表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/70

16,失敗から学ぼう


 ちゃぶ台の上のパンフレットとノートをパラパラとめくっているテラオ。

 メニューに言われた反省すべき所、考えなければいけない所を自問自答しながら、ぶつぶつ呟き考えている。


(まずは甘えを捨てることだよな。高性能なボディだから死ななかった、でも目標は異世界転生、不死身ボディーで転生できるなんてことはないんだ)


「けど、修行にはこの不死身ボディーに助けられている。というか不死身ボディーじゃないと耐えられない」


(リスクが無いことが問題なのかもしれないな……)


「だめだ、他を考えよう。今回何が足りなかったか、どんなことをすれば道が開けたかだったな」


(自分の実力を把握できていないこと、相手の実力を見極められていなかったこと)


「ステータスや鑑定なんて便利な物はない。敵だと思ったら全力で掛からないと殺される、そう思って行動しないと駄目だ。気絶させて無力化しようなんて考えがおかしかったんだよ」


(二人の敵に対しての攻撃手段はどうだったろう。フラッシュライトでの目眩ましでは応援を呼ぶことを止められなかった)


「あの時、魔法使いだと叫ばれてたな……、だから矢や投げ斧で遠距離からやられたんだな」


(二人を同時に戦闘不能にすることができたら……。難題過ぎる)


 パラパラとノートとパンフレットを捲る。


「手段が少なすぎるんだな……気配遮断で近寄ってから一人ずつ倒す? 残った一人に叫ばれるな」


(新しい魔法があれば解決できたかもしれないなんて思考停止だ。今の自分が持っている手段で何ができたか。状況を思い出してみよう……)


「洞窟と言えば有毒ガスや一酸化炭素中毒。あそこには松明の明かりが有った、小部屋を魔力の壁でふさいで一酸化炭素中毒を狙う?」


「いやいや、タイムリミットが六十分、そこに時間掛けすぎて間に合うとは思えない」


「そうだ相手はモンスターじゃない! 『話しかける』とか『注意をそらす』だったのかもしれない。盗賊だとは知らなかった感じで話しかけて、油断させて扉から離れた所へ誘導して殺すとかそんな手段が……」


(今までで一番まともな案かもしれないけど、いざとなったらできるのだろうか)


「やるしかないな、一回殺されたんだもんな……」


「扉の先は……僕の防御が甘かったよな、油断しまくってた。魔法攻撃は無かったから覚えたばかりの物理防御でなんとかできたはずなんだよな……。死亡判定されたってことは、急所に二発以上当てられたってことだよな」


