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21,気配察知への道は遠い


 テラオのおかしな行動は、ベイスにしっかり見られていたらしい。


「うぅ、ずっと見られてたんだ……なんか恥ずかしい」


「いや、ずっと見てるわけじゃねぇ。おもしれぇことしてるから見てただけだぞ」


「相変わらず謎だ……」


「ガハハ。気配のほうはこれをやるから暇なときにでも練習してみればいい」


 というと、ベイスは土でできた小さなペンギンをテラオに渡した。かわいくデフォルメされた小さなペンギンは、ベイスのような大男にはちょっと似合わない。


(もしかして、この小さなペンギン。ベイスs「ぐげぇっ」


「おめえ今余計なこと考えただろ」


 考えを読まれ、さっきダメージを受けた頭頂部を再度殴られたテラオ。


「す、すびばぜん……。プレゼントありがとうございます」


「プレゼントって、あぁーまあいいや。頑張って練習しろよ!」


 なぜだか複雑な表情で去って行くベイス。

 あまりシノービの小屋の前でうろうろしているのもなとでも思ったのか、テラオは素直にマイゴザへと帰った。


 ゴザに戻ると小さなペンギン人形は小さな本棚の上にちょこんと置かれた。


「部屋……というか、居住を許されたスペースって感じだけど。家具が増えてきたのはなんかいいね」


 吹きさらしで屋根も壁も無いスペースだが、帰る場所があると言うだけで落ち着く物。

 ここでは雨は降らなそうだし、暑くも寒くもない。まぁ病気にもならないボディーだから、雨が降った所で何ともないのだろうが。

 テラオは考え事をしているのか、ぼーっとした様子で珍しくのんびりと過ごしている。


 いつの間にか日も暮れ、辺りは暗くなってしまった。


(うわ、ぼーっとしすぎたかもしれないな……)


 我に返り周囲が暗くなっていることに慌てたのか、ヘッドライトの魔法を使いノート開いた。


「そういえば気配察知の練習にペンギン人形くれたんだよな……。でも人形に気配って?」


(まず、気配って何だろう……、そこからだよな。生きている物が発する何かが気配かなぁ。生きている物は全て魔力を持って……なかったよな、前世で魔法ってなかったし。うーん)


「生きてるって体温かなー、死んだら冷たくなっちゃうからなー。あーでも、あそこにはドラゴンがうようよいたよな……、あれは爬虫類っぽいよな。体温じゃないかもしれないな」


 生きているって何だろうと、哲学的なことを考えているテラオ。ごろんと寝転がり、ぼんやり夜空を見上げている。

 「ぐぅぅ、わしの命はここまでじゃ、後は頼んだぞ。がくっ」などと、寸劇を始めたりしてるが、一応真剣に考えてはいるらしい。


「あー病院とかでピコンピコンピーッ、ご臨終です。な場面のピコンピコンが生きてるって感じだよな、あれって心電図だったよな……」


(心電図ってことは電気だよなー、微弱な電気信号が有るのが生きてるってことかなー。気配を探るって言うのは電気を探っているのかなー)


「アンデッドとかいるのかな? あれは生きてないよな。生きている物の気配だけじゃ駄目なのかな……」


 いくら考えても何も浮かばないテラオは、座禅を組むように座り、目を閉じて周囲に魔力を広げ始めた。

 じわじわっと広がって行く魔力、薄く広く伸びて行く。


(空間把握はだいぶ上達した気がするな、薄く広げてもいろいろわかるようになってきた。魔力を探るって言うのはどうだろう。……アンデッドって魔力っぽいし、前世の世界にも、もしかしたら居たのかもしれないし……)


 今度は広げた魔力を引っ込め、ただじっと座禅風に座り、心を静め周囲を探り始めたようだ。


 動かないテラオ、真剣に暗闇の中に何かを見つけられないかと探っている。


 どれくらい時間が経っただろうか。かなり長い時間真剣に、繊細に周囲を探っている。


(お!遠くの前方と右側にほんの少し魔力を感じる)


 このきっかけを逃してなる物かと、さらにじっくり探るテラオ。


「前方は……これは案山子か! 右は……羊たちだな。ふぅ微弱すぎてわからなかったけどコツは掴んだかもしれない」


 魔力を持つ生き物? を探知することができるように成長したらしい。


「と言うことはだ……、空間把握で魔力ダダ漏れしていると、ここにいますよと教えているようなことになっちゃうのか。……もっと気が付かれないような、薄い魔力でやらないと斥候としては落第かな」


 気が付かれないような魔力、少なくとも羊や案山子から漏れている魔力より少ない量で空間把握をしないと使いものにならない。

 テラオは気が付いたことをノートに書き足して行く。


「ペーターさんとか他の人の魔力って全く感じられないな。みんな気配とか魔力とか遮断して生活しているのかな……。いや、あの人達はなんかいろいろ違うよな」


「空間把握の課題と魔力感知の精度アップはできたけど、気配だよ気配。気配って何なんだー」


(叫んだ所で解決しないんだよなー。魔力はベイスさんに力業で教えてもらえたけど。気配はどうなんだろうなー)


 と、さっきもらった小さなペンギン人形を思い出す。


「気配のほうはこれをやるからって言ってたよな、この人形がヒントなのかな」


 本棚の上に置いてあった人形を手に取り、頭の上にのせたりちゃぶ台の上に置いたり、おでこの上にのせて寝転がったり。真剣なのだろうが人形遊びをしている子供のように見える。


