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歴史短編小説群

深慮遠謀、匹夫の勇

作者: 塔野武衛
掲載日:2014/01/12



 深更。既に山中が暗闇に包まれ静まり返っている。明かりが灯されている場所はごく限られた場所しかない。山全体に設けられた要害や屋敷の大方も例外ではない。

 その例外の一つとも言うべき小さな部屋に、二人の男が詰めていた。小さな灯火の他には硯と紙があるばかりの殺風景な部屋である。もっとも、この暗闇ではさしたる意味もないが。

「重ねて問うが……」

 年かさの男が重々しい口調で言う。その顔に刻まれた深い皺の数々が、彼の年齢と苦労を如実に物語っている。

「例の手筈、抜かりはあるまいな」

「御意」

 その声は対面の男とは対照的に、若々しく涼やかなものだった。その顔立ちは少年らしい幼さが残るものの美しく凛としており、若いながらひとかどの武将たる風格すら漂わせている。

「既に準備は万端整っております。後は父上の差配次第」

 ぷつりと言葉を切る。

「沼田の掃除は大方済みました。ならば次は吉田の大掃除を全うせねばなりますまい」

 それは一見すれば何の事はない発言だったかも知れない。だがこの言葉に含まれる意味は、そんな単純な代物ではなかった。

「左様。わしは大掃除を四十年もの間出来ずに居た。だがもう躊躇する事は出来ぬ。この大掃除は今すぐに着手せねばならぬ。そうでなければ――」

 しかめ面と共に溜め息をつく。その有様は、気難しい老人を想起させるものだった。老人は陰鬱な面持ちで、しかしはっきりと言った。

「そうでなければ、この毛利は身動きも出来ぬまま大内の落日の道連れとなってしまう。それだけは何としても避けねばならんのだ。例えその結果、多くの流血を伴おうとな」

 安芸に名高き有力国人の総領毛利元就の顔には、微塵の迷いもなかった。少年も頷く。何故なら彼も、父の言う『流血』の沙汰にこうして関わっているのだから。彼の名は小早川隆景。近く沼田小早川家を相続する事が決まっている身である……多くの反対派の屍を積み上げた事によって。

「一つ言っておくが、これはあくまでも必要だからこそやっている事なのだ。本来自分の家臣を手に掛ける主君などというものは下劣の極み。下剋上の世なれば叛かれたとて文句を言う筋合いではない。そなたも一家を統率する身になれば家臣に対する不満が出る事もあろう。だがこのわしが味わったような四十年に及ぶ家臣の専横などそうそう起こりはせん。大概はぐっと堪え、堪忍しておればいずれは状況が変わるものだ。間違っても短慮を起こして家臣と対立し、挙句手討ちにするなどという愚劣な真似は致すなよ。よいな。それでもどうしても堪忍ならぬと思ったら、まずわしに文を送れ。自分一人で大事を決めるな。短慮はならぬのだ、短慮は」

 父のくどいまでの長口舌に、隆景は苦笑するしかない。この父は万事こんな調子である。手紙でも面と向かっての対話でも、少しでも不安に思った事があれば必ず釘を刺し、戒めようとする。幼少期からの隠忍自重を強いられた数々の経験が、この老人をこうまで慎重で猜疑心の強い気難しい性格にしていた。

 だが彼が二つの『掃除』を急ぐのは何も猜疑心だけの問題ではない。先日息子達を連れて山口に赴いたが、そこで目の当たりにしたのは、主家大内家が陶隆房ら武断派と相良武任ら文治派の深刻な対立によって内部崩壊寸前の危機的状況にあるという事実だった。彼は表向きこそ平静を保ったが、内心ほとんど戦慄した。

(これはまずい。甚だまずい)

 安芸国と毛利家は、大内・尼子の二大国に挟まれている。そしてその一角たる尼子家とは古くからの敵対関係にあった。それが今まで滅亡を免れ、勢力を拡大出来たのも大内の威光あってのものだった。だが、その威もいつまで続くかわかりはしない。続いている内に、やれる事は全てやっておく必要がある。

 元就は説諭し終えた後、腕を組んで瞑目している。やり残した懸案の有無を脳内で整理しているのに相違なかった。そしてその懸案の中身に、隆景は一つ心当たりがある。

「……時に又四郎。そなたは治部の噂を耳にしておるか」

 元就が沈黙を破る。その言葉は隆景にとって予想の範囲内だった。

「治部とは、かの『今鎮西』吉川興経殿の事でございましょうか」

 だが、彼はあえて聞き返した。人の質問に二つ返事で答える輩には思慮が足りない。それは彼が人を使う立場になってから痛感させられた一つの真実であった。まして相手は父である。迂闊な生返事など出来る道理もない。

