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25,社交ダンスと自主訓練

「おかえり、満足いく結果は出せたかしら」


「ただいまー。メニュー! クエストクリアーできたよ!」


 バン!


【緊急クエスト

 ○iフィールドクエスト○

 フィールド:iフィールド(ドサイル村)


 村から盗賊を追い払った。

 クエスト完了。


 クエスト報酬:貯めてうれしい謎のチケット】


「おめでとう。現在預かっているチケットは合計一枚です」


 何だか事務的なメニューだが、浮かれているテラオは気が付かない。


「ありがとう、村を救えて良かったよ」


 クエストを無事終えたテラオは満足していた。

 装備を片付け、元有った位置にしまって行く。


「そうね、クエストは『完了』できたわね」


「村が居心地良くて、クエストだってこと忘れちゃったよ。あはは」


 うきうきとした表情のテラオに、複雑そうな表情のメニュー。お互いの表情は正反対だ。

 だが、緊急クエストを終わらせたという喜びで、テラオは周りが見えていなかった。

 メニューが気を利かせて持たせていた鞄は使う機会がなく、そのまま倉庫の壁に引っかけられた。

 テラオは一度も中身を確認していない。

 看板の表示がいつもと少し違うことにも気が付いてない……。


――♪ピンポロポン。ペーターのダンス講座の時間です。


「お! 新しいダンスかな。いってきまーす」


 メニューの何か言いたいけど言えない雰囲気を、専用腕時計さんが破ってくれた。

 ご機嫌なテラオは片付けを終えると、さっさとペーターの元へ走って行った。



  ◇



 テラオはご機嫌だった。

 クエストを無事終え、新しいダンス講座が始まる。今ならいろいろうまくいきそうな気がする。そんな上り調子な雰囲気でペーターの小屋へ到着した。


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「ハーイ! テラオくん、今日から新しいダンス講座ダヨ。パートナーも居るから頑張ってネ~~~♪」


「ぱぱぱぱ、ぱーとなー?」


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「まずはこの衣装に着替えてネ~~~♪」


 用意されていた衣装は、パーティー用のタキシード。テラオの体型にぴったり合わせたオーダーメイド品にしか見えない物。


「こ、こんないい物をもらってもいいんですか」


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「レンタルダヨ~~~♪」


 タキシードは高そうな衣装だ。普段着さえクエストクリアーしないともらえないここでは、オーダーメイドタキシードなどそう簡単にもらえる訳がないのだろう。


「えーと、これを着るってことは、もしや社交ダンスですか?」


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「お城の舞踏会に呼ばれるカモだからネー。カッコイイダンスを練習しようネ~~~♪」


 そんな機会があるのだろうかと疑問に思ったようだが、パートナーと言えば女性、女性と言えばここに居るのはシノービさんそんな連想をしたのだろう。

 テラオはそわそわした様子で羊小屋に入りいそいそと着替た。


 小屋から出ると牧場の真ん中にパーティードレスを着た女性が背中を向けて立っている。


「……あれ、背の高さが僕と同じ位? シノービさん縮んじゃった?」


ガン! どこかから看板が飛んできた。


「うぅ痛い。何だか二人分の勢いがあった気がする……」気のせいだろう。


 黒髪ロング、華奢に見える体つき、ピンクのパーティードレスに身を包んだ彼女が振り返ると。


「案山子かーい」


 照れたような仕草の案山子。ちょっとかわいらしいかもしれない。


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「テラオくんのために特別に来てくれたァー、軽装案山子さんダヨ~~~♪」


 普段の二割増しのテンションで紹介してくれたペーター。

 いつも短剣二刀流でテラオをガンガン攻撃してくる皮装備の軽装案山子さんが、しっとりお嬢様風な佇まい。後ろ姿はお嬢様、顔さえ見なければお姫様。


 ペーターの前にはいつの間にか蓄音機が設置されていた。

 ホーンに耳を傾ける犬がいそうなあのタイプ。レトロな感じがかなりいい。

 犬の代わりに耳を傾けている羊に違和感が……。


「あ、あれ? 昨日五匹とも毛を刈ったよね? あれあれ?」


 毛刈りなんてなかったかのように、いつも通りのふかふかもこもこで真っ白な毛。


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「刈った毛は一晩で元通りダヨ~~~♪」


「えー、とか、もうこんなことばかりだから慣れてきたな」


 スルー力が上がってきたテラオ。成長しているようだ。


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「はっじめっるヨー。まずは姿勢だネー、胸を張ってすーっと立つんだヨ~~~♪」


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカ……

「左手をスーっと伸ばしテー、手を組むヨ~~~♪」


――♪ドゥンチャカドゥン……「半歩ずれた位置に立つんだヨ~~~♪」


――♪ドゥンチャ……「パートナーの肩の辺りに手を添えてネ~~~♪」


――♪ドゥ……「両肘は水平に――」


 ダンスの指導はなかなか厳しい。

 何が厳しいかって、BGMと不思議な踊りが毎回入るため、非常にテンポが悪い。

 テラオはまだ一歩も踊っていないのにペーターだけがひっきりなしに踊っている講習。……これでいいのだろうか?


