15,緊急クエスト! 村人を救い出せ
慌ただしく準備して、何だか勢いで送り出されたテラオ。
周囲の景色は一変、洞窟の中に居た、背後には入り口が見える。
外は明るいことから昼間だと言うことは確認できた。
ドン!
【村人を三人救出してこの場所まで連れ出そう】
看板が上から降って地面に刺さった。上は洞窟の天井……、どこから降ってきたのかは謎である。
「時間が無い。とにかく焦らず慎重にスピーディーにっと」
洞窟は直径三メートルほどのチューブ状、大人でも武器を振り回せる高さがある。十mほど奥に脇道らしき物があり、松明の明かりが漏れている。
テラオはできるだけ足音を立てないよう、そろーりと進んで様子を伺っている。
「うひゃひゃ、今回の村は食料ため込んでたな。これでしばらく困らないぜ」
「んだな、ついでに三人も連れてこれたしな、ぐへへへ」
盗賊と思われる男二人の声が響いている、脇道からのようだ。
テラオは見つからないように、そっと覗いてみる。
脇道と思われた場所は小部屋になっていた。その奥には扉があり、両脇に見張りの盗賊二人が立っている。
薄汚れた服、あまり手入れされていない剣、髭も髪も伸び放題で見るからに不潔なおっさん盗賊が二人。
(うっ、盗賊から村人救助ってことは、盗賊を退治しないといけないのか。これは精神的にきついかもしれない)
(一人ならなんとか相手できそうな気がするけど、二人は怖いな……光の魔法で目眩まししてその隙に気絶させるとか、やってみるか)
武器を持っている二人ではあるが、一人ずつならいけると判断したようだ。
節約魔法を準備するためだろう、盗賊二人の間にふんわりとした魔力の玉を配置している。
「ん?」(よし、点火!)
ビカァーっと光る光の玉。
「うっまぶし、なんだこりゃ」「敵襲だーっ、魔法使いだー!」
テラオは走り出し、左の盗賊の頭めがけ盾を思いっきりぶつける。続けて右の盗賊に剣の柄で鳩尾を殴りつける。
(ふぅ、なんとか二人を無力化できたかな)
まぶしく光る光の玉を消し、テラオはそっと扉を開けてみた。
中は暗くて何も確認できなかった。
(光の玉消すんじゃなかったかな……)
ベイスに教えてもらった頭上の光の玉を点灯させると。
――ヒュッヒュッブンヒュ。
中から無数の矢と投げ斧がテラオの目の前に迫る。
(うわー、もうだめだ……)
◆
バン!
【緊急クエスト
○iフィールドクエスト○
フィールド:iフィールド(盗賊の洞窟01)
失敗
クエスト報酬:貯めてうれしい謎のチケット】
「おおテラオよ、しんでしまうとはなさけない」
メニューのどこかの王様っぽい台詞が聞こえた。
テラオの目の前には失敗と書かれた看板。死亡と判定されて雲上の孤島に戻されたらしい。
へたり込むテラオの前にはベイスが腕を組み仁王立ちしている。
「うぅ……あの攻撃は無理ゲーですよ……」
「何故そうなったかを理解できていないんじゃ、おまえには無理ゲーってこったな」
「そうね。あんたは現実だということをもう少し認識しないとだめでしょうね」
「おう、大ヒントだな。もうちょっと現実ってもんを考えて行動するべきだったな」
(現実……僕の行動の結果であの攻撃が起きたということか……)
(コッソリ進んで見張りにフラッシュライトで目をくらませ、盾で殴り剣の柄で二人を気絶させ……、いや!)
