28,反省会で穏やかな時を過ごそう
ベイスがパーンと両手を合わせると、目の前の風景が一変した。
やたらと高い山の山頂、周囲は樹海が広がっている。
ここは最初に来た異世界、メニューのお気に入りの場所だろう。
山頂には平らに均された小さな広場が有り、そこにテーブルと椅子が六脚。メニュー、ペーター、シノービがすでに席に着いている。
ベイスに勧められ、テラオはメニューの隣の席に座った。
ちなみに、メニューの椅子はテーブルの上にある、高級そうな木製の小さな椅子だ。
決して椅子に被せるお子様用補助椅子ではない。念のため。
シノービがお茶を入れようとしてくれたが、ベイスに止められペーターが入れることに。
シノービさんの入れてくれたお茶が飲みたかった、とかテラオが思ったかどうかはナイショである。
「メニューごめんなさい。いろいろしてくれたのに、あんな気持ちを持ってしまって」
「気にしないでいいわ、必要な試練だったからね。
あんたの心は弱いからさ、このままじゃいつかつぶされちゃうって。本当はiフィールドのことはナイショの予定だったんだけどね、今のあんたなら例え現実でもへなちょこなことはしないでしょ」
「あぁ、うん大丈夫。これからはもっと考える。考えて行動する、そしてためらわない」
「ならいいわ。現実感の欠如と心の弱さは一応解決ね!」
「はい!」「だな」「問題なさそうダネ~~~♪」「ふむッス、ござる」
みんなの評価は上々のようだ。テラオも自信を持って返事できるほどに、今回のクエストで得た物は多かったのだろう。
「他に何か気になることがあったりする?」
「みんなクエストやっている僕を見ていたの?」
「そりゃそうよ、あたしたちがしっかりちゃんと見ていないと危ないでしょ」
「おもしろポイントを見逃したくはないッス、ござる」
「怒ったテラオくんは良かったネー、魔法の発想は驚いたヨ~~~♪」
シノービはおもしろポイント目当てなのが気になる所だが、テラオにはそれより重要な気になるポイントがあったようだ。
「あれ? ペーターさんの台詞前のBGMと踊りが無い!」
「あの儀式は会議のテンポがずれるから、こういう場では禁止中よ」
「かなしいネ~~~♪」
「無くてもしゃべれたんですね……」「ガハハ、普段もいらねぇんだがな」「ござるも支障があるッス。禁止して欲しいッス、ござる」
強いられている者からの要求がさりげなく混じっているが。
「ござるはなきゃだめよ。忍びはござるを付けないと忍びじゃなくなっちゃうのよ」
((((そんなことはないと思う……))))
ござるがなくても、と言うか忍びにこだわる必要もないと感じたのはメニュー意外全員一致する意見だろう。
「さて。集まってもらった目的、緊急クエスト四部作の反省会を始めるわよ」
「四部作って壮大だね」
「あんたの成長を記した物語全四部作ね。続編にこうご期待よ」
「ぞ、続編どんとこいです」
「あはは、話がそれてばっかりね、本題行くわよ。特に反省することなど有りません! 異論は認めない」
「「「「なーーーっ」」」」
まさかの反省会の開催意義全否定である。あまりのことに皆が驚く。
「ほんとはさ、ほら最後のクエスト無い予定だったからさ、ここセッティングしちゃったけど。洞窟のクエスト行っちゃったでしょ、だから反省会要らないかなーって」
「あぁ、確かにこの場で坊主を指導するつもりの反省会だったな。チッ」
「チッてなんですか、チッて」
ベイスはきっと強烈な指導を予定していたのだろう。
根性をたたき直すしごきか、それともさっき言っていた無理矢理の矯正か……どちらにしてもガクブルものだ。
「しかし相変わらずおもしれぇ魔法ばかり使ってたな。背後に魔力の糸をまわしたり、鼻から糸突っ込んだり」
「鼻の糸はえげつなかったッス、ござる」
「氷の矢の爆発も地味だけど正確に当ててよかったネ~~~♪」
「ひ、必死でしたから」
やっぱり派手に立ち回った場面、独自の魔法を使った点は評価が高かった。
「足先から魔力を伸ばす技術は感心したぞ」
「ありがとうございます。見つからないようにどうすれば助けられるか、必死に考えてあんなことになりました」
「総合的に見て及第点以上は取ってると思うぞ。だがな、逆の立場になって考えてみろ」
「え、逆の立場というと」
「あれと同じことをやられた時に、おまえは防ぐ手段、察知する手段があるのかと言うことだ」
「うぐっ」
「頭に血が上っている状況で、冷静に敵の魔力を感知し続け、攻撃方法を予測して防ぐなり弾くなんてことはなかなかできないと思う。