「そうだ」

 父の語気は鋭く、そして確かな怒りが混じっていた。それも、今にも爆発せんばかりの怒りが。これには思わず隆景も目を瞠る。

「あのたわけめが、またぞろよからぬ事を企んでいるらしい。一族の情けとして命ばかりは助けたと申すに、相も変わらず思慮なき振る舞いを為すとは何たる仕儀か!」

 ここまで父が怒りを露わにするのは尋常ではない。思わず気圧されて息を呑んだ。だが元就にとっては当然かつ深刻な怒りだった。彼にとって吉川興経という男は、幾度となく煮え湯を飲まされた不倶戴天の仇敵に他ならなかったからである。

 吉川家は藤原南家の系譜に連なり、安芸国北部に蟠踞する有力国人の一角である。特に吉川経基は応仁の大乱で奮戦してまないた吉川の名で恐れられた豪傑にして、政略結婚などの巧みな戦略で勢力を拡大させた中興の英主だった。

 そしてその曾孫たる吉川興経は経基の再来と呼ばれる剛勇無双の士であり、別して彼の優れた強弓はかの鎮西八郎為朝に迫るとすら形容された。『今鎮西』の異名はそこから称されたものである。その限りにおいては、彼は確かに武の名門吉川家に相応しい当主と言う事が出来た。

 だが肝心の戦略眼において、彼は曾祖父の足元にも及ばなかった。大内・尼子という二大国の狭間に位置する諸侯ならば、ある程度の集合離散は世の常と言える。だがこの男の場合は度を越していた。吉田郡山城合戦で尼子軍が撤退を余儀なくされるや即座に大内方に寝返り、その大内軍が月山富田城攻めで劣勢に陥ると舌の根も乾かぬ内に再度尼子方に寝返り、大内軍敗北の決定的な契機を作った。

 特に後者の裏切りは、元就にとっては断じて許しがたい裏切りだった。出雲からの退却行は困難を極め、一時は自害すら覚悟しなければならぬ苦境に立たされたからだ。もし渡辺通が一命を賭して突破口を開かなければ、彼は生きて吉田郡山に帰りつけなかったかも知れない。

 興経に怒りを募らせたのは元就ばかりではなかった。当の吉川家中も度重なる変節に嫌気が差していた。その度に毛利を筆頭とする周辺諸侯との関係が悪化し、次第に吉川家が孤立してゆく原因になっていたのだから。特に元就の義兄吉川経世は毛利家との関係修復を強く望んでいた。元々毛利と吉川は婚姻によって強く結ばれた家だったからだ。

 そして天文十六年。元就と経世ら親毛利派は共謀し、興経に対する事実上の主君押込を実行に移した。その後釜として元就の次男元春が据えられ、事実上吉川家は毛利家の傘下に収まる事になった。後に興経は安芸布川に幽閉され、それで一応の落着が成った。その筈だった。

 だが隠居後も、彼は不穏な動きを止める事がなかった。彼は出雲の尼子と連絡を取り、復権に向けて陰謀を巡らしていたのである。当然その動きは元就も掴んでいた。それは決して容認出来ない策謀だった。元就の怒りは頂点に達していた。

「又四郎。興経をどう処するべきと考えるか。忌憚ない意見を申してみよ」

 父の意を受け、隆景は顎に手を掛けて考え込む。その大人びた様はとても十七、八歳の少年には見えない。脳を目一杯働かせて結論を導き出そうとする音が聞こえるかのようだった。

「……やはり、生かしておく事は出来ないと存じます。盲いておられる繁平殿とは事情が違います。興経殿は未だ壮健で、更にその子千法師殿も健在。毛利に何事か起きた時、彼らを担ぎ上げる輩は必ず現れる事でしょう。その火種をいつまでも抱えている必要はありませぬ」

 元就は重々しく頷く。それは彼の考えとほぼ同一のものだった。そもそもこの二人を生かしておいたのは吉川家の強い要求によるものであって元就の本意ではない。同時期に進めていた沼田小早川家相続において、元就と隆景は反対派である田坂全慶らを粛清している。興経についても本来ならば同じ措置を取りたかったが、踏み止まって譲歩したのだ。だがそれも、もう限界だった。

その後二人は夜明け前に至るまで密議を続けた。それは来るべき激動に備えるのに、必要不可欠な儀式だった。言ってみれば興経は、その儀式に必要な生贄であった。




 天文十九年七月。安芸国に激震が走った。有力国人毛利家の中で一大勢力を形成していた井上一族三十余人が毛利元就の手で粛清されたのである。元々井上一族は毛利家と対等な国人であり、その勢力は軍役に換算すれば毛利家全体の三分の一にも及んでいた。だからこの粛清劇は単なる内部抗争で済む類の話ではない。

