19,斥候技能講習を受けよう
弱体魔法の習得は試行錯誤の連続だった。
振動遮断は余計なことを考えず、魔力にそういう性質になって欲しいと頼むことで成功した。
地面への固定も同じように、地面の中に含まれる魔素に節約魔法を使う感じで、ふんわりと広げて固定化するとうまくいった。
地上部分の拘束は蔓を伸ばしてぐるぐる巻き付ける感じで実現。試しに案山子に動いてもらい拘束がしっかりできていることを確認できた。
三つの魔法がそれなりにできるようになった頃、ベイスが戻ってきた。
「今度ははまともなのができたようだな。ちゃんとした攻撃魔法は次の機会だ、今日は最後に魔法発動の単純化を教えてやる」
「発動の単純化?」
「よく使う魔法、今回は頭の上に光の玉を出す魔法で説明するぞ。
まず、魔力を集める、頭の上に魔力の玉を作る、光るように指示を出す。節約魔法の時はさらに手順が増えるな。
この工程をこの魔法に名前を付けるなどして、反復練習するんだ。何度もやっている内に体が覚えるって奴だな」
「なるほど、呪文を唱える必要は無いけど。名前を唱えると楽に発動できるって言うことですね」
「そういうこった。反復練習で体、まぁタマシイにだな、覚えさせるようなやり方だ」
テラオは頭の上の光の玉を【ヘッドライト】、目眩ましの【フラッシュライト】など、数種類の魔法の名前を大声で叫びながら反復練習を始めた。
攻撃魔法を覚えたら、きっと厨二な名前を付けて叫ぶのだろう。
「あー大声で叫ばなくても、実は声出さなくても、その名前を思うだけで発動できるんだが……」
ちょっと恥ずかしくなったのか、テラオ赤くなっていた。
光の玉に変な厨二ネームを付けていたらもっと恥ずかしかっただろう。
バン! 唐突にメニューの看板がテラオの目の前に。
【チュートリアル -斥候技能編-
斥候技能の基礎を身につけるために、練習方法を教えてもらおう。
】
「あんたの望んでた斥候技能講習よ。緑の屋根の小屋へ行ってらっしゃい、ベイスの小屋の隣よ」
◇
テラオが勢いよく小屋の扉を開けると美少女が! 忍者衣装の女の子が立っていた。
「あーしが斥候技能を教えるシノービッス、でござる。よろしくッス、ござる」
「うつくしかわいいぃー」
うっとりなテラオ、シノービを見つめたままでれっとした顔で固まっている。
ガゴン!
「か、角は危険ですよ、刺さってますよメニューさん。何で怒ってるんですか……」
何故かわからないが、メニューの看板の角がテラオの頭頂部を襲った。なぜだかはわからない。
「あんた、あたしの時と態度が全然違うじゃない」
「そ、それはそのぉー、えーと」
「いいわよ、わかったわよ。まぁ鼻の下伸ばしてないでちゃんと教わるのよ」
「伸びてないよ!」「これが伸びた鼻の下ッスね、でござるね」
振り返ると自分の顔をじっくり見ている美しかわいい美少女が! 伸びてなかった鼻の下も伸びるという状況だ。
「シノービ! さっさと始めなさい。あとがつかえてるわよ」
なぜだか不機嫌なメニュー。
「わかったッス、でござる……。
――テラッチは斥候系技能の内『気配の察知』、『気配遮断』、『罠の知識』、『マッピング』ついでに『獲物の解体』を覚えたいって言う話は聞いてるッス、ござる。他になんか希望はあるッスか?ござるか」
「テラッチ……じゃあ僕はシノッチと「何言ってるッスか、殺すッスよ」ごめんなさい」
シノービとお近づきになろうとしたテラオは即撃沈。ここには甘い生活は存在しない。
生前のテラオは魂に枷をはめられていて、生きるだけで精一杯だったらしい。もしかしたらこれが初めての異性を意識した反応……、いやそれにしても酷い。先に会っているメニューにも失礼だ。
怒られたテラオは渋々と言った様子で、クエスト失敗の経験から考えたことを話すことにしたようだ。
「えーと、盗賊のアジトに潜入して、人質を救出するのに必要な技能とか。飛び道具が飛んできても察知できるような、そんなスキルがあれば教えてもらいたいです」
