血糸座間亜転生郷姿見
時は聖暦五百年、ところ異世界、レム王国で、男の声が、鳴り響く。
「リョースケ、きさまは、追放だ」
声の主はリナハトである。職業勇者、Aランク。パーティリーダーその男、下劣な笑みを浮かべれば、慌てたリョースケ、
「な、何故俺が?」
「決まってるだろう、役立たず。お前はなんにも、貢献してねぇ」
とリナハト言えば、酒場の卓に足乗せて、隣にはべるは黒髪の魔女。胸も露わな服装に、大なる帽子をひっ被り、勇者に肩を、寄せ云うは、
「リナハトぉ、あなたの意見が、正しいわ」
続けて放つは、氷の宣告、
「リョースケあなたは帳簿つけ、装備のメンテと裏方ばかり、働いてるのは私たち、なれば追放間違いなしよ」
そうだそうだと声あぐる、二人の取り巻きシーフとヒーラー。エルフのヒーラー見下ろせば、その口の端に、下卑の笑み。シーフは黙せど、侮蔑の視線。
哀れリョースケ卓の手を、子鹿のごとく、震わせば、
「き、きいてくれ」
そういうも、傲岸不遜のリナハトは、とりも合わさず、
「言い訳なんぞ、聞くに飽かぁよ、ええ? 荷物抱えてでていきゃあがれ」
勇者吐き捨て卓の酒、飲むは川辺の鵜の如く、空いた鉛杯投げつけて、キラリキラリと飛んで裂く、酒場の喧なる熱気と空気、宙を舞いたる鉛杯、受けるはリョースケその眉間、ただただリョースケ勇者を睨み、怨嗟の炎で瞳が揺れる。されど気にする様子なく、リナハト魔女の肩を抱き、ニヤニヤ笑えば、
「取り分は、日割りで計算してやらぁ、餞別代わりじゃ畜生め」
「そ、そんな……俺がいなけりゃ……」
「いなけりゃなんだ、ええ? 言うてみい。所詮雑用、犬の餌にもなるめえよ」
勇者哄笑、魔女冷笑、四人の笑いが酒場に響き、侮蔑に塗るるリョースケや、あわれなるかな異世界人、二とせ前より日本から、異邦の地へと召喚受けて、苦渋飲みつつパーティーを支えてきたは、誰なるぞ、アアヨヤヨヤヨ、アアヨヤヨヤヨ、四人は元はEランパーティ、それに心を石にして、支えてきたは誰なるぞ、アアヨヤヨヤヨ、アアヨヤヨヤヨ。
リョースケ心中察せぬは、勇者リナハト、邪智の漢、さらに笑いて、
「雑用係にゃ事欠かねえ、俺等勇者の下働きにゃあ、引く手あまたの大賑わいよ」
投げらる侮辱の言葉の刃、リョースケ口噛み、ぎりりと音を立てたなら、そこで首振り四人に告げる。
「ほんとうに、俺を追放、良いんだな?」
「かまわんかまわん、さっさと母御の胸元帰り、おぎゃあおぎゃあと泣くが良い」
「エエ、そうよ、さっさと追放されなされ」
魔女が云い、
「ほんとうか」
「アァよ」
「本当なんだな?」
「しつこいぜっ、たたっ斬って進じょうか?」
「アアでは承知、承知。ではこれまでの、レンタル魔力、その徴収を今ここに」
言うやリョースケ手を上に、漂う魔力の集積に勇者顔色サッ、変わり、
「ヤア待てリョースケ、どう云うことジャ」
「どうもこうもあるめえよ、貴様ら預けた魔力の八割、元はと言えば、我のマナ、返して貰うは世の定め」
異世界人の掌、魔力の渦がくるくる周り、最上の川の水車、音はゲリラの豪雨にて、どうどうどうどう、どうどうど。マナ示す、紫色が勇者の身体抜け、リナハト身体が虚脱を襲い、身に残りたるは師走の田園。
勇者声を震わし、
「エヽ何言うか、これは儂らの力じゃぞ」
「ヤアヤア異なること。初期に貸したは我なるぞ」
「約束なんゾしたるかや」
「われの説明聞かぬはおのれ、不識を後で恨むが良い」
マナ抜けたるは、勇者だけには相成らぬ、魔女の身よりもマナ抜けて、女はへたへた座りこみ、よよと泣くは巨乳の女、頬より流れる涙を袖に、云うは、
「アア、待ちなされ、待ちなされ、我は豊かな胸持てば、そばにおいてくりゃさんせ」
されど怨鬼のリョースケ許さず、卓に足のせ、
「エエイ、聞かぬ聞かぬ。我の事を馬鹿にしおった罪、ああ三千世界の御仏許すも、我の怨みが許さぬぞ」
「アア待って」
「ヤア待たぬ」
マナが来たりて、