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第5話 少年と記念すべき最初の獲物

車の屋根に雨粒が当たって弾ける音がする。

車内は窓もなく密封されているので、外の情報はかすかに耳に聞こえるその音だけだ。

大型のトラックを改造した車の、その薄暗い箱型の荷台の中で、少年は膝を立てうずくまっている。

「ザー…….ピー…….」

少年の他には、荷台にも運転席にも誰もいなかった。ただ時おり、ピーやザーザーといったノイズ音が、運転席の方から流れてくるだけだ。

荷台の中には少年の他に大小異なる黒い鞄や箱が壁に沿うようにして設置されており、暗闇の中で薄っすらと浮かび上がるそれらは、まるで墓場の墓石のようにも見えた。

「ザー…….ザーピー…….」

少年はぴくりとも動かない。ただ黙って、外の雨音と運転席から溢れてくるノイズ音に耳をすませているだけだ。背格好は高くもなく低くもないが、足が少し長いのか、立て膝で座る姿が少し窮屈そうに思える。

少年はただただ待っていた。自分自身の手で、自分自身の為に行動できるその瞬間を。彼らをこの世から消し去ることのできる時を、暗闇の中で、ただひたむきに待っている。

「ザー……ピーあー……ピー聞こえる……聞こえるかい」

突然、通信機らしきものからノイズ音に混じって、人の声が聞こえた。三十代ぐらいの低い男の声だ。

少年の肌に得体の知れない鳥肌が立つ。

いよいよだ。

彼はその声を聞いてすぐさま立ち上がると、喉元に手をやって首に付けられた「首輪」に手をやる。暗闇の中で触覚だけを頼りに滑らかに曲がる金属の表面をなぞると、お目当てのボタンに人差し指が触れた。それを躊躇なく押す。

途端に荷台の中が明るくなった。少年は光避けにつぶっていた瞼を開くと、すぐさま手身近にあった黒い箱の内、一番小さい物を選んで開いた。

中には黒いボタンの様な物が八つ、均等に並んでいた。それらを自身の体に間隔を空けて素早く張り付けていく。

「おーザー……い、聞こえているなら返事をしピー……くれよ」

「聞こえています」

通信機から聞こえる男の声に、少年は端的に答えた。

「聞こえているならザー…….早く答えてくれ……ピー」

「一刻も早く準備をする必要があると思ったので。場所は?」

ボタンを身体を覆うように取り付け終わった少年は、すぐさま次の箱を手元に動かした。

「ピー……そう慌てるな…….まだターゲット…….詳細を伝えてもいないじゃないか」

そこで少年は箱の中味に動かしていた手を一瞬止めて、通信機の方を一瞥すると言った。

「今回は西園寺風子だけですよね」

その返答に、通信機の向こう側の男は、

「ザーザー……んで君がそれを知っているんだ!」

と驚いたように答えた。

「いえ、なんとなく」

「なんとなくじゃあ…….ザー答えになってないんだけど…….ピー」

少年は男の文句には答えを返さず、少しだけ荷台の片隅を見つめてから、中断していた作業を再開した。次の箱に入っていた大小様々な黒い板を再び身体に手際よく張り付けていく。

少年から答えが返ってくることはないと悟ったのか、通信機の男はやれやれとノイズ混じりの溜め息をついた。

「確かに…….我々の記念すべき最初の獲物はザー……. 西園寺風子だよ」

「場所は?」

少年は即座に二度目の質問を投げる。

「ポイン…….ト7734329393777.9905だ。幸運なこピー……とに君のいるトレーラーからすぐ近く……ザーだ。すでに正確な地図はザー……の「首輪」に送ってある……」

少年はすぐに右手を首輪にやると、送られてきた地図を眼球に映す。

「確認しました」

そう言うと少年は立ち上がると、荷台の隅に作られた扉へと向かい始めた。だが続いて通信機から発せられた男の言葉に、一度歩みを止める。

「ピー……あと、周囲に高校生くらいの男子生徒が一人いザー……みたいなんだ。分かっていピー……と思うけど」

男が彼の言葉を最後まで言い切る前に、少年は自分自身で確認する様に言った。その口元は微笑むように少しだけ歪んでいる。

「勿論、一般人には手を出しませんよ。俺の敵はアイツらだけです」

鉄の扉を押して外に出る。通信機の男はまだノイズ混じりの声で何か叫んでいるが、すでに外に出ている少年の耳には届かなかった。

ノイズと男の声が響くコンテナの中には、墓石の様な黒い箱の連なりだけが残されていた。

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