 粛清が一段落した直後、元就は毛利家に従属する主だった武将から起請文を取った。これは明確な警告だった。井上一族は元就の家督相続において彼を推戴し、その勢力の大きさも相まって半独立勢力として振る舞っていた。元就の断固たる処置はそれを許さぬとしたのだ。事実、提出された起請文の中身は元就が明確に上位者として権力を振るう事を規定したものであり、軍役に従わぬ者は所領没収と定められた。元就は井上一族を粛清する事によってその規定の魁とし、自分の権威を配下に強く示したのだ。

 そしてこの警告は、何も毛利家内部で完結する話ではない。これは事実上の従属国である吉川・小早川両家に対する恫喝をも意味した。特に吉川の旧臣達は戦慄した。いつ自分達が同じように粛清されるとも知れぬと怯えたのだ。実際沼田小早川の田坂一党は壊滅させられている。吉川家主流派は既に反対派の粛清を実行に移しているが、今回の騒動を見ればそれで十分かどうかは心許ないと言わざるを得ない。

「馬鹿馬鹿しい話よなあ」

 四十過ぎの屈強な男が、口の端に笑みを浮かべて嘲るように言った。

「元就に首根っこを掴まれてから右往左往するとはな。もう吉川にまともな武士はおらんらしい。その内このわしを差し出して忠誠の証にするかも知れぬ」

 既に半ばそうなっているがな。そう言い捨てて、吉川興経はにたりと笑みを浮かべる。

「やはり元就は殿のお命を狙っていると……」

「当然だろうよ、内蔵丞。わしが元就の立場でもそうするだろう。吉川を自分の物に組み込むのにわし以上に邪魔になる者もおらぬのだからな」

 笑みがぴたりと止んだ。その眼差しはぞっとするほど冷たいそれに変わっている。勇猛をもって鳴る側近豊島内蔵丞ですら、一瞬怖気が走るほどだった。

「元就がわしの立場になったとしても同じ事をするだろうさ。こんな押込隠居に甘んじるような奴が男と言えるか。それで殺されるならいっそ本望よ。一生飼い殺しにされて朽ち果てるより遥かにましだ」

 それは興経に残された最後の意地だった。叔父吉川経世ら重臣一同に三行半を突きつけられ、元就の手で当主の座から引き摺り下ろされ、挙句に吉川領からも引き剥がされて毛利領に押し込められた以上再起の芽はないも同然である。ならばせめて武人らしい最期をと求めるのも無理からぬ事だ。

「ひとまず弁明状は出しておいたが、時間稼ぎにしかなるまい。もしもの事を考えねばならぬ」

「戦支度をなさると」

「わしは常に戦場に身を置いているつもりだがな」

 再び興経がにやりと笑う。そこには死への恐怖など微塵もない。彼は手を叩いた。

「お呼びですか、殿」

 現れたのは村武宗蔵。興経に信頼される側近の一人である。

「おう、宗蔵。いつ戦になっても大丈夫なように、わしの弓を始めとする武具の手入れを徹底させよ。いつ元就めが攻めて来るかわからぬからな」

「御意」

「最期の戦になるのなら、精々派手に戦わねば『今鎮西』の名が廃る。俎吉川の曾孫、大織冠鎌足公の末裔として相応しい戦いを見せてくれようぞ。その為には出来る限りよい武具で戦わねばな。頼むぞ、宗蔵」

「承知致しました」

 宗蔵は深々と平伏した。その口元に笑みが零れた事など、興経は知る由もなかった。




それから二ヶ月の月日が経った。この間に井上一族粛清の余波も収まり、安芸国には一応の平穏が戻った。隠居した興経に対する監視役にも表立った動きは見られず、興経らの予測も杞憂に終わるかと思われた。

 毛利元就が興経の佩刀三原を見たいと称して、豊島内蔵丞を名指しで吉田郡山に召喚するまでは。

「到頭来たかね」

 興経が舌なめずりせんばかりに言う。まるでこうなるのを待っていたように見えた。少なくとも内蔵丞はそう感じ取った。

「やはりこれは罠と見るべきでしょうか」

「当然だ。なにが三原を見せよ、だ。仮にそれが本心からの言葉として、何故お主を名指しで呼び出さねばならぬ? 誘い出して殺すつもりに相違あるまい」

「では無視なさいますか」

 返事の代わりに哄笑が響いた。その声には明らかな嘲りの色があった。思わず内蔵丞は身を硬くする。

「大織冠鎌足公末葉たるこのわしに、たかが刀と己の命惜しさに小細工を弄せとな! 冗談を申すな内蔵丞よ。わしが策を弄するはあくまで吉川の棟梁に返り咲く為。この布川くんだりで老いさらばえ、屍として朽ち果てる為ではない」

 おかしくてたまらぬと言わんばかりに興経は笑う。自分の命に関わる話なのに、恐れも何もないようだった。

「内蔵丞。どうやらわしの命数も尽きたらしい。お主ほどの豪傑であれば仕官先に困る事もなかろう。元就の罠から逃げられたならば安芸から逐電でもなんでもするがよい。さしもの元就もそうすれば追って来られまいからな」