だが自分のできることは相手もできる、それ以上のことができるかもと想定して鍛える。自分を高める手段の一つとしてこいつを忘れずに居てくれ」
ベイスはだめ出しをしたのではなく、さらに先へ進む方法を示してくれたようだ。
確かに今の自分をさらに超えよう、という向上心を持ち続けるというのは大事だろう。
おもしろポイントの話ではないからか、シノービはクッキーをお取り寄せしてポリポリ食べている。
「は、はい! これからも精進します、ご指導お願いします」
「ちゃんと捕まった村人に配慮してた所も良かったと思うッス、ござる」
「はぃいぃっ、がんばりましたぁ。褒めていただいて感謝感激ですぅ」
興味なさそうな素振りだったが、不意打ちで褒められた。テラオは感激溢れるだらしない顔でシノービに飛びつこうとするが。
シュバッ! サクッ
「さ、刺さってますー。いつからそんな物騒な物を」
手裏剣が額にサクッっと刺さった、飛び立つ前に撃退されるテラオ。
「いろいろ対策装備ッス。テラッチにはこういうのがいいと聞いたッス、ござる」
「誰がそんな余計なことをー」
「ガハハハ、全く相変わらずだな、少しは直ったかと思ったんだけどな」
「講習中はニューテラッチが憑依してますので安心して下さい。普段は情熱テラッチです、よろしくお願いします」
「安心できないッス。お願いされたくないッス、ござる」
情熱テラッチは不評らしい。
「あはは、あんたはほんとに面白いわね。さて、あんたはこの四部作で何か感じたこととか要望とか有る? 有るなら今のうちに遠慮無く言うといいわ」
「えーと、気になることと、覚えたいこと、それから聞きたいことがあります。
まずは、あの村、ドサイル村はどうなったのかなと、現実じゃないとはわかっているんだけど気になってしまって」
「あぁ、あの村は現実の村をその住民含めて再現した村だ。『剣と魔法のファンタジー異世界』に実在するぞ」
「え! え、じゃじゃぁ、みんな無事で……」
「無事も何も、現実では今回のクエストの事件は無かったからな。おまえが転生できて旅に出ることがあったら、もしかすると再会できるかもしれねぇな」
生前の幸せだった時を思い出させてくれた村、懐いてくれた子供達、面倒見のいい村長の息子、テラオは村の人々を思い出せないながらも記憶に残そうとしているのだろう。
みんなが無事で暮らしている、是非訪れてみたい。そうテラオは決意したようだ。
「そっかぁ……、楽しみが増えました。よかったぁ」
「それで、覚えたいことと聞きたいことってのは何かな」
「えと、他の人に掛けられる治癒魔法を覚えたいです。今回それが必要だと実感しました」
「なるほどな。オレが教える予定だったが、もっと適任がいるからあいつにやらせますか」
「そうね、近くに居た方がいろいろ捗ることも有りそうね。わかったわ治癒魔法講座を追加するわ」
「おー、ありがとう」
怪我人を癒やせる治癒魔法、倒れていた村長の息子や捕らわれていた村人に、その場で治療することができたらとあの時考えたのだろう。
手段が増えれば救える人も増える、テラオは幸せな環境に居る。ここなら貪欲に欲しい力を手に入れることができるのだから。
「テラオくん、生産系の講座もそろそろ希望してネ~~~♪」
「ペーターさん生産系の講師だったんですか?」
「そうだヨ~~~♪」
意外な事実が今さら発覚。
そう言われてみれば、テラオの服もペーターにもらった。昨日はオーダーメードのタキシードを貸してもらった……。全てペーターの手作りだったようだ。
だが、昨日のダンス講座のあの進行は……。
「昨日のダンス講座みたいに踊ってばかりで講習が進まない予感……」
「テラッチいいこと教えるッス、ござる」「お! 何ですかなんですか? シノービさんのいいこと聞きt」シュバッ! サクッ
この流れでシノービのいいことを教えるはずはない。テラオはシノービのことになると酷い、とても酷い。
「ペーターの儀式は、台詞の途中で喰い気味に次の質問を被せるとキャンセルできるッス、ござる」
「おー裏技ですね」
「そんな殺生ナ~~~♪」
儀式強制キャンセル技。なかなかのお得情報だったが、常に質問を用意して台詞に被せ続けるのも厳しいだろう。
ほのぼのムードが漂う反省会改めお茶会。最後にテラオは、とても気になっていたことを聞いてみることに。
「それで最後に聞きたいことですが、貯めてうれしい謎のチケット三枚たまってるんですけど。あれは何なのでしょう」
「十枚たまると福引き一回引けるわよ」




