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20,空間把握を習得しよう

 【服を手に入れよう その二】を受けるため、ダッシュで牧場へ向かうテラオ。ペーターは相変わらず牧場入り口で踊りながらテラオを迎えた。


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「早速受けに来たネー、六十分間で五匹の羊ちゃんを丸裸にしてきてネ~~~♪」


「丸裸って……」などと照れながら、テラオはバリカンと大きな袋を受け取った。


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「羊ちゃんを優しくホールド、バリカンを首からおしりに向かって一回でなが~く刈るんだヨ~~~♪」


「なるほど、お互い抱き合う感じ……照れるなぁ」などと羊相手に照れるテラオ。さっきからいろいろとおかしい。


(速度が上がる肉体強化と、筋力も上げないとだよな……あとは蹴飛ばされても痛くないように)


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「準備できたネー、スタートダヨ~~~♪」


 テラオはまず冷静に、身体強化魔法の準備をすると羊に素早く迫りがしっと捕まえる。

 よし今のうちにっとバリカンを手に取り毛を刈ろうとするが……。


――ヒュン。


「う、うごかないでぇー」


 片手では羊に振り回されてバリカンを使えない。両手で押さえていては毛は刈れない。ロデオ状態であっちこっち引っ張り回されるテラオ。

 いくら強化しても軽い体重ではどうにもならなかった。


「こんな時は考えないと……今できる他の手段は!」


 テラオは拘束の魔法を放ち、やさしく羊の動きを止めた。


「こういうことかー、さっき覚えたばかりの物がつかえる。なんか頭使って解決すると気分が良いね」


 羊たちを次々とさっぱりさせて行くテラオ。

 背中と脇の毛は楽々刈れたが、おなかの部分はなんとなく怖いのか。五匹の羊はおなかと顔だけ毛が残った不格好な姿になっていた。それでも五匹分の毛を集めると、ちょうど大きな袋いっぱいになる。


「ペーターさん、クエスト終わりましたー」


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「おーすごく早かったネー。報酬を持ってくるからまっててネ~~~♪」


 大きな袋とバリカンをペーターに渡すと。


 ガン!――バン!


【服を手に入れよう その二


 クエストクリアー


 クエスト報酬:ちょっといい服一式】



「いででで……、角はやめてください角は」


 なぜか今回も看板の角で殴られる。


「おめでとう。悲願の毛刈り、やっと達成ね」


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「ちょっといい服と、追加報酬で座布団セットダヨ~~~♪」


「ちょっといい服は、ちょっとうれしい機能が付いた着心地もいい服よ」


「おー、高性能服。座布団もうれしいー」


「今日の修行はこれで終わりね。帰って今日のおさらいでもしなさい」



  ◇



 マイゴザへ戻ってきたテラオ。

 早速高性能服へと着替え、座布団を並べてちゃぶ台の前に座る。念願の羊の毛刈りを達成できてご機嫌なようだ。

 今日のおさらいと言うことでノートを広げ一日を振り返るようだが、何故かにやにやしている。


(シノービさ~ん、お友達になってくれないかな~)


――バリバリバリバリ


「あばばばばばば」


 なぜだか知らないが腕時計さんのお仕置きが襲った……。


「う、うぅ。とりあえず今日のまとめでも書いておくか」


 テラオは今日教わったことをノートに列記して行く。


 案山子二体による厳しい特訓。

 攻撃魔法は、光の球を飛ばしただけでまだ途中までしか習っていない。

 弱体魔法は、三種類をとりあえず使えるようになった。ついでに三種混合も……。

 『シノービ』に空間把握と気配察知の鬼のような幸せな特訓をしてもらった。

 服クエストその二をクリアー。


 ノートのに書かれたシノービの文字だけが何故か太字だった。


(今日の課題は、魔法が十メートルほどしか飛ばせないこと。気配察知、空間把握が全くつかめてないってことだよな)


「ゼロから十メートルに成長した魔法のほうは……、明日の訓練で伸ばせそうだな。気配察知と空間把握のほうは考えないとだな」


(気配って何なのだろう……人の居る気配、モンスターの居る気配。

 そういえばメニューやベイスさんが突然現れるのは気配を絶っているからかな? 声を掛けられて初めて居るのに気が付くよな……)