「了解ッス。歩き方や走り方、潜入技能に空間把握を追加ッスね、ござる」
「はい。……えと質問なんですが。語尾にござるは必要なんですか?」
とってつけたような語尾が気になったのか、聞いてしまったテラオ。
「強いらr|(――ッ!)アイデンティティーッス、ござる」
(背後から圧力を感じた。絶対強いられてる……上からの強制力的な物を感じる)
「そこは触れてはいけない部分ッス、でござる。早速、空間把握と気配察知、ついでに魔力感知のおさらいなんかをまとめて詰め込み学習ッス、でござるよ」
「つめこみ?」
シノービの眠そうな顔が良い笑顔になりニンニンと印を結ぶ。
――ガタン
……テラオの立っていた床が抜け、落とし穴に落とされた。シノービはとても良い笑顔をしている。
「えぇぇぇぇぇぇぇー」
「いい落ちっぷりッス、ござる」
◆
落とし穴の下はちょっと広めの空間。天井全体がうっすら明るく光っている。
尻をさすりながら起き上がるテラオの前に、シノービがシュタッっと降りてきた。
「じゃ、訓練の前に説明するッス、ござる。テラッチは部屋の真ん中に立つッス。、周囲から絶えず矢と銃弾とファイヤーボールと石と罵声が飛んで来るッス、でござるよ」
「罵声もなんだ……」
「最初はテラッチと同じ位の高さからだけ飛んで来るッス。慣れた頃に上からも下からも、あらゆる方向から飛んで来るッスから頑張って弾くッスよ、でござるよ。
終了の合図は専用腕時計さんが直接脳内にお知らせするッス、ござる」
「えと、なんで直接脳内に? こいつ直接――」
「視力聴力を封印するッスからね、ござる」
何か言おうとしたテラオの台詞を遮り、シノービはやたら物騒なことを言うとニンニンと印を結ぶ。
――テラオの視覚と聴覚は封印された。
「ふ、不安すぎる。いきなりこれはハードル高すぎますよー」
(自分の声も聞こえない……変な感じだ。これはヤバイ、物理防御を強化して構えておかないと……。盗賊のアジトの時みたいな一撃死だけは避けるぞ)
テラオは真正面から赤々とした魔力を感じ、咄嗟にしゃがんで避ける。
すぐに後ろからも赤い魔力を感じ、ジャンプして避ける。
魔力の感知は慣れているのか、魔法だけは避けている。
だが、弓や銃弾は全く分からないのか撃たれるがまま。当てられた衝撃がテラオの軽い体をあっちこっちに振り回している。
(ぐぅ、この修行は想像以上にきつい。訳もわからずなぶり殺しにされるようだよ)
ぼこぼこになりながらも、物理防御の修復再構築を繰り返し耐えるテラオ。
(ハッ! この攻撃はきっと、シノービさんが一生懸命僕のために動き回って放っているに違いない。ということは、シノービさんへの愛があれば位置を探ることができるはず! やってみせるぞー)
――バリバリバリバリー
「あばばばばばばばー」
理不尽な電撃がテラオを襲う。
「あー今日のチュートリアルはここで終了ッスござる」
なぜだか知らないが、あっという間に講習は終わってしまった。
シノービの声と姿が確認できる、視力聴力は回復して小屋の中に戻っていたようだ。
「あれ? 終了は腕時計さんが直接脳内にって……」
「面倒くさくなったんじゃないッスか、ござる」
何故かはわからないが、腕時計さんに呆れられたらしい。何故だかはわからない。
ガン!――バン!
【服を手に入れよう その二
かわいい羊たちの毛を集めよう!
袋いっぱいに『羊の毛』を集めたらクエストクリアーだ!
羊はすばしっこいから注意だぞ!
レンタルアイテム:魔動バリカン、布の袋(大)
クエスト期限:六十分間
クエスト報酬:ちょっといい服一式】
テラオは頭を看板の角で殴られ、ついでとばかりに正面からも叩かれた。
「さっさと受けに行きなさい」
「メニューなんか厳しくない?」
「早く行かないと失敗扱いにするわよ」
「行きまーす、受けまーす」




