10,異世界で役立つスキルを教えてもらおう
焼き蟹を肴にキンキンに冷えたビールを飲むベイスはすっかりご機嫌だ。
テラオはいい機会だからと、前から気になっていた異世界で生きて行くために必要なスキルについて相談していた。
「このセカイで何をしたいかってので変わってくるんだろうが、何をするにしても身を守るための手段は持っていて損はないな。自衛の手段として武器の扱いはもちろんだが、周囲を把握する能力、敵となる者を判断する観察眼、そして体力だな」
「武器スキルに気配とかの察知スキル、観察眼は何スキルだろう……あとは体力か」
「敵ってのはモンスターだけじゃねぇぞ。わかりやすい敵は見分けるのが簡単だが、おまえと同じ種族でも、一見いい奴だが根は腐っているって奴居ただろ。そういうのを見分けるのが観察眼だ。
観察眼ってのは講習で教えてもらえるスキルじゃねぇんだ。いろいろな相手とつきあい、言葉を交わして育てて行く物だな」
「スキルだけじゃないと……」
「だな。あとセカイを見て回りたいってことなら、サバイバル全般の知識やスキルも欲しいな。ついでにそれぞれの地方の言葉を覚えないといけない」
「え? 地方ごとに言葉違うの?」
「おまえの前世のセカイでも、全セカイ共通言語なんて便利な物ねぇだろ。セカイは広いんだ、種族や地方によって違う言葉を話していたりするのは当然だ」
「当たり前のことだったね。ちょっと甘く見ていたよ」
異世界言語理解などのチートなスキルはないらしい。地道な勉強が必要とわかったテラオはガックリしている。
「ダンジョン探索ってのもあるぞ。そこでは斥候系のスキルがあると便利だな」
「察知系のスキルとマッピング技術とかだね」
「そうだ。あとは周囲の違和感を見分ける観察眼だな」
「違和感を見分ける観察眼?」
「ダンジョンで長いこと生きてる奴らは、擬態できるようになったりするんだ、あと罠を張ったりな。そういう物を見分けられると有利だ。まあこれは経験を積むしかないんだがな」
「宝箱を開ける鍵開けスキルとかは?」
「ダンジョンに宝箱って、あるのか? 鍵開けスキルなんて泥棒するときに使う位じゃねぇのか」
「あれ? ダンジョンと言えば宝箱みたいな……」
「ガハハ、誰が用意するんだよ」
「ダンジョンマスターとか」
「んな面白い奴がいるなら会ってみてぇな、ガハハハハ。
んっまあ、さっき帰り道でも言ったが、おまえの望んだ『剣と魔法のファンタジー異世界』を、ゲームか何かの中だと思っていると早死にするぞ。自分の立っている場所を正しく認識すること、大事なことだから忘れるなよ」
ダンジョンに宝箱をせっせと設置してくれるダンジョンマスターは面白い奴扱い。
宝箱のアイテム狙いでダンジョンに挑む冒険者、っと言うものもこの世界にはいないようだ。
ベイスの言う通り、ゲームや小説の知識を、そのままこっちの異世界に期待するのは危険かもしれない。
「わかりました。いろいろ浮かれてたのかもしれません……反省します」
「んなしょんぼりするなよ。チュートリアルやクエストこなして行けばちゃんと認識できるようになるさ。
まぁいつものあそこに居たら現実感薄れるってのもわかるぜ。ペーターは踊りっぱなしだし、メニューは看板もって突然湧いてくるしな。ガハハハ」
「ベイスの威圧感も現実逃避したくなる原因かもだね」
「あほたれ、オレの優しさ溢れるオーラを威圧に感じる、ってことはまだまだ修行が足りてないようだな。帰ったらみっちり仕込むぞ。ガハハハ」
いらんこと言っちゃったという状況である。あの威圧が優しさのオーラにはとても見えないが……。
「いい時間だな。ちょっと外へ出て真上を見てみろ」
誘われるまま外へ出て真上を見るテラオ。
その目には満天の魔素空が視界いっぱいに映った。
中央に二つめの月があるのかという位明るく、外に向かって徐々に暗くなるグラデーションを描いている。
七色に光るきらきら粒の集合体、異世界の夜空を埋め尽くすそれは巨大で、圧巻だ。
「魔素の尾だっけか。今そいつを真下から見ている」
「こんなに大きい、圧倒される……」
「なかなかすげぇだろ、」
空を埋め尽くす大きな存在。魔素の光は人々に力を与え、心を清め、悪しき者を浄化し、そんな力があるかのように思わせる物だった。
しばらく空を見上げながら魔素浴を楽しんでいたテラオは、ベイスの『うっし、そろそろ帰るか』と呼び掛けで現実に戻ってきた。
「はい、明日からもまた頑張れそうです。ありがとうございました」
ベイスが大きな手をパンッと合わせると、テラオは送還され姿は消えていた。
「ゲームっぽいってのも考え物ですね」
「取っつきやすいと思ったんだけどね、現実感が欠如してしまうって問題を見逃してたかもしれないわね」
テラオを見送ったベイスの背後に、メニューが現れ返答する。
ベイスはそこにメニューが居るのがわかっていたようだ。
「ショック療法的なことが必要かもしれませんね」
「フィールド多めで現場を見せるようにしてみるわ」
「そうですね、刺激が多い場所へ一人で放り込むってのも良いかもしれません」
「もう少しペースアップして鍛えないといけないわね」
「そうですね」
普段のぶっきらぼうな言葉遣いではないベイス。
いつもと変わらないメニュー。
テラオには聞かせられない内容の会話だった。
◆
バン!