 やっと「思い切ってスイー、ズイズイズイーっと足を運ぶんダヨ~~~♪」「柵が近くなったヨー、そこでターンだネ~~~♪」など、一連の動きを教えてもらえるようになった頃にはへとへとになっていたテラオ。

 体は疲れないが、気持ちはぐったりしているのだろう。


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「今度は役割交代ダネー、衣装を交換してきてネ~~~♪」


「え? えぇーっ」


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「ベイスが言ってたでショー、『扱ったことがあるという経験は、その武器を扱う者と組んだ時に動きを理解しやすい』ほらネー、相手の役もやっておくと動きを理解しやすいんだネ~~~♪」


 ペーターのベイスの声まねは、本人が居るのではと言う位そっくりだった。

 が、武器とダンスでは違うのではないだろうか。

 テラオも疑問に思っているのか、何度も首をひねりながら羊小屋へ向かい、衣装交換の着替えをすることに。


 黒髪ロングのカツラを付けられ、ピンクのパーティードレスを着たテラオが登場した。

 遠くのほうでプークスクスと笑い声が……。

 コルセットなど案山子は着けていなかったのに、テラオ用にとわざわざ用意されていたことに、ちょっとだけ悪意があるようだ。


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「かわいくなったネー、じゃじゃあ練習始めようネ~ー♪」ププッ


 ファルセットが乱れ、吹き出しているペーター。やっぱりいろいろなメンバーの悪意を感じる状況だった。



  ◇



 役割交代しての練習も無事に終わった。


 今日のダンス講座は修了と言うことで、ちょっといい村人の服に着替えマイゴザへ戻ったテラオ。

 だが、何か落ち着かない様子。今回のクエストで、もっと素早く盗賊を押さえることができたのではないかと考えているらしい。


 ノートの表紙に書き込んだ以前決めた三つの行動指針『弱いなら頭を使え!』『手段を増やす』『現実だ甘えるな!』の文字をじっと見ながら考え込んでいる。


「弱いなら頭を使え、か……」


(今回は自分の持っている手段の中で最適と思える行動をできたよね。

 集団に対して有効な魔法は暗闇空間しか持っていなかったし。あれ……『手段を増やせ』を実践できているかな……。

 いや、今日初めて攻撃魔法を習ったんだから、範囲攻撃魔法を練習もなしにいきなり打つなんて村人に当たったら一大事だよ。あれで良かったんだよね)


「手段を増やす。範囲攻撃魔法の練習とか勝手にやったら怒られそうだよな……。家とか壊すなよって言われたもんな」


「攻撃魔法が駄目なら、弱体なら範囲化の練習しても怒られないかもしれない!」


 思いついたら即行動とばかりにゴザを飛び出し訓練島へ走って行った。



 途中、走りながら使える魔法がもっとあれば、もっと手段が増える。ということにも気が付いたようで、練習課題の検討を始めた。


(拘束の魔法が単発なのが使いにくかったよな、沈黙空間はあの場面では意味がなかった。暗闇空間が盗賊一人一人に掛けられれば抜けられることもなかったな)


「練習課題は走りながら魔法を使う、飛距離を伸ばす、拘束の複数化、暗闇空間の複数化。

これができれば手段が増えそうだよな」


 課題は決まったが、練習方法が思いつかないのか、うろうろしだすテラオ。

 すると、訓練島の端の辺りの地面からボコッと音がして、土でできた棒が複数伸びてきた。

 白と黒に色分けされ、敵味方を区別する練習に最適なものだ。


「ベイスさんだね、ありがとうございます」


 姿は見せなかったがきっと見ていたのだろう。最適な練習相手を出してもらえたことにテラオは感謝する。



  ◇



 テラオの自主訓練は長時間に及んだ。

 魔法の飛距離は、訓練島の端から端まで、およそ三百メートルほど飛ばせるまでに成長した。

 暗くなってからは光の玉の呪文を島の上空に幾つも浮かべ、ナイター設備のようにして練習を続けた。

 走りながら魔法を使う訓練は、島の外周をぐるぐると走りながら、棒の的個別に暗闇空間を掛ける訓練を繰り返し、近寄るときも、離れるときも素早く確実に発動できるようになった。

 ただ、拘束を複数に掛けることが走りながらでは難しいらしい。地面の中のアンカー部分と蔦になる部分。より多くの魔力と魔素を操作しなければならず、難易度が高いためうまくいかないようだ。


「発想の転換が必要だよな、工程が多いから時間が掛かって数が作れない。どこかの工程を省ければ……」


 テラオはこの時、船が碇を伸ばし海底に固定されているイメージを浮かべていた。船を拘束対象で、海底から伸びる碇のロープが蔦というイメージだ。


(一本の碇だと船は碇を中心にくるくる回る、前後二本伸ばせば三本四本……)


「あ! 地面と船を逆に考えれば」


 船から複数本の碇を伸ばすように、地下のアンカー部分から蔦を何本も伸ばしてぎゅっとまとめる。これならアンカーは一カ所で済むから工程を省ける。

 この発想を実践してみるたところ、イメージが強烈だったのかぎゅっとまとめる所で土の棒をベキッとへし折ってしまった。


 強力すぎる物ができてしまったが、自主訓練の課題は全てクリアーしたようだ。


「範囲弱体、できたどぉーっ!」



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