超短編小説「けんかおしどり」
ここはいったいどこなのか、私はどこから来たのか、自分の年齢もおぼろげで、ひどく不安だ。ただ、周りの若い人たちがとても優しくしてくれるから、ありがたいと心から思う。
若い人が私の事を「おばあちゃん」と呼ぶ。ふと自分の手をみるとシミだらけで皺くちゃ。本当におばあちゃんみたいだ。「おばあちゃん」と呼ぶ声の中に、一人だけ年を取った男の人がいる。あなただっておじいちゃんじゃない。と、腹が立ったが、この人が近くにいると何故か安心する。
たくさんケンカをして何度も泣いて、悲しくて悔しいという気持ちがどこからか沸き上がり、どうにも憎らしい奴だと思うのに「わしのことも、わからんくなってしもうたんか」と、無邪気に笑うこの人の顔を眺めると、心の底から思う。
あなたより一日だけでいいから永く生きたい。どこのどなたか分かりませんが、あなたは私がいないと何もできない人なのだから。