11,初めての魔法講習。光の魔法を覚えよう
攻撃を繰り出しても簡単に武器や盾でいなされてしまう。
案山子が自ら動いて攻撃を躱す、余裕で防御されたテラオは驚いていた。
「か、堅い」
「的だと思うな。そこから動くことはないが、熟練の練習相手だと思って挑め」
無抵抗の人型を一方的に切りつけることには抵抗があったようだが、しっかりと防いでくる案山子ならばいける相手だったようだ。テラオは熱中して打ち込みの練習に励んだ。
――♪ピンポロポン。武器を両手剣に替えてください
――♪ピンポロポン。武器を槍に替えてください
――♪ピンポロポン。武器を棒に替えてください
――♪ピンポロポン。打ち込み練習終了の時間です
どれだけ頑張っても案山子の防御を抜けることなく、全て防がれ弾かれいなされ、練習の時間は終わった。
「一本も入れられなかったみたいだな。今日の打ち込みはここまでだ。この後は簡単な魔法を指導する」
「はい、お!魔法ですか!」
「おう、片付けが終わったら小屋に来い」
初めての打ち込み練習で上がっていたテラオのテンションは、魔法の指導と聞いてさらに上がったようだ。
どんな魔法を教えてもらえるだろう。テラオは片付けを終わらせ小走りで小屋へと向かった。
「よし来たな。まずは魔力操作のおさらい、魔力を指先に集めてちょっと伸ばして玉になるように操作してみろ」
「伸ばして玉に、ですか?」
「そうだ。集める、伸ばす、玉にまとめると、分けてやってみればできるはずだ」
(集めるのはいつもやっている感じで……、伸ばすのはきっかけになった本へ手を伸ばす感じ……)
テラオの指先からちょろっと伸びる魔力。
(玉にするというのはどういうことだろう……たまーたまー玉ー……線香花火みたいな?ガラス工房のガラスみたいな……)
ちょろっと伸びた魔力が、だら~んと下がり糸を引いたように伸びて一番下が玉になる。
成功させ、喜んだテラオの表情がぱぁっと明るくなる。
「おぃい! なんでだら~んってさがるんだよ! 普通ふわっと浮かせて上向きに玉作るんだよ。意外すぎてびっくりしたわ」
魔力を球状にすることができたが、ぶら下げる物ではなかったようだ。
確かに指先からぶらんぶらん揺れている魔力の玉は格好悪い。
「う、上でしたか! 線香花火とかをイメージしちゃって」
「なるほどな。しっかしおもしれぇじゃねぇか、でろ~んと魔力をぶら下げるってな。ガハハハハ」
一旦垂れ下がるイメージができてしまうと、矯正は難しいらしい。
テラオはうーんふーんむーんと唸るものの、ぷらんぷらんしたまま動かない。
「うぅ、難しいですね。どうすればいいんだろ」
「あぁおまえ、魔力に重さがあると思い込んじまったな。左手の掌を上に向けて前に出せ」
テラオが左手を前に出すと、ものすごい重たそうな黒い玉が現れた。
「うぉ! おもた……く……ない」
ごつごつとした鉄球のような魔力の玉。
重たい物を受け止めようとしたのか、腰を落とし腕に力を込めているが、全く重さがない物だったらしく驚いている。
「ぽんと弾いてみろ」
言われた通りにぽんと弾かれた重そうな玉は、重力の影響を受けていないらしくふわふわと上がり、天井に当たって弾かれるまで落ちてこなかった。
「全然重さがないですね。当たった感覚もほとんどなかった」
「そいつはオレが出した『重たそうな色を付けただけの魔力』だ」
「なるほど。と言うことはこのぶら~んとしてるのも重さはないはずだっと」
指でピッと上へ弾いてぷら~んとした玉を上へ飛ばす。
見事に上向きで留まり落ちてこなかった。魔力に重さがないことを認識できたので成功したようだ。
「弾かないで操作して上向きにして欲しかったんだが、まあいいか。
んじゃ、その繋がってる糸を切って、玉だけその位置を保持しろ」
「糸を切ったら玉が落ちるか消えちゃいそうな……」
「さっきの黒い魔力玉はオレが出した物だぞ、糸ついてなかっただろ。そういう物だと思い込め」
テラオは糸をどんどん細く伸ばし、玉の位置が動かないように、えいやっと腕を引っ込めた。
「できたー」
「いちいち珍しいやり方するよなおまえは。腕のほう引っ込めて糸を千切るとは思わなかった」
「へへへー」褒められてはいないが何となく照れ笑いしている。
「ま、いいか。その玉、光るはずだから光らせてみろ」
「え? 光るの? スイッチオン!」
スイッチオンのかけ声と同時に、魔力の玉がうっすら光り始めた。
「あー、やっぱりこういう指導のほうがおまえには向いてるか。理屈で指導より早いわ」
ベイスの指導が急にアバウトになった。
テラオは感覚で魔法を使うタイプなのか、細かい理屈を説明して教えるよりも、『そういうもの』と教え込むようにしたらしい。
「あれ? 普通は違うんですか」
「いや、いい、気にするな。んじゃ次は頭のてっぺんのちょっと上に玉出してみろ」
「はい、てっぺんのちょっと上……」
頭に魔力を集め、ちょっと伸ばして丸めて糸を切る。
今回は下向きに垂れることも、勢いをつけて糸を切るようなこともなく簡単にできた。
「そいつはおまえの頭の上って位置を保持するから、光らせながら動いてみろ」
(光ってついてこい!)