「あの時大声で応援呼ばれてた……」
「気が付いたな。見張りなんだから見張ってるんだよ。
異常を知らされた他の連中は、中で戦闘態勢を整える余裕ができた。そこにわざわざライトまで付けて、狙ってくださいってお馬鹿さんがやって来たわけだ」
「うぅ」とうな垂れるお馬鹿さん、いやテラオ。
「それから、あの見張りも気絶してなかったぞ」
「え?」
「相手の実力もわからないのに、手加減して気絶させようとか。なめてるとしか思えねぇな。
だいたいおまえだって物理防御張れば一発耐えるだろうが、相手も同じことができると想定する位、頭使って考えてから行動しろ」
気絶させて無力化というのは実力者がやることで、テラオのような素人が手加減などしていい場面ではなかったと言うこと。
まして今回はその手加減で、相手を気絶させることに失敗していたという。
考えて行動しているつもりだったのだろうが、全く足りていなかったという指摘だ。
「うぐっ」
「案山子相手にちょっと良い感じになったからと言って、おまえはまだ全然強くねぇんだ。まず、今回の失敗を反省して次に生かす。もし同じような状況になったら何をするべきだったかを考えておけ」
「わかりました」
――♪ピンポロポン。ペーターのダンス講座の時間です。
大失敗を悔やむテラオ、とぼとぼと歩きながら羊小屋へ向かう。現実だということを理解していなかった……ということは。
「ハッ。村人は! 捕まっている三人の村人は!」
「現実とは厳しい物ね。あんたはゲームのように軽く考えていたかもだけど。捕まっている人達にとってはどうだったでしょうね」
盗賊から三人の村人を救うクエスト失敗。
今回の失敗は、テラオの心構えに問題があったことが原因だろう。ゲームのようなお気楽な感覚でクエストを進めていた。そんな感覚が招いた結果をメニューに言われた一言で自覚し、反省しているようだ。
(相手を気絶させて無力化できた僕カッコイイ、とか思っちゃってたな。自分が主人公か何かだと思って……思い上がっていたな)
――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン
「集中していないネー。何事も切り替えがだいじだヨ~~~♪」
「そ、そうですね。昨日の続きで身体強化魔法を使ったダンスをやってみます、見ていてくださいね」
考えるのは後にしよう。そう決めたテラオは、昨日魔力を使い果たして倒れてしまった『身体強化魔法で反応速度を上げて踊る技術』を使い踊り始める。
繊細な体内魔力操作で昨日より無駄の無い魔力消費効率。
さっきのクエストの反省を、自分をいじめるかのように課題ダンスを見事に踊る。
前向いてぶ~らぶ~ら、ぎゅんっと後ろへ急回転してぶ~らぶ~ら、右向いてべしべしべしべし、左へ急回転してべしべしべしべし。
あんまり格好良くないダンスなのは言わない約束である。
今は失敗のことは考ない! とダンスに集中するテラオ。対面でペーターも踊りながら満足そうに頷く。
――♪ピンポロポン。ダンス講座終了の時間です。
――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン
「やったネ ダンス講座合格をあげちゃうヨ~~~♪」
「おーやったー、ありがとうございます」
――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン
「明日【服を手に入れよう その二】クエストを受けられるヨ~~~♪」
「うひゃ、また厳しそうですね。今度はバリカンつかえるように頑張りますよ」
――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン
「楽しみだネー 頑張ってネ~~~♪」
ゴザへの帰り道、ダンス講座合格の喜びで浮かれることもなく、とぼとぼと歩みを進めている。
村人三人を救出できなかったこと、メニューに言われてそれをやっと自覚したことは、普段は脳天気なテラオでもさすがに堪えることだったのだろう。
一勝一敗、一進一退。進んではいるが、失敗したときのダメージは大きい。
今日の失敗。盗賊の洞窟で助けられなかった村人は、きっとひどい目に遭っているのだろう。ゴザに座ったテラオは、自分が不甲斐ないばっかりに助けることができなかったと、悔やみ続けていた。
「あんたが全ての助けを求める人々を救う? 思い上がりも甚だしいってやつよ」
相変わらず唐突なメニュー、励ましているようだがテラオの心は晴れないようだ。
「でも、なんとかなったかもしれないのに駄目だった。やっぱり悔やまれるよ」
「悔しいのはわかるわ。でもね、あれが現実だったらあんた死んでるのよ」
テラオはハッとした。
(実力が明らかに足りていない、にもかかわらず強敵に挑んで殺された。クエストだから余裕だろうなんて甘い考えもあった。でもそんな補償は全くない、今回の行動は死にに行った無謀な子供でしかなかったってことだ……)
「あんたに何が足りなくて、あの時どんなことをすれば道が開けたのか。考えてみた方が良いわね」
「メニューありがとう、考えてみるよ……腕時計さん、少し考える時間を下さい」
――♪ポーン。
腕時計さんから返事があった。考える時間をもらえたようだ。




