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18,攻撃、弱体魔法を教わろう


「オラァ掛かってこいやー」「遅い、遅すぎるゾー」


「オラァこっちががら空きダァ」「止まって見えるゾー」


 訓練島では案山子二体にしごかれ、必死に攻撃を避けているテラオがいた。

 背後に立つベイスに気がついてはいるようだが、話す余裕は全くなさそうだ。


――♪ピンポロポン。打ち合い練習終了の時間です


「オラァ今日の所はこの辺で」「勘弁しておいてやるゾー」


 ぐたっとその場に座り込み、疲れ切った様子のテラオ。


「か、案山子が、案山子がしゃべり出して、自由に動いて攻撃してきたんですけど……」


 やっと話す余裕ができたテラオ。あまりにも激しい攻撃で、かなりテンパっている。

 いつもなら、『しゃべったあああああああ』とか言いそうな場面だったのに残念だ。


「ガハハ、説明忘れてた、すまん。リーチの違う両手持ちの武器だとほら。動けない相手に一方的で訓練にならないだろ……。それで、だな。ガハハハハ」


「うぅ、すっごいびっくりしたんですよ……死ぬかと思った」


 うっかり説明忘れでネタをつぶされたらしい。本当に残念だ。


「すまんな。まあおまえ死なないし、対応できたんだから良かったな。

 さて、今からおまえに攻撃魔法と弱体魔法を教える。変な所で使って小屋とか壊すんじゃねぇぞ」


「おーついに光だけの魔法使い卒業かー、うれしいなー」


 新しい魔法と聞いて、テラオは元気を取り戻したようだ。

 今まで覚えた魔法は光の玉と身体強化、ちょっとだけ自分を治癒する魔法。他人が見てわかる魔法的な物と言えば光の玉だけ。

 やっぱり見た目に派手な攻撃魔法は夢だったようで、テラオの目には期待が溢れている。


 ベイスが手の平でバンっと地面を叩くと、五十メートルほど先に小山ほど有る大きな土壁ができた。


「おまえの場合、いきなり攻撃魔法じゃ意外なことしそうで危なっかしい。まずは光の玉をあの的まで飛ばす、ってことから始めろ」


「そういえば魔法を飛ばすって初めてです、やり方とか有るんですか?」


 魔法は近場に設置するだけで飛ばす魔法は使ったことがない。飛ばし方がわからなければ飛ばせないだろう。


「あー、簡単なことだ。光の玉を作る時に、スピードと方向を強くイメージすれば良い」


 イメージするだけ、やけに簡単な説明だった。

 ふむふむと頷き念じ始めるテラオ。

 だが、うまくイメージできなかったのか、テラオの周りに光の玉がいくつもコロンコロンと転がる。


「やっぱりな……、普通は失敗したらその辺転がるってのはないんだよな。……光で良かった」


 ベイスはあきれ顔でぶつぶつ呟いている。

 しばらく様子を見ていたが、諦めたのかその辺の片付けを始めた。すぐには無理だと判断されたのだろう。



「ベイスさん、飛ばすんじゃなくて的に置くことはできました」


「え? はぁぁぁぁぁ? ちょっとやって見せてみろ!」


 テラオがムグゥっと念じると、細い糸状の魔力が土壁の真ん中辺りまで伸び、先端に魔力の玉が出現……。指先の糸が切れるとゴムのように先端の玉に吸い込まれ、光の玉となってからころんと落っこちた。