 内蔵丞は無言で首を横に振った。

「それがしはあくまで殿の家臣にござる。逐電など考えも出来ませぬ。もし元就の毒牙から逃れたならば、直ちに布川に馳せ戻り、殿と共に戦う所存」

 興経の顔から笑いが引いた。

「何を馬鹿な。死地から逃れて、また死地に戻るうつけがどこに居るか。確かにお主は豪傑だ。だが一人二人居た所で勝敗が変わる訳もない。折角命を拾う機会が得られたのならそれを活かせ」

 内蔵丞は再度首を振った。それには断固たる意志が感じられた。

「殿に命を拾うおつもりがないのならば、それがしにもそのつもりはござらぬ。最期までお供仕る」

 興経はなおも渋い顔で内蔵丞を見ていたが、やがて溜め息をつきながら首を振った。

「どうしようもない強情者だな、お主は」

「殿には及びませぬ」

 それで話は終わりだった。興経と内蔵丞は朝まで酒を酌み交わした。それが彼らなりの今生の別れだった。




 深更。鎧と衣擦れの音が暗闇の地に響く。それも十や二十ではない。百を優に超える数の人間が武装して行進していた。近辺は毛利家の領土であり、最近は大きな合戦もなく平和な時期だ。その中でこの軍勢は甚だ異様であった。

「準備は万端整っておりましょうな」

「無論」

 その中でも大将格と思しき二人の武者が轡を並べながら言葉を交わす。

「既に工作は済んでおる。後は我らがかの者どもを逃がさねばよいだけの事」

 その言葉にはどこか憎々しげな感情が籠められている。もう一人の武者はじろりとその男を見た。

「やはり思い出されますかな。あの敗走の日々を」

「当然だ」

 今度ははっきりと激情を露わにした。その顔は暗闇でもわかるほど憤怒に彩られていた。

「奴の裏切りによって死地に立たされたのは元就殿ばかりではない! このわしも危うい所で命を拾うたのじゃ。その復仇の機会を賜ったのは幸いな事よ」

「……わしも古くから大内に属し、弟を大殿にお預けしている身じゃ。貴殿の憤怒もよくわかる。しかし」

 武者は目を伏せた。

「怒りに身を任せていては討てるものも討てぬ。奴は……興経は剛勇無双の男ですぞ。戦意は内に秘めて落ち着かれよ、熊谷殿」

「承知しておる、天野殿」

 三入高松城主熊谷信直は冷静に応える。その所作は流石に歴戦の勇士を思わせる。金明山城主天野隆重もその様を見て黙って頷いた。二人は共に吉川興経の監視役であり、その誅殺を任された者達であった。

「それにこれはわし個人の怨恨だけの話ではない。婿殿の為にも必要な事だ」

 婿殿とは吉川元春の事を意味する。吉川家の養子になる前、彼は信直の娘と独断に近い形で婚姻を結んだ。これは言うまでもなく熊谷家と毛利家、更には元春と信直の関係を深める為の政略結婚ではある。だが彼はそれに大きな恩義を感じていた。その娘には長らく良縁が訪れなかった為である。

「あれは器量こそ悪くないが癇の強い娘でな。そのせいで幾つも縁談を破談にしてしまった。そんな娘を婿殿は快く引き受けてくれた。そればかりでなく深く愛してくれてさえいる。ほんの五年前には考えられなかった事だ。その大事な婿殿、更には孫の為にも敵は叩き潰してしまわねばならぬ」

 隆重は相槌を打ちかけて、不意に鋭い目を山の方角に向けた。信直もすぐに追随する。自分達の側に向かって来る微かな足音が聞こえたのだ。おぼろげに松明らしき灯火も見える。

「来たな」

 信直が低く言う。彼らはこの時を待っていた。松明を掲げて歩み寄る人間が現れるまで攻撃してはならぬというのが元就から発せられた命令だったのである。

 やがてその男が松明を掲げながら片膝をつく。

「首尾は」

「万事整いましてございます。ご両人に苦労をして頂く事はないかと」

 一拍置いて、男が顔を上げた。その顔は卑屈に笑っていた。

「どうかくれぐれも、元就様にお口添えのほどを。何卒、何卒」

 信直と隆重は顔を見合わせた。信直など露骨に顔をしかめている。この男の卑屈さが気に入らないのだ。主君を裏切っているという事実と合わせて。

「よかろう。だが最後にお主の処遇をお決めになるのは元就殿ご自身だ。自分の功と元就殿の要求が釣り合っているのかどうか、よくよく考えてみるがいい」

 冷たく信直が言い捨てるのに、男はあからさまに狼狽の色を見せた。何か言おうとするのに、信直は厳しく睨み据えて言った。

「念の為に申しておくが、万が一我らを裏切った場合お主はただでは死ねぬものと思え。もっとも、裏切りを知った興経がお主を許すとも思えぬがな」

 追い打ちを掛けられた男は口で何事かもごもごと呟きながら、不承不承に一礼して館の方に戻っていった。その後姿を見送る隆重の表情には明らかな不安がある。

「大丈夫であろうか」

 その懸念に、信直は鼻で笑った。

「あんな腰巾着にそんな度胸はあるまい。その度胸があれば興経なり千法師なりの首級を携えて来る筈。所詮その程度の覚悟しかないのだ。それでやれ所領を寄越せだのなんだのと、身の程知らずにも程があるわ」