「気配って何なのさーなのさーのさーさー」


「…………、一人エコーしても空しいだけでした……」



――♪ピンポロポン。十二日目の朝です、走り込みの時間です。


――♪ピンポロポン。カユトマールを支給します。


 気配については結局わからず。グビッと一発今日もダッシュで訓練島へと走り出した。



  ◇



 走り込み、素振りに弓の練習を終え、昨日と同じく二体同時の案山子との打ち合いを始めたテラオ。

 昨日よりさらに強化されているらしい案山子を相手に余裕は全くない。

 たまにどちらかに攻撃を加えようとするも、防御を抜くことができず、逆に隙を突かれて防御を破られてしまう。

 破られた防御は、体の表面を動く部分硬化盾で一旦覆いすぐに修復する。

 だいぶ慣れてきた部分硬化盾も、現在は三つ同時に動かせるようになっている。

 それでも追いつけずに当てられてしまうのだから、案山子の実力はかなり高い。


 打ち合い訓練に集中しているテラオの突然背後に巨大な威圧が!

 咄嗟に真横へ躱すテラオ。

 振り返ったテラオは、ものすごいオーラを発したベイスと目が合う。ベイスはやたらと重たそうなハンマーを振り上げにんまり笑っている。


「よし、ちゃんと気が付いたな。これが気配だ!」


「いやいや、これがって言われても。何かをつかめた気が全くしないんですけど」


「そうか、それは残念だな。まあ仕方ない、打ち合い練習を続けてくれ」


 残念そうに帰って行くベイス。テラオはちょっと気にした表情をしつつ、打ち合い訓練を再開した。


 訓練に集中しているテラオの頭上に巨大な威圧が!

 咄嗟に後ろへ下がるテラオ。

 上空からやたらでっかく重そうなハンマーを担いだベイスが落ちてきた。


「え、えーと……」「これが気配だ!」「すみません……」「そっか」


 残念そうに去って行くベイス。


「これ、何回もあるのかな……」


 その後、背後や頭上をちらちらと警戒するテラオは、集中を欠いてしまったのか何度もダメージを受けてしまう。

 腕時計さんの終了の合図が出た頃にはぼろぼろになっていた。


「ひでぇなおい。もっと集中して取り組まないと上達しないぞ」


「いやいや! ベイスさんがいつ来るかと警戒しちゃって。二度あることは三度あるって言うじゃないですか。三度目は絶対あると思って警戒しますって」


「ガハハハ、二回もやればなんとなくわかるはずなんだがな。楽しみに待っていたのなら済まないことをしたな」


「いえ、楽しみって訳じゃ」


 来るぞ来るぞと思っていると来ないもの。

 もう無いと言ってもらえればもう少しいい感じで練習できたのだろうが……、今回はひどかった。集中しつつ警戒する、今後の課題が一つ追加された。


「まあいい、今日は昨日の続きの攻撃魔法を教えようと思っている。だがその前に、魔法防御を覚えたほうが良さそうだな」


「魔法防御?」


「んー、物は試しだ。おまえのできる防御をがっちがちに固めて、ちょっとそこに立ってろ」


 ベイスがそう言うと、右手には火の玉と水の玉に氷の矢、左手には土の槍と風の刃が出現した。慌てて防御を固めるテラオ。

 「行くぞ」の声と同時にテラオに四種の魔法が放たれる。追加で雷とレーザーのような光がずばっと通過する。


「全部最小限のダメージになるように調節してある。痛い位だと思うが大丈夫だよな」


「うぅ痛い……」


 火の玉で左腕にやけど、直後に水の玉で冷やされ氷の矢でちくっと刺される。

 土の槍と風の刃は防御で防げたが、衝撃は伝わり右腕にあざができた。

 雷は防御を通過しつま先にびりっと、レーザー光線も防御を通過し服の端っこに小さな穴を開けた。


「と、このように。反対の力で押し返す、と言う性質の物理防御では防げないのが魔法攻撃だな」


「なるほどです、魔法防御は大事ですね。痛いのも熱いのもイヤですから……」


 がっちり固めたはずの防御は、魔法にはほぼ役に立たなかった。ベイスが本気で魔法を放てば、テラオの防御など全く障害にならず通り抜けてしまうだろう。


「おまえが受けた魔法攻撃だが、火の玉はその場で破裂させやけどを負わせた。

 水の玉は物理防御に当てて防御に穴を開け、やけどした所を濡らしたよな。

 で、空いた防御の穴に氷の矢を刺した。土の槍と風の刃は当ててから弾ける設定だったから、防御に穴が開いた所で衝撃が通ったわけだ。

 雷と光は物理攻撃じゃないから通過できたって訳だな」


「そ、そうだったんですね。当てたあと弾ける設定か、深いな」


「おまえの場合はまだ飛ばすこともできてねぇが、そういう設定で飛ばせば攻撃魔法は強いぞ。

 で、本題の魔法防御だ。物理攻撃の防御は反対の力で押し返すってことだったが、魔法の防御は迎えに行って包んで潰す! だな」


「迎えに行って包む? 潰す?」


 魔法防御と言えば、シールドに当たった魔法攻撃がかき消されるような物をまず思い浮かべるだろう。

 ベイスの説明が想像全く違う物だったのだろう、驚きと同時に理解に苦しむ表情でぽかんとするテラオ。


「こいつにおまえの光の玉を当ててみろ」ベイスは手の平に薄く緑に色がついた板状の魔力を出現させた。


 言われた通りに光の玉を板目掛けて飛ばす。

 板が光の玉に反応し、スッと光の玉のほうへ動く。光の玉が当たる直前、板が変形し包み込むと、混じり合いどちらも消滅してしまった。


「消えちゃいましたね」「そうだな」



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