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22,念願の、攻撃魔法と魔法防御を教わろう


 魔法防御のお手本を見せてもらった。

 魔法防御の壁は、ベイスの説明通りに確かに迎えに行って包んでつぶしていた。

 だがどうすればできるのか、いまいちわからない様子のテラオ。


「こいつは向かってくる魔法を感知すると自ら迎えに行き、当たる直前に包み込んで自身の魔力と混ぜ合わせ、攻撃魔法を成立させなくすると言う魔法だな」


 魔法を防御する魔法はとても複雑な物だった。自ら迎えに行って包み、混ぜ合わせて潰す、という複雑な工程で魔法を無効にする物らしい。


「なかなかの複雑システム」


「ガハハ、それだけ魔法を防ぐってのは難しいんだ。

 さて。練習方法だが、布の服の案山子に水の玉を放つ設定をした。痛くは無いが当たると濡れる、たまに嫌がらせの石を投げるようにしたからいつもの防御も忘れるなよ」


「わ、わかりました」


 びくびくしながら布の服案山子の前に立つテラオ。初めての出番でうきうきしているのか案山子はぴょんぴょん跳ねている。


「なんだかすごくやる気が溢れているようなのですが」


「おまえもやる気出して頑張れよ。んじゃはじめっ!」


 テラオはうっすら緑に色を付けた魔力の壁を出現させる。


――びしゃぁ

 何の設定もしていない魔力の壁、水の玉はそのまま通過してテラオはびっしょり濡れる。


「色はいらねぇよ! なんで色付けることから始めるんだよ!」


 やっぱり呆れられた。



  ◇



 ひたすら壁を作り続けるテラオ。だが、水の玉はもれなく壁を通過し、びしょ濡れになっている。


「うぅ、うまく包めないな」


「包んでから混ぜて無効化じゃねぇんだ。包んで混ぜて無効化だ、同時だ同時」


 なるほどと早速実践してみるが、タイミングが難しいようだ。


「野球で例えると、正面から飛んでくるフライを捕球する所を想像してみろ。落下地点を予想してダッシュで前進、捕球地点を予想して下がりながら位置を調整して、ぱしっと掴む。そういう感じでイメージしてみろ。

 だが野球で例えて置いてなんだが、グローブと違って魔力の壁自体には攻撃魔法が当たる判定が無い、そのまま通過しちまうってのを忘れるなよ」


 アドバイスを受けたテラオは早速新しいイメージで試す。しばらく練習を続け、包む所まではうまくタイミングが合うようになった。


「いい感じだ。相手の魔法を無理矢理ねじ伏せて、自分の魔力と混ぜるって所がもう少しだな。よし、水の玉のスピードを遅くしてやる」


 遅くなった水の玉のおかげで、試行錯誤する余裕ができた。

 力ずくで押しつぶそうとしても駄目、ミキサーのように高速回転させても駄目、上下左右に振ってみても駄目、色々試しているがうまくいく物はなかった。


「おまえの得意なお願いするってのでやってみたらどうだ?」なんとなく呆れ気味のベイスのアドバイス。


「やってみます」


 テラオは、攻撃的な魔力が迫ってきたら急いで迎えに行き、一緒に帰ってきながら包んで、混じり合って無効化するよう魔力にお願いする。

 なんだか複雑で訳がわからない設定の魔力の壁ができあがった。


 案山子が水の玉をゆっくりと放つ。

 テラオの正面に作った魔力の壁一メートルほど手前に来ると、魔力の壁が動き出した。

 三十センチほど動いた所で魔力の壁は水の玉を包みながら、混じり合いながら水の玉と同じ速度で戻ってくる。混じり合った物はテラオの五センチほど手前で消滅した。


「おぉー、できましたぁー!」


「やったな! よく頑張った! それじゃ本番いけるな」


「え? 本番?」「そうだ本番だ」


 案山子はぴょんぴょん跳ねながら、元気いっぱい水の玉いっぱい放ち始めた。まるで今までのストレスを発散するかのようだった。


「うひゃー、本番きびしいぃー」



  ◇



 ずいぶん長い時間訓練していた。

 いつの間にか他の案山子二体も参加して水の玉やら石やらを投げていた。

 たまにベイスが後ろから水の玉を放ってくるため、壁の数も増やさないと対応できなくなる。

 小さめの厚い壁を幾つも並べ、空いてしまった場所をすぐ埋められるような工夫もしていた。


――♪ピンポロポン。魔法防御訓練終了の時間です。


「うぅ、スパルタ過ぎますよー。きびしー」


「これくらいで根を上げてちゃ、シノービんところの訓練ついて行けねぇぞ」


「全然余裕です。まだまだ頑張れます」


 即答である。さっきまでのだらんとした態度が、シノービの名前を聞いた途端にシャキーンとしている。


「相変わらずだな……。さて、攻撃魔法の訓練だが、まずは的まで魔法が届かないんじゃ話にならねぇ。五十メートル先の的に当たったら弾ける光の玉をつくって練習してろ」


「はいっ」っといい返事を返したテラオは、昨日の続き光の玉の飛距離を伸ばす練習を始めた。


「毎回言ってる気がするが、おまえの魔法は魔力にお願いするってのがうまくいくコツだ。面倒がらずにお願いしていればうまくなると思うぞ」


 今さらだが、魔力にお願いというのはテラオのオリジナル魔法上達術だ。

 理屈で教えても全く上達しないテラオに、ベイスの思いつきでうまくいった方法。魔力に意思など無いだろうが、余計なことは言わないほうがテラオのためだろう。


 ベイスのアドバイスから数回、無事に五十メートル先の的に当たり光の玉がはじけた。


「よし、うまくいったな。んじゃ魔力に属性を乗せるわけだが、ここまでできたら後は簡単だ。魔力を集めて炎の玉なり、矢、槍、好きな物好きな形になるようにお願いすればいいだけだ」