「あ……あほたれぃ、魔力無駄遣いしすぎだってんだよ。糸状にビヨーンと伸ばすって、あほらしすぎて誰も思いつかねぇよ」


 やっぱり駄目なほうに才能があるテラオ、発想が独特すぎるのかもしれない。


「はぁ失敗ですね」


「い、いや待て、あれはあれで有りってことでいいのかもしれねぇ。最終的に玉に糸が回収されてるから無駄とも言えねぇしな……。

 糸が繋がったままでも遠くにある物を操作するとか……、繋がっているからできることが有るかもしれねぇ」


「なるほど、これも無駄じゃなかったですね」


 予想通り、意外な魔法で驚き呆れたベイス。

 独特な発想も悪くないようで、今回は落ち込まなかったテラオ。

 魔法を飛ばすほうの練習はしばらく継続して、十メートルほどは飛ぶようになったところで一旦中断。今度は弱体魔法の指導に入る。


「今日おまえに教える弱体魔法は三つ。『拘束』、『暗闇空間』、『沈黙空間』だな。他にもあるが、今のおまえには必要ないと判断した」


「その三つがあれば……あの時」


 盗賊の洞窟への潜入クエストの失敗を思い出しているのだろう。

 ベイスの言った三種の魔法はどれも見張りを無力化するのに役立つ物だ。あの時これがあればと思ってしまうのも無理はない。


「たらればは無意味だぞ。同じ状況になった時、おまえが弱いままならまた悔やむことになる。そっちのほうがイヤだと思うなら強くなれよ」


「わかりました、弱体魔法三つ教えてください」


 次こそ、と思う気持ちが前を向いて進む力になる。

 悔しい思いを繰り返さないように、真剣な目をベイスに向けるテラオ。


「おう、まずは拘束だ。

 こいつは地面の中に魔力を根っこのように張り巡らせアンカーにして固定、そこから強化された魔力をロープ状に伸ばしてぐるぐる巻きにふん縛るって魔法だ。

 拘束する相手の重さを予想して、少なくともその数倍の重量で固定化する必要があるな」


 ベイスは魔法で一立米ほどの土の立方体を浮かべ、その上に縄のような物を伸ばした。

 立方体の上では土でできた人形が縄に捕らえられてもがいている。


「次に暗闇空間だ。

 こいつは対象の少なくとも目の周りだけ、できれば全身を暗黒の魔力で覆うってだけの魔法だ。魔力を感じられるかテストした時を覚えてるか? あの時包んだ暗黒の魔力が暗闇の魔法って訳だな。一度体感してるから例は要らないな」


「最後に沈黙空間。

 こいつはしゃべることができなくなる魔法って訳じゃねぇ。声を伝えなくする魔法だ。

 対象を少なくとも口と鼻、基本は首から上を包んで振動をすべて遮断する。

 音ってのは空気やらの物質を伝わる振動ってのは知ってるよな。伝わらなければ声は聞こえねぇってことだ。

 伝声管や糸電話なんて抜け道があるように感じるだろうが、範囲内の物質の振動を範囲外に伝えないっていう魔法だ。

 だから例え糸が繋がっていようが、振動は漏れない。外の音は中に、中の音は外に伝わらねぇ、そういう魔法だ」


 と言うとベイスは卵形の半透明の膜で案山子を包んだ。

 案山子は口をカタカタ動かしながらぴょんぴょん跳ねている。きっと何か叫んでいるのだろう。


「この三つを今日世話になった案山子相手に練習してろ」


(ベイスさんに教えてもらった弱体魔法三種、三つとも相手を包むという部分は共通しているっぽいよな……また変なことしないように基本を守って練習しよう)


 などと言っているテラオ。だが普段から変なことをしようとやっている訳ではないはずだ。意識してしまうのは逆効果かもしれない。



 案山子の顔を魔力玉で包む。これはさっきまで魔力を飛ばす練習していたため、成功はすぐだった。

 だが案山子全体を包むとなると、使う魔力も多くなり制御が難しそうだ。


(顔を包む位の大きさならすぐに出せる。あの時は二人居たから二個以上同時に出せないと役に立たないよな)


 二個同時にパッと出してさっと消す。そんな練習をしながら、今度は三個四個と増やして行く。

 『大きくできないならいっぱいで包めば良いじゃない』という発想で、たくさんの魔力玉で包んだりしていたが、無駄に魔力を消耗してしまうだけだったらしい。


(小さな魔力玉でびっしり囲う? いや、張りぼての魔力玉なら大きくできそうだし、もっと余裕ができるぞ)