【日用品を手に入れよう その一
○フィールドクエスト(体験)○
クエストクリアー
クエスト報酬:希望の日用品二個まで】
テラオがゴザに戻ってきたら目の前に看板があった。
「おつかれさま、日用品は何を希望しますか?」
「あ、メニューありがとう。そうだねボールペンと付箋……いやノートをお願いするよ」
付箋よりも、使う機会が多いだろうノートに変更したようだ。
ベイスに相談したスキルのことや、異世界のことを書き残したくなったからだろう。
(シャープペンが良かったけど、芯がなくなったら困るよね。ボールペンでいいよね)
「芯がいくらでも補充されるシャープペンもあるわよ」
「ごめんなさい、そのシャープペンとノートでお願いします」
「あはは、わかったわ」
一人で考えないで聞いてから決めればよかったらしい。
メニューがパチンと指を鳴らすと、ちゃぶ台の上にシャープペンと消しゴム、ノートが出現した。
「消しゴムはサービスよ」
「いつも気の利くメニュー、ありがとうございます」
「いえーどういたしましてー。そういえば魔法を覚えるまで明かりがないわね。そろそろ明かりの魔法ぐらい覚えても良さそうね」
「おー、それは便利でありがたい」
操作しかしていなかった魔力をやっと使えるようになる。魔法使いの仲間入りはもうすぐだ。
「とりあえず魔法覚えるまで、夜はごろごろするしかなさそうね」
「魔力操作の練習でもしてるよ」
――♪ピンポロポン。9日目の朝です、走り込みの時間です
――♪ピンポロポン。カユトマールを支給します。
「ですよねー、すぐ行きます!」
ごろごろする時間は認められなかったようだ。グビッと一発元気に走り出すテラオ。
◇
テラオがいつもの走り込みを終わらせるとベイスがやって来た。
「今日から案山子への打ち込みも追加する。しばらくは金属鎧の案山子だけをつかえ」
「えと……人型、ですね」
「昨日大丈夫って言ってたよな。びしっと打ち込まないと終わらせねぇから、弱音吐くんじゃねぇぞ」
ゴブリンのような二足歩行だがモンスターと認識しやすい相手は、人型の内には入らなかったのだろう。
案山子は人の姿を模した作りになっている。テラオはそこに抵抗を感じているのかもしれない。
「う……調子に乗ってましたと言ってもだめですよね」
「だーめーだーな。いつかは通る道なんだ、早めに通り抜けちまえ」
「……はい」
昨日は役とはいえ親子として一緒に過ごし同じものを食べ、距離が縮まったように見えたが、やっぱりベイスは厳しかった。
テラオはいつも通り素振りと弓の練習を終え、金属鎧の案山子へ向かう。
いつの間にか案山子には木製剣と盾が装備されていた。
「今日の所は反撃はしてこない、思いっきり打ち込め」
『今日の所』は反撃しないとは……。
人型に思いっきりというのも気が進まないようだが、弱音を吐いても認めてもらえないだろう。
テラオは覚悟を決めて打ち込みを始める。
「ザンッ」 ガシィッ。――案山子は盾で防御した
「ウワッ」 バシッ。――案山子は剣で弾いた
「こ、こいつ……動くぞ」