右に動いても、左に動いても、反復横跳びしても、ジャンプしても頭の上で光っている。逆立ちしても頭の下で光り、位置を保っている。
「光の玉を買う権利をやろう」
「あーはいはい。
頭の上の光の玉。こいつは暗い所で移動する時や、夜に本を読む時とか便利だ。
頭の上だから光が目に入って邪魔になることもないし、自分の影で死角を生まないのも良い点だな。
うまくなると前方だけ強めの光にすることや、光の色を変えて伝達の信号に使うことができる」
「光の魔法がこんな感じだから、火や水風とかの魔法も同じようにできるんですか?」
「そうだな。だが攻撃用の魔法は、ただそこにあるだけじゃ役に立たないだろ。
あとおまえにいきなり教えると危なそうだからな、安全な物から教える。おまえは何やらせても意外なことしそうだから怖いわ」
「はははー」
光以外の魔法はテラオが扱うには危険らしい。
確かに慣れない魔法を使って大爆発とか起こしそうなテラオに、攻撃魔法はまだまだ早そうだ。今はとにかく光の魔法で慣れるのが先だろう。
「放っておいてもそのうち消えるが、いつまでも光ってると邪魔だろ。消えるように念じろ」
(消えろー)
最初に指先から出した玉と、頭の上にあった玉がふわっと消えた。
「魔法って、難しい呪文とか唱えてもっと面倒な物かと思ってたのですが、意外と簡単にできるんですね」
「そりゃな。『剣と魔法のファンタジー異世界』の生物が言葉を覚える前から魔法は使われている。モンスターだって魔法を使う。呪文唱えないと使えない魔法なんて不便だろ」
さりげなくファンタジー異世界モンスターが魔法を使うことが確定した。
山の頂上で見た恐ろしい集団が一斉に魔法を放ったとしたら、それは恐ろしい光景だろう。
「そ、それはそうですね……」
「簡単にというが、魔力を操作できないと使えない。
おまえは今まで熱心に練習してきただろ、だから簡単に感じるだけだ。何も知らない赤ん坊がいきなり使えるほど簡単じゃねぇぞ」
「なるほど、確かにそこまで簡単と言う訳ではないですね」
「さて、とっかかりに自分の魔力だけで魔法を使う方法を教えたが。おまけでちょっと得する情報も教えてやろう。
あっちのセカイには魔素が満ちているのは見ただろ。有る物は有効に利用したほうが効率が良い。
ただ、その辺にある魔素がすんなり言うことを聞いてくれるってことはない。そこで魔素にお願いするってのが必要なんだ」
「おねがい?」
お得な情報らしいが、ちょっと複雑。要領の悪いテラオは不安そうな表情で話を聞いていた。
「おまえの体内に取り込まれた魔素は魔力になって、自分で簡単に操作できる物になっている。
その辺にある魔素はおまえのことをよく知らないから、知らない奴の言うことなんて聞いてくれない。
そこでお願いのために袖の下を渡して、ちょっと言うことを聞いてもらうって訳だ」
「お駄賃でお願いを聞いてもらうんですね!」
お駄賃を渡してお手伝いしてもらう、子供にお使いを頼むようなイメージがテラオの中に湧いたようだ。
「だな。自分の魔力を極薄く、さっき玉を作った量の千分の一位使って、さっきの玉の倍位の大きさの玉を作る」
ベイスの前にうすらぼんやりーっとソフトボール大の魔力の玉が浮かんだ。
テラオが先ほど浮かべた魔力の玉はくっきり見える物だったが、ベイスの浮かべた玉は極薄いもので、目をこらさないと見えないほど。
「で、この魔力に協力してくれる魔素に、自分の魔力を通してお願いをするわけだ。ピンポン球位の大きさの光の玉になってくれってな」
ソフトボール大の玉がきゅっと集まりピンポン球サイズの光の玉になった。
先ほどテラオの作った光の玉より少し明るく見える。
「この方法は向こうじゃ相当長生きしている奴しか知らないだろう。できなくても良いが、覚えておくと便利だな。すぐには難しいと思う、地道に練習してればいつか覚えられるかもしれねぇな」
「はい! 魔力効率一対千なんて夢のようなスキル、必ず自分の物にします!」
(転生してもきっと優秀な素質とかはないだろうからな。少ない魔力で効率よく魔法を使えたら間違いなく役に立つはずだ。絶対に覚えるぞ!)
「できるといいな。このお得な魔法、いや『節約魔法』は空いた時間に自習するなりして、覚えられたら覚えればいい。何度も言うが絶対に覚えろって物じゃねぇぞ」