 言い終えると信直は顔から感情を取り払った。隆重も無表情に兵達を見回す。

「これより館に突入する。事前に申した手筈通りに動け。興経と千法師だけは絶対に逃してはならぬぞ、よいな」

 鬨の声は上がらなかった。およそ三百の手勢は、声もなく館のある山の麓へと分け入って行った。枯れ落ち葉を踏みつける小さな音と、鎧や武具の音だけが辺りに聞こえていた。




 興経の居室には、酒杯が散らばっている。その部屋の中で興経は大の字になって眠っていた。いつ襲われるとも知れぬ身としては無防備に過ぎるが、彼には自然体を崩すつもりは毛頭なかった。備えていようが死ぬ時は死ぬのだ。過度に襲撃を警戒して怯えるなど馬鹿馬鹿しく、かつ許容出来ない振る舞いだった。

 だがその眠りも、部屋に近付く足音で自然に覚める。じろりと見据えた先には、身を硬くして立ちすくむ女の姿があった。明石という名の侍女である。

「どうした」

 その言葉で我に返ったか、明石は片膝をついて跪く。その険しい表情で、興経は彼女が次に発するであろう言葉を察していた。既に酔いは吹き飛んでいる。

「曲者どもが館に乗り込んで参りました。その数は正確には数え切れぬほどでございます。応戦しておりますが、多勢に無勢です。すぐにでもこちらに向かって来るものと思われます」

「よかろう、弓を持って参れ。蹴散らしてくれるわ」

 興経はむくりと起き上がって指示を飛ばす。だが明石は一瞬躊躇うように口を引き結んだ後、はっきりと告げた。

「弓は使えませぬ。全ての弓の弦が、切られておりました」

「なんだと」

 耳を疑うような言葉に、さしもの興経が呆然とする。

「それはまことの話なのだろうな」

 愚劣な質問である。だがそうとわかっていながらも、彼はそう問い返さずにはいられなかった。

「……残念ながら。昨日確認した時には、間違いなく全ての弓の弦は張られていたのですが……」

 自分の罪であるかのように明石が答える。叱声が飛んで来るものと覚悟してか、体は硬くこわばっていた。

 だが、興経の反応は彼女の考えとは全く異なっていた。彼は大声を上げておかしそうに笑い出したのだ。明石は唖然として主君の奇態を眺めるしかない。

「わしは今まで『今鎮西』と呼ばれ、実際自分でもそう思っていたが、どうやらわしに似合っていたのは『今項羽』の方だったらしい。ここまで天に見放されていようとはな! これは元就ではなく、天がわしを滅ぼそうとしているのだと考えるしかあるまい」

 興経は事の成り行きを察していた。館の中に内通者が居たのだ。そしてそれが誰なのかも。彼はおもむろに佩刀を抜き、その刃を見る。明石もそれを見た。目を剥いて言葉も出ない様子だった。

 その刀は単なる鉄塊と化していた。刃の全てが念入りに潰された事によって。

(つくづく人を見る目がない事よな)

 笑いながら興経は思う。そもそも自分が当主の座から引き摺り下ろされる事になった決定的な理由は、大塩右衛門尉という家臣を重用した事による家中の混乱が原因だった。大塩は興経の信任をよい事に悪政を敷き、遂に叔父経世らによって誅殺されてしまった。それは必然的に、彼を用いた興経に対する拭いがたい不信感にも繋がった。

 今回もそうだ。興経はその裏切り者……村武宗蔵を信任していた。だからこそ大事な武具の手入れについて彼に任せたのである。その結果がこれだった。

「明石よ。わしは今宵滅ぶ運命のようだ。そんな先のない男に従う必要もなかろう。兵どもの慰み者にされる前に逃げるがいい。一介の侍女ならば、あるいは命を拾えるかも知れぬからな」

 しかし、明石は強く首を横に振った。その光景に、興経は強い既視感を覚える。果たして、彼女が発した言葉も彼の予想したもののそれと違わなかった。

「主人の危機に際して我勝ちに逃げ出す従者など従者と呼べますか。私は黄泉の国まで殿にお供仕ります」

 そう言い終えるか否かという折、彼女に向けて何かが投げられた。それは短刀だった。

「いざという時はそれを使うがいい」

 ぶっきらぼうに言い捨てる。彼女が無言で懐中に仕舞い込む仕草を珍しいものでも見るかのように眺めながら、きかん坊に呆れるような面持ちで興経が続けた。

「お主も強情な女よ」

「殿ほどではないと存じます」

 互いに、にっと笑みを浮かべた。

「行くかね」

 足早に門に向って歩み出す。恐らくそちら側に敵の大将が居るだろう。その直感に従いながら、彼は自然苦笑を浮かべていた。

(まったく、どうしようもない強情者どもだ)