「というか、見張りをなんとかできていたらあんな集中攻撃無かったんだな。はははっ」


 長い独り言会議がこの後しばらく続いた。

 その結果、今後の修行や様々な行動のために指針となる物を決めて、ノートの表紙に大きく書き込んだ。

 まず一つ目が、自分は弱いと言うことを改めて認識し、弱いなりに工夫する必要があると言うことで、『弱いなら頭を使え!』。

 次に、今回の失敗クエストで、いざという時に取れる手段が少なかったと認識し、

『手段を増やす』。

 最後に、ベイスにさんざん言われながらちゃんと認識できていなかった、『現実だ甘えるな!』の三つだ。



「なんだかまとまったみたいね」いいタイミングで現れるメニュー。


「うん、もうすこし自分に厳しく頑張ってみるよ」


「自分に厳しく、ね。じゃビビりとへたれを直さないとね」


「うわぁ、いきなり厳しいなぁ」


「あはは、期待してるわ」




――♪ピンポロポン。十一日目の朝です、走り込みの時間です


――♪ピンポロポン。カユトマールを支給します。


「よし!今日は服クエストその二だ、頑張ろう」


 グビッと一本カユトマールを一気飲みして、ダッシュで訓練島へ向かうテラオ。心機一転やる気に溢れているようだ。


「ベイス!」テラオが去って行った所で、メニューが誰も居ない空間に呼び掛ける。


「はい、現実感の欠如はなんとかなりそうですね」メニューの背後にベイスが現れた。


「そうね。ちょっと厳しすぎたと思うから、手段を増やす手伝いをしてあげて」


「攻撃魔法と弱体魔法の解禁ですね」


「少しタマシイの強度が上がってるから、もう覚えさせても大丈夫でしょう」


「了解、では行って来ます」



  ◆



 案山子との打ち合いをしている所にベイスがやって来た。


「案山子はどうだ、強くなってるだろ」


「はいっ、ぐっ、力が、強くなって、うっ、早くなって」


「ガハハ、悪かった。無理してしゃべらなくて良いぞ」


 絶妙に調整された案山子は、テラオのギリギリを見極めた厳しい攻撃をしてくる。

 昨日は躱せた攻撃が、僅かに早くなっているため間に合わない。昨日は防げた攻撃が、押し負けダメージを受ける。

 少し対応できるようになると、案山子はまた一歩先に行く。力ではなく技の応酬で、テラオの実力が少しずつ上がって行く。


 ただじっと見ていたベイスが動いた。


「ようし、ちょっと試しに皮鎧の案山子とやってみろ。得物は短剣二刀流だ」


「うわ、攻撃速度特化って感じですね。厳しそうだな」


 順調に成長していると判断されたのだろう。打ち合いの相手を変えて、今までと違った攻撃に対応できるようにと、スピード特化の軽装案山子が新たな相手として指名された。

 ベイスが案山子の両手に短剣を持たせると、軽装案山子がぴょんぴょん跳ねてやる気アピールしている。


「めっちゃやる気だ……よろしくおねがいします!」


 速度と手数重視の短剣軽装案山子は、目で追えないほどの早さで攻撃してくる。これで自由に動ける相手だったら、今のテラオではまず対応できないだろう。

 テラオは部分硬化盾と物理防御、盾や武器自体を使って案山子の両手から繰り出される攻撃を、なんとか大ダメージにならない程度に押さえ込む。


「うんいいな、致命傷は受けないように避けている。おい重装のっ! 皮の右斜め前だ」


 動かないと思っていた金属鎧案山子がズザッと移動して攻撃に参加する。

 軽装案山子だけでもギリギリだった攻撃に、重たい攻撃を繰り出してくる重装案山子が加わった。装備している盾は重装案山子の攻撃を受けるだけで、他に動かす余裕がなくなり、武器と物理防御で軽装案山子の攻撃を躱す。

 相手の攻撃の手は3、テラオは2しかない状況が、今まで以上にテラオを追い詰めている。


「うぐぅ きびっ きびしっ」


「しゃべる余裕有るならもっと増やすぞ」


 スパルタである。

 後ろに下がれば攻撃からは逃げられる、わかっていても強くなりたいと願うテラオは逃げない、そんな状況。

 もう甘えた考えを持たないように、へたれとビビりを克服するために、昨日の失敗を繰り返さないようにと、必死に食らいつくように打ち合いをこなしていた。


――♪ピンポロポン。武器を両手剣に替えてください


「ひぃー きびしぃー、余裕が全くないです。盾なしになるとさらに怖いなぁ」


「やめるか?」「とんでもない」


 即答だった、やる気はかなりあるようだ。


「んじゃ、気合い入れて揉まれてこい」


 両手剣を使って、重装案山子と軽装案山子の二体との打ち合いが始まった。

 盾が無くなり、手数の減ったテラオはさっきより若干厳しそう。防御が間に合わないこともしばしばだ。


「おっと、神殿に呼ばれちまった。このまま訓練続けておけよ」


 ベイスはそれだけ言うと消えていた。

 テラオは神殿が気になったようだが、聞く余裕はないだろう。余計なことは考えさせぬと、案山子達の攻撃は激しさを増した。



  ◆



 呼び出されたベイスはゆっくりと神殿へと向かっている。


 雲上の孤島に一つだけある小さな神殿。

 神殿に足を踏み入れると、外観からは想像できないほどに内部は広い。外の神殿は、どこかの大きな神殿に繋がるただの入り口だったようだ。


 光溢れるきらびやかで豪華な神殿ではなく、人の手で一つずつ作られたような古代の神殿。

 切り出したままの大理石の床はつやのない叩き仕上げ。

 削り出し御影石の黒い丸柱は高く、三十メートル以上はあるが、天井を支えてはいない。天井の代わりにうっすらと光る霞が空を覆っていた。


 巨大な柱が並ぶ空間はどこまでも連続して続いており、あまりにも広いため並の者なら不安にさせてしまうだろう。

 だがここには看板が所々に浮いていて、迷子にならないよう心遣いされている。どこかでよく見る看板、そう、メニューがいつも持っている手持ち看板と同じ作りのものだ。



 しばらく歩くと正面に銀色に輝く六本の巨大な柱が見えてきた。霞の中から徐々に浮かび上がる姿は幻想的だ。

 六本の銀色の柱は、床面の円形暗黒空間から伸びてており、暗黒空間の周囲は親切にも転落防止の柵で囲われている。

 一番近くの柵には『一番セカイ樹』と書かれた看板が立っている。巨大な柱に見えていた物は巨大な樹の一部分だったらしい。

 遙か上まで枝や葉のような物は確認できず、まっすぐ霞の中へと伸びている。セカイ樹は想像以上の高さがあるようだ。


 六本のセカイ樹に囲われた広場の中央に、石造りの円形舞台が見える。

 舞台の中央に小さな丸テーブル、椅子は五脚用意されている。

 この場所は以前メニューがケンサンと、テラオに埋め込まれた何かの話をしていた場所。今回は他のメンバーも集まって会議でもするようだ。


 すでにメニューと他三人は席に着いており、ベイスが一番最後の到着だった。


 メンバーはメニューと、基礎担当教官のベイス、羊小屋の管理人でダンスの教官ペーター、タマシイの検査官でドクターと思われるケンサン。それにもう一人、若い女性がグデッと机に突っ伏し座っている。

 ちなみに、メニューの椅子はテーブルの上に乗った、石造りの小さくても豪華な椅子だ。

 決して椅子の上に被せるお子様用補助椅子ではない。


「相変わらず歩いてくるのが好きね、ベイス」ゆっくりと歩いてきたベイスにメニューが声をかけた。


「ええ、セカイ樹が霞の中から浮かび上がってくる、この感じが好きなんですよ」


――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン


「幻想的だよネ~~~♪」


「ペーター、話のテンポがずれるから、会議で台詞前の儀式はやめておいてね」


 台詞の前にいちいち立ち上がって踊るペーターの儀式は、会議には邪魔でしかない。ちょっとしょんぼりするペーター。


「了解だヨ~~~♪」


 儀式なしでも台詞は言えるが、語尾のファルセットはそのままだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