 頭を丸ごと包む位の魔力玉を、張りぼてになるように広げて行く……。見事包んで成功した。


「できたー。でもこれってどっちに固定されてるんだろ……動いたら置いてけぼりになるんじゃ意味ないよな」


 自分自身をくるっと包んで右へ、左へ、反復横跳びして、訓練島をダッシュで一周して、ちゃんと付いてくることを確認した。


「あとはこれに暗闇と振動遮断だったよね。ついでに拘束もできると良いけど……中の物を通さないシールド状にして、地面と固定ってのでも良いのかな」


 また勝手な解釈で三種混合魔法を作っているテラオ。


「振動遮断はちゃんとできてるかわかんないな……。そうだ、重装案山子さんなんかしゃべってよ!」


 リクエストに応え、重装案山子は「オラァオラァ」と叫びだした。


「すべての振動を隔離する感じ、二重にして間を真空にするだっけ……」


 それは魔法瓶の構造だが、確かに完全に真空にすれば振動も伝わらなくなる。


「二重の外を暗黒の壁、内側を中から外に出さない壁、間を真空。これか!」


 早速実行してみると、オラァオラァ言っていた声が聞こえなくなり、卵形の魔力玉の外側が真っ黒に染まった。


「成功っぽいけど、案山子は動いてくれないよね。自分に掛けて確認してみよう」


 テラオは案山子に掛けた魔法と同じ物を自身に掛ける。


 テラオは真っ暗な、何も見えない空間に居た。

 中で光の玉を使ってみるが、外は真っ暗なままで様子は覗えない。

 次に中から外に出さない壁を確かめようとしたのか、一歩前に踏み出した途端。


――コロン


「固定するの忘れてたー」


 真っ黒卵形の塊が前方一回転、勢い余ってごろんごろんと不規則に回転する。

 中のテラオはぐるんぐるん強制回転させられる。解除すれば良い物の、焦って中でばたばたする物だからいつまで経っても止まらない。


 ガッゴ~~ン!という音とともに回転が突然止まった。

 卵にひびが入り外の光が入ってくる。ぱかっと割れるとベイスが呆れた顔でテラオを見ていた。


「おぃぃ! なにやってんだよぉ」


「すみません、拘束の魔法のつもりが、地面に固定し忘れてて……」


「なんで拘束の魔法がたまごの形で真っ黒で二重壁なんだよ! 拘束なのに中でコロンコロン転げ回れるのもおかしいだろうが」


「えっと、暗闇と振動遮断と拘束だからこんな形かなーと」


「なんで三種類一緒にするんだよ、別々の三種の魔法だよ!」


「あ……そうでしたよね、一緒にしたらお得かなーって。ははははー」


 やっぱりの結果だ。お得かなーではない、思いつきで魔法を作ると危ない。毎度呆れられるテラオもある意味優秀だ。


「いいけどよ、効率良いしな。二重壁は保温につかえる、真空にしているのは良い考えだと思うが、糸電話の説明しただろ。壁を何かが通過している状態でも振動を通さない、結界のような物じゃないと沈黙の魔法には足りねぇな。

 あとは地面にちゃんと固定したら三種混合魔法は完成だな。ガハハハ」


「それと、この魔法えげつねぇな。中に火の玉の魔法を放られたとしたらどうだ? こえぇだろ」


 保温された狭い隔離空間で火を焚く。言われてみればかなり恐ろしい。

 想像してしまったテラオはぶるっと震えた。テラオ自身中で光の魔法を使っている、これがもし松明だったり火の魔法で明かりを付けようとしていたら……。


「三種それぞれを個別につかえるようにもなっておけよ、そういう用途もあるからな。

 拘束は地下にアンカー、地上はロープを地面から生やすってのが理想だ。

 暗黒空間は顔だけ、できれば全身、こいつは張りぼてでもかまわねぇ。

 沈黙空間は口鼻耳できれば首から上を丸ごとだ、こいつは張りぼては駄目だ。

 それぞれ意味が有るんだ、ちょっと考えながら練習しろ、全部まとめるとかあり得ねえんだがな……。ガハハハ」


 ちょっとしたアドバイスを残し、ベイスはまた去って行った。


(ちゃんと見てるけど、ずっと一緒に居るわけじゃない。ここの人たちって謎だよな……、気が付くと背後にいたりするし)


 不思議な人達のことは気にしたら負けである。



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