 門へ至る道は、地獄絵図そのものと化していた。地べたには何人もの兵士が転がり、その大方がすぐには立ち上がれぬ重篤な衝撃を頭部に受けている。更にところどころには、折れた刃と思しき欠片が幾つも散らばり、打ち捨てられている。そしてそれを一切顧みず、二人の男女はひたすらに門へと走っていた。

「なるほど、大した手柄よな」

 寄せ手の大将格たる熊谷信直が吐き捨てるように言う。

「何が苦労をして頂く事はない、だ! なんだこの様は! これではまともに戦うより性質が悪かろうが!」

 本来信直を宥めるべき天野隆重も、渋い顔で状況を眺めている。それだけ眼前の光景が、彼らにとって不本意かつ不愉快極まる状況を呈していた事に他ならない。

 裏切り者村武宗蔵は、興経愛用の武具を潰せば片が付くと思っていた。現実にはそうではなかった。興経はそれも構わず、遮二無二突進して来たのである。刃の潰れた刀を掲げながら。その傍には替えの刀(ご丁寧にも全て刃が潰されたものだ)を持てるだけ持った侍女明石が居る。

 彼は刀で当たるを幸いに敵をぶん殴り、刀が折れそうになったらその都度明石が交換し、といった所作を繰り返しながら走り、強引に囲みを突破しつつあった。あまりにも無茶苦茶な、とても作戦とは言いがたい代物だ。ましてその一人は武芸の心得などないか弱い女人に過ぎない。だが二人して既に死兵と化している。死んで元々と考え、完全に開き直った敵を相手取るのは困難だ。まして数で圧倒しているとなると個人の心理としては危機を回避する方向に思考が働く。いつしか我からこの主従に対しようとする兵が居なくなっていった。信直と隆重が渋い顔になるのも道理だった。

「裏山に逃れた千法師の捜索に兵を割かねばならなかったのが痛かったな。お陰で想定よりこちらに割ける兵が少なくなっている。戻って来る頃には戦は終わっていよう」

「あの裏切り者が千法師の首級を取っておればこんな苦労はしなくて済んだのだ! 興経は無理でも子供の首級一つ取れぬとは! 元就殿に取り成しして欲しいだと? ああ、確かに伝えてやるとも。その役立たずぶりをな!」

 聞こえよがしに大声で信直が怒鳴る。既に二人は臨戦態勢になっている。興経達が門の手前まで達しようとしていたからだ。今や戦意に満ちた興経の顔がはっきりと見える。このまま門外での戦いに突入するのだと、誰もが思った。

 ひゅん。

 なにかが飛ぶ音がした。興経が体勢を崩し、膝をつく。侍女が凍りついたように背中を見て立ち竦んでいた。

腰に、矢が突き立っていた。信直と隆重は、それが誰の射撃によるものか思いがけず知る事になった。弓を持っていたのは、裏切り者村武宗蔵その人だった。

「や、やったぞ」

 興奮と恐怖がないまぜになりながら独りごちた。元より彼は信直が散々悪態をつくような『失態』を承知していた。このままでは最終的に興経が死んだとしても恩賞にあずかれるかは怪しい。そう思いつめた結果がこの行動だった。

(興経の勢いは止まった。これなら奴を討ち取るのは容易い。さすれば俺の恩賞は――)

 思考は最後まで続かなかった。興経が弾かれたように、自分の方に振り返ったからだ。

「ひ……っ」

 知らず、呻き声が漏れた。その眼光と顔は、人のそれとはとても思えなかった。まるで地獄で魂を責め苛む悪鬼の類に見えた。がたがたと足が震え、その場にへたり込む。

「明石、矢を前に押し抜け」

 つまらぬものを見たとばかりに前に向き直るや、息を切らしながら侍女に命じる。立ち止まった事から、今まで半ば無視していた疲労と向き合う形になる。十月になろうというのに汗が止まらなかった。

 明石が命令に従って矢を押し込むと、鏃が腹を突き破る。一瞬ぐっと呻き声が漏れたが、構わずその鏃を引っ掴み、無理矢理前に引き抜き切ってしまった。あまりに壮絶な光景に、敵兵も我を忘れて見守った。