「いや、あの人達はもっと根本的に違う気がする……」


(空間把握って言うのは何だろう。気配とは違う物、……そこに何かがあるのがわかるってことだよね。レーダーみたいな物かな……)


 テラオは物は試しと、目を閉じて魔力の壁を自分の前垂直方向に立てた。

 魔力に何かあったら教えて欲しいとお願いして、目を閉じながらその壁をぐるりと一周させている。


(なんか有るのはわかったけどよくわからないな。……ごつい壁じゃなくてふわっとしたカーテン状がいいかもしれないな)


 先ほど作った魔力の壁を薄く作り直し、ぺらぺらの紙状の壁ができあがった。再び目を閉じぐるりと一周させる。


「おぉ、ちゃぶ台と本棚はわかった気がするぞ。これが空間把握かもしれない! あれ、でも座布団がわからなかったな……ふわっとした物はわかりにくいとか?」


 それからテラオは、いろいろ試行錯誤しながら空間把握を試した。

 紙よりもっとふわっとさせたり、鉄板のように硬いけど薄い感じにしたり。

 いろいろ試す内に、魔力をあまり使わない壁、ふわっふわのスッカスカな物でも空間把握ができるようになってきた。

 つまり、空間把握の能力が上達したようで、細かい物まで把握できるようになったということだ。


「あれ?座布団の布の袋部分はわかるのに、中の綿がわからないんだ。……これってもしかして」


 試しに座布団の上に枕を乗せて試すが、周りの布の袋部分しか把握できなかったようだ。


「羊の毛に秘密がありそうだ!」


 日はだいぶ傾いているが、まだ夕方前。牧場にいるはずの羊の元へテラオは駆けて行く。


「うひょーやっぱりかー」


 羊の前で空間把握を試したテラオ。刈られて毛の無い背中部分は把握できたが、腹の部分は把握できないことを発見した。


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「テラオくんすごいことに気が付いちゃったネー。ここの羊ちゃんズの毛でマントを作れば認識阻害の効果があるんだヨ~~~♪」


「納得の高性能羊。……もしや皆さんは羊の服を着ているとか?」


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「あはは、無くても隠れられちゃうヨ~~~♪」


「そ、そうですか、そうですよねー。ありがとうございましたー」


 ここの人たちにはチート装備は不要らしい。

 ご機嫌で踊りながら手を振るペーターに見送られ、テラオはマイゴザへと帰る。と言ってもそれほど離れていないのだが。


 帰り道でもふわっとした壁をぐるんぐるん回して空間把握の練習に励むテラオ。


「そういえば、ここに来てから散歩ってしたことないな……ちょっと行ってみるか」


「べ、べつにシノービさんの小屋が目に入ったからとかじゃないんだからね」


 だが、足は緑屋根の小屋へと向かっている。


「し、シノービさんがいるかなーって、覗こうって言う気は一切無いんだからね」


 自分に言い訳をしつつ、欲望に忠実な行動をしている。

 テラオが緑屋根の小屋へと空間把握の壁を伸ばしていると……。


――ゴッガーン!


 ものすごい音がテラオの頭頂部から響いた。

 メニューの看板の角を十とするなら、この音は百以上だろう……。


「ぐぐぐぐ……い、いだい」


 涙目になりながら振り返るテラオ。そこにはすごく良い笑顔のベイスが立っていた。


「あほたれ、何しようとしてるんだおまえは」


「い、いえ。決してそんなやましい気持ちはございません。記憶にございません」


 慌てすぎて政治家のような言い訳をしている。


「っつったく、相変わらずおもしれぇなおまえは。それはそうと空間把握だがな、壁をぐるんぐるん回さないで、ふわっと周囲に広げてみろ。たぶんそっちのほうが楽だぞ」


「え?」


 壁状の魔力をしまい、ふわっと全周囲に広げるように魔力を配るテラオ。

 本当に楽に空間把握をすることができたのか、目から鱗と言った表情。


「あ、あれ~~? こんなに楽に? ぐるっと回す手間と、頭の中で点と線を組み立てる作業が要らない……。嘘のように楽に把握できます」


「ガハハハ、空間把握の練習方法は、部屋に魔力を満たすってのが一般的だ。だが、おまえはおかしな方法で練習しだしたからな、見てて楽しかったぞ」


 相変わらずの意外な行動だったようだ。ぐるんぐるん回すのと、散歩の両方とも。



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