どこかから謎の美少女ロボの助けを求める声が聞こえた、ロボテラオ発進だ!
声の元へと走るロボテラオ、助けを求める美しかわいいロボを見つけた。
「私は美少女ロボのロボシノービッス。怪我をしちゃったけど直し方がわからないッス、助けてロボテラッチ」
「傷は結構深い、これは緊急修理が必要だ! ミニロボテラオ(テラオの魔力)発進だ! ミニロボシノービ(シノービの魔力)に修理方法の指導をするんだ」
ロボシノービは足に怪我をしていて歩けない。緊急事態と判断したロボテラオはミニロボテラオに発信指示を出す。
ロボテラオの胸にあるハッチが開き、ミニロボテラッチが大量にロボシノービの傷の元へと走って行く。
「ミニロボシノービ。こちらは正義のミニロボ、ミニロボテラオです指示通りに修理することを要請します」
「ありがとう。やってみるッス」ミニロボシノービは指示を受けて変形し傷をふさいで行くが。
「私たちミニロボシノービの数が足りないッス。これではロボシノービが燃料切れで倒れてしまうッス」
うつくしかわいいロボシノービが倒れてしまっては大変だ。ロボテラオはミニロボテラオに新しい指示を出す。
「二班に分かれて、片方はミニロボシノービに同化して修理資材になるんだ! もう片方は修理指示を継続」
「ミニロボシノービ、我々ミニロボテラオはあなたに不足している材料になるために来ました、受け入れて下さい。我々はあなた方と同化し、ロボシノービの一部になります」
受け入れられたミニロボテラオはミニロボシノービと同化し、傷を塞ぐ材料となって行く。
すっかり直ったロボシノービは歩けるようになった。
「ありがとうロボテラッチ、おかげで完全に治ったッス。テラッチすてきー、きゃー」
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
「何だかとてもわかりやすい例えが思い浮かびました」
想像の世界から帰ってきたテラオは、満足そうにとても良い笑顔でケンサンに報告した。
唐突に発動したテラオの無意識魔法『テラオ脳内劇場』に、さすがのケンサンもぽかんとしている。
「はぁ……そうですか、その想像で大体あっているのがあれですが……。
まあいいです。さて、先ほどの方法ですが、これでも危険はあります。善意を装って、きちんと直らないような要望を相手の魔力にお願いしてしまう可能性がありますからね」
ケンサンの説明がお願いだらけでわかり難いのは、テラオがお願いする形でしか魔法を発現できないため。
わかり難いけど、理解しようとテラオは必死にノートにまとめて行く。
(うーん、あとちょーっとわかり難い気がするなー、さっきの続きの展開で想像してみよう。『テラッチすてきー、きゃー』から……)
「えーとテラオ君、要らない想像はやめて下さいね。私も暇な訳ではありませんので」
「う、ごめんなさい」
テラオが目を瞑ろうとした所でケンサンに阻止された。
その後の展開はなくなったようだ。調子に乗りすぎは良くない。
「さて治癒魔法には、悪意のある指示や、悪意のある魔力の侵入を防ぐ必要があることがわかったと思いますが。基本的に治癒魔法の知識が無い相手に対する悪意のある指示は防ぐことは難しいです」
「え? じゃあ体を傷つけるようなことも?」
「いえ、あくまで相手の魔力に間違った指示を出すだけですから、傷をさらに深くするようなことはできないと思っていいです。
基本的に魔力は自分で自分を傷つけるようなことはしません。せいぜい治りが遅くなる程度でしょうね」
「なるほど、安心しました」
「ただし、悪意のある魔力の進入が危険であることは想像できると思います。
そこで自分の魔力を使わずに、その辺にある魔素を魔力に変換する手助けをすると言う手段があります」
「そちらは安全そうですね、普段からそっちを使えば良さそうですが」
「変換効率が悪いので、自分の魔力を使う率が高くなります。約二倍の自分の魔力で魔素を相手の魔力に変えられますね」
「確かに燃費が悪いですね」
「先ほどの君の想像で例えますと
『――我々はあなた方と同化し、ロボシノービの一部になります』
『イヤッス、ミニロボテラッチなんて受け入れたくないッス』
と言う状況で、ロボテラオは次のように指示をします
『それならば仕方ない、ミニロボテラオをさらにもう一班追加、鉄くず(魔素)-誰にでも合うベーシックなミニロボ(素魔力)変換器を作れ。拒否された班はその辺の鉄くず(魔素)を集めて変換器に入れるんだ』
以上です」
ケンサンの例えは声までそっくりの本格派、テラオは驚き口をあんぐり。
「え、えーと、声まねがそっくりですね。と言うか想像がダダ漏れだったんですね」
「それはまあ、教師ですから当然ですね」
ケンサンもやっぱりここに居る他の人達と一緒、不思議な存在だと実感できたようだ。
「それはさておき。例えで素魔力と言いましたが、ミニロボテラオがいくら頑張ってもミニロボシノービは作れません。
そこで誰にでも適合できる『素の魔力』を作る訳ですね。具の乗っていない素うどん、テラオ君好みにトッピングしたテラオうどんと言えばわかりますかね、素は何も乗っていないと言う意味です。
それから素魔力は、傷を治す素材の魔力としてしか使われないので、素材魔力とも言います」
「何だかとても複雑システムですね……、できるかどうかとても不安です」
「できるかどうかではなく、やるかやらないかですね。
やる気があるなら頑張りなさい、無いならここで終わりにしても私はかまいませんよ」
「とんでもないです、頑張ります! 救いたい人を救えるようになりたいです」
「よろしい、では怪我人の元へ行きますよ!」
――♪ピヨキョロ。