「もう替えの刀も残っておらぬらしいな」

 息を整えながら平然と問う。着衣は腹部の血に染まり始め、口からも血が零れている。満身創痍に違いないのに、この男はそれでもまるで変わりがなかった。

「先程お渡ししたのが最後でございます。残っているのは殿より渡された短刀のみ」

 蒼白になりながらも、気丈に明石が答える。それを見た興経は、満足そうな笑みを浮かべた。

「お主はこの館に居る奴ばらの誰よりも頼もしい女だ。内蔵丞と共に戦っているような気分だった。黄泉の国とやらに行ったとしても、お主の事は忘れずにおこう」

 明石も笑い返した。

「私は黄泉の国にも地獄の果てにもお供仕るつもりです。忘れるもなにもありはしませぬ」

「なら安んじて死ねるように、しかと身を処すがよい」

 力強く立ち上がり、辺りを睥睨する。手負いの男一人に、兵達は皆竦み上がっていた。こんな地獄の化け物のような男を相手にしたがる兵がどこに居るだろう? それを見て取った興経は侮蔑混じりの笑みを浮かべた。再び刀を掲げて門外に出る。

「来るぞ、守りを固めよ! 決して逃すな!」

 流石に大将付になる歴戦の郎党は一般の兵士とは違う。悪鬼が迫り来る光景に恐怖するでもなく、各々武器を構えてその襲来に備えた。

 だが、彼らに襲い掛かったのは興経ではなかった。空気を切り裂く鈍い音と共に、彼らは飛来するそれを見た。流石の猛者達が一瞬我が目を疑った。飛んで来るのは、二尺八寸ほどの刀だった。興経が殺人的な勢いで護衛目掛けてぶん投げたのだ。投擲ではない。明らかに力任せにぶん投げただけである。だがそれでも、彼らは回避行動を取らざるを得ない。そこに出来る一瞬の隙をこの悪鬼が見逃す事はなかった。

 獣めいた咆哮と共に、彼は稲妻の如く馬上の天野隆重に飛び掛かった。さしもの隆重も、咄嗟に反応出来ない。激しい音と同時に二人が地面に叩きつけられる。そして最終的に敵を組み伏せる形になったのは、興経の側だった。

 だが、彼の消耗は極限に達していた。幾つもの鈍器を走りながら振り回し、何人もの兵を薙ぎ倒し、更に腰に矢傷まで受けたのである。疲労困憊しない方がどうかしている。振り下ろすべき拳は、ぼやけた視界によって狙いが定まらなかった。半ば強引に振り下ろすも、その軌道を読んでぎりぎりの所で隆重は顔面への直撃を回避する。

 二度目の拳撃が振るわれる事はなかった。信直と隆重の郎党に羽交い絞めにされたからだ。そしてもう、それに抵抗する余力は残されていなかった。

 断末魔の悲鳴は上がらなかった。疲弊ゆえか、それとも諦念ゆえか。いずれにしても、最後まで戦い続けた『今鎮西』吉川興経の生命の灯火は、遂に消え去った。

「面目次第もない。とんだ無様を晒してしまった」

 郎党に助け起こされた隆重が恥じるように目を伏せる。信直は手を振って打ち消した。

「無様はお互い様よ。結局の所、我々は最後まで興経一人に弄ばれたままだったのだからな。貴殿一人が背負われる事もない」

 そう言いながら、信直の視線は一点に注がれている。門前で、一人の女が事切れていた。誰の手でもない、自分自身の刃によって。

「羨ましい事よな」

 ぽつりと漏れた言葉に、隆重も黙って頷く。そのまま暫く、侍女の亡骸をどこか感慨深そうに見つめた。興経の嫡子千法師の首級が届くのには、今しばしの時を必要とした。




 うっすらと山際が白みを帯び始めた頃。熊谷・天野両軍は粛々と吉田郡山へと行軍を再開した。その警戒は厳重極まるものだ。万が一の襲撃に対応する為の措置である。興経と千法師の首級は塩漬けにされた上で丁重に首桶に収められている。元就に首対面を仰ぐ為なのは勿論である。

「これで婿殿も安心して領国経営に打ち込めるわ。日野山の砦を大改築して新たな居城にするとの話も聞き及んでいる。これで名実共に旧弊は一掃され、婿殿の手で新たな吉川に生まれ変わる事となろう」

 信直がいささか自慢げに話すのに、隆重は無言で頷く。だがその心は深い思索に沈んでいた。

(吉川・小早川の取り込みと井上一族の粛清……全てが今年の内に行われた出来事だ。何故毛利殿はこうまで急ぐ?)