「あれ? そこはそんなに簡単なんですね」


 属性魔法を使うには何かイベントがあるかと思っていたのか。テラオは拍子抜けだったようで、素っ頓狂な声を出した。


「だな。おまえの場合お願いして魔法使うから、それしか言いようがねぇんだよ。

 ただ属性は、相手に合わせた選択をするのが難しい。例えば目の前の案山子を水の玉で包んでも窒息しねぇだろ? 選択してその場所や相手を見極めて使いわけるのが難しいんだ」


「なるほど、人それぞれ使える適正属性とかあるのかと思っていました」


「お願いするだけだから、想像力とお願いの仕方の問題だけだな」


「ふむふむ」っと納得するテラオ。早速火の玉や氷の矢を的に向かって飛ばし爆発させている。

 光の球を飛ばすのには苦労していたが、攻撃魔法となったらイメージが固まりやすかったのか、簡単に飛ばしているのはさすがだ。


「あとは体に、タマシイに覚えさせるように魔法に名前を付けて反復練習だな。

 できるだけ短くて覚えやすい名前を付けるのがいいぞ。長い名前を毎回使うってことはそれだけ隙ができるからな。

 あと、声を出してしまうおまえのことだ、転生後でもフィールドクエストでも、おまえの前世のセカイの言葉で覚えておけば、相手にどんな魔法を放とうとしているかを悟られないって利点があるな。

 んじゃ、今日の所は以上だ! おつかれぃ」


――♪ピンポロポン。斥候技能講習の時間です。


「ありがとうございました! いってきます!!」


 ものすごい早さで後片付けを終わらせ、走り去って行くテラオ。ベイスはあきれ顔で見送る。


「シノービさ~ん、今すぐ行きますよー」



  ◇



 勢いよく小屋の扉を開け、飛び込むように部屋に入ったテラオ。


「お待たせしましたシノービさ~ん、僕参上でsあぁ~~~~~」


 シノービの小屋に入った途端落とし穴へ落ちて行くテラオ。周りが全く見えていなかったようだ。



  ◆



 落下地点でシノービを見つけたテラオは、忠犬のようにびしっと直立不動で指示待ちをしている。

 ただ顔はだらしなく、でれんとした目でシノービを見つめている。

 シノービはと言うと、テラオではなくその後ろ辺りを見ているようだ。


「あー、ちゃんと真剣にやらないとテラッチのこと嫌いになっちゃうよ、ござる」


 ガビン! とショックを受けるテラオ。

 シノービに嫌われてはこの世の終わり、そんな表情で唖然呆然と崩れ落ちる。

 やけに棒読みなシノービには気が付いていない。


 シノービは何か困ったような表情をしている。次の台詞に詰まっているような……。


「えー、真面目にやれば良いことが有るかもしれない可能性がなきにしもあらず、ござる」


 ぱぁーっと表情が明るくなるテラオ。

 地獄の底で蜘蛛の糸を見つけたかのような表情で起き上がる。


「真面目にやります、頑張ります。この思いを抑えてでも頑張ります。だから嫌わないで、見捨てないで下さい!」


 すりすりと縋り付きそうな勢いのテラオの頭は、シノービの足で雑に押さえつけられている。

 すりすりと動くたびにゲシゲシと蹴られているが、テラオにとってはご褒美なのかもしれない。


「んー、雑念を捨て、清らかな心で講習を受けるというのならば、指導してもよいぞ、ござる」


「わかりましたー、見捨てないでくれてありがとうございます。僕は今この時生まれ変わりました! 是非講習をお願いします!」


「うー、わかったぞよ。生まれ変わったニューテラッチを信じよう。講習を始めるぞ、ござる」


 「ははぁ」と恭しく頭を下げるテラオ。

 その背後でメニューが吹き出しそうなのを我慢しながら、何枚かのカンペ看板を片付けているが目に入っていない。


「じゃーテラッチは昨日と同じ所に立つッス、ござる」


 言われたら即行動。素早く昨日と同じ位置に直立不動で立つテラオ。


「自主トレで空間把握はだいぶ上達したのは見たッス。魔力感知もうまくなったッスね、ござるね。

 後は気配ッスけど、気配が何かがわからないテラッチには、いろいろ混ぜての訓練は難しそうだと判断したッス、ござる。

 でー今日は気配集中特訓ッス。特製気配玉があっちこっちから飛んで来るッス、全部掴んで投げ返す特訓になるッス、ござる」


「わかりました! 今日こそ気配を掴んで見せます」


 シノービからちょっと褒められ、上機嫌なテラオ。

 だがでれっとすることはなく、今日の講習内容も真剣にふむふむと頷き、やる気のある返事を返す。ニューテラッチは今までとは違う。


 あーはいはい的な表情でニンニンと印を結ぶシノービ。

 テラオの視覚と聴覚は遮断された。今のテラオは真っ暗闇の無音空間にいる。


 「真面目な態度で講習を受ければ私がご褒美あ・げ・ちゃ・う(はあと)の部分がずいぶん改変されたわね」「えー嘘でもイヤッスよ、ござる」と言うメニューとシノービの会話はテラオの耳には届いていない。



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