 天野隆重は元就の宿老福原貞俊の妹を妻としているから毛利家に近しい立場ではある。だがその配下ではない。大内氏傘下の国人として、毛利家の急激な変動には眉根を寄せずにいられない。例えそれが、主君大内義隆の承認と介入を経たものであっても。

(やはり陶殿の密書を重く考えておられるのか。最早山口は取り返しがつかぬ状況にあると考えたのか)

 興経殺害への協力を求められるのと同時に元就から告げられた極秘事項を、隆重は忘れる事が出来ない。それは陶隆房が八月末に、毛利家宛に義隆の押込とその嫡子義尊への家督継承を計画しているので協力して欲しいという密書を寄越したという驚くべき内容だった。それは同族の天野隆綱にも伝えられた話で、何人かの近しい国人にも元就自身が伝えたのだという。

(以前から悪い話は聞いていたが、まさかそこまで抜き差しならぬ状況になっているとは)

 隆重には大内義隆に近侍する弟が居る。一種の人質であるのと同時に貴重な情報源だ。その彼を通して義隆が文治に傾倒して軍事を顧みない事、山口に陶謀反の風聞が広がっている事などが伝えられていた。そして元就からのこの通告である。

(毛利殿は本気で陶殿に与するつもりなのか。だからこそ、こうまで急ぎ脅威を排除しにかかったというのか?)

 その密書の中で隆房は自分に与すれば所領を安堵し、加増の沙汰も行うと約している。元就は自分に対する隆房の説得内容については明かさなかった。だが恐らくは安芸国切り取り次第を認めるものであろうと隆重は読んでいる。それ以外に、既に安芸で半ば盟主に近い地位を得つつある元就を説得出来る材料のなにがあるというのだろうか?

 隆重が属する金明山天野家は古くから毛利家と近しい間柄にある。彼の父元貞は元就の兄興元の提唱した安芸国人一揆に加わっており、自分自身重臣福原貞俊と縁戚関係にある。彼が直接の主従でもない自分を興経殺害の下手人とし、かつ密書の内容を明らかにしたのも長年の関係から来る信頼によるものだろう。だが隆房の計画が実行されれば、恐らく弟は死ぬ事になる。

(もし山口で大事が起こり、毛利殿がそれに加担しようというのならば……わしも身の振り方について考えておかねばならぬのか)

 隆重は終わる事のない思索に沈み、信直は経緯はともあれ娘婿の脅威が除かれ、復仇を果たした事への満足感に浸っていた。だから少し離れた草むらの一角から血が漏れ出ているのに、気付きもしなかった。そこには腹を十文字に掻き切り、喉に短刀を突き立てて絶命する一人の男の亡骸があった。それは嘗て豊島内蔵丞と呼ばれた男の残骸だった。




 吉川興経とその嫡子千法師の死によって、藤原南家後裔たる吉川家の嫡流は絶えた。吉川元春は日野山に新たな居城を築いてそちらに移り、名実共に吉川家は毛利家傘下の一門衆として取り込まれた。以後吉川家は統一された小早川家と共に『毛利両川』として、毛利本家を支える要石の役割を担う事になるのである。

 そして天文二十年。元就や隆重が危惧していた破局が訪れる。大寧寺の変である。陶隆房は大内義隆・義尊父子を殺害し、隆重の弟隆良も壮絶な討死を遂げた。

この時元就は速やかに隆房に加勢して義隆派国人を駆逐し、また翌天文二十一年から二十二年にかけて行われた尼子晴久の備後侵攻時には総力を結集し、辛くも晴久を退けて芸備地方を事実上の支配下に収める事に成功した。それも全ては、井上一族粛清や吉川・小早川取り込みといった強引とも言える政治工作あっての勝利と言える。

 いわば吉川興経暗殺は、そうした政治工作の最後の一手だった。彼とその子千法師の死によって内憂の除去が終わり、その後の激戦に次ぐ激戦を戦い抜く環境を整える事に繋がったのである。

誰もが恐れた興経の剛勇は、先を見据えた大計の前には匹夫の勇にしかなり得なかった。それは皮肉にも、保元の乱で剛勇を示しながら大局には何の影響も与えられなかった『鎮西八郎』源為朝と全く同一の結末だった。




 剣は一人の敵を相手にする術に過ぎない。かの項羽が述べたとされる言葉です。我々日本人は一騎当千という単語やそれを体現する猛者を昔から好みます。例えば新撰組が今でも一定以上の人気を得ているのは、ひと時の栄光から破滅へと坂道を転げ落ちる悲劇性もそうでしょうが、それと同じくらい重要な要素として『凄腕揃いの剣客集団』という印象が強いからでしょう。

 しかし現実には武勇のみならず智謀などの別の要素がなければ大成する事は出来ません。吉川興経にはまさしくそれが欠落していました。無節操な変節は大内義隆と毛利元就の怒りを買い、最終的に彼を破滅させる一番の要因になりました。元々実力・格式共に上回っていた筈の吉川家が毛利家の属領に成り果てたのも、偏に興経の武将としての無能さが原因であると言わざるを得ません。

 元就の有名な訓戒に『謀多きは勝ち、少なきは負け候と申す』という一節があります。それはそのまま、毛利元就と吉川興経の対比そのものになる。この二人の対照的な人生を見るにつけ、そう思わずにはいられません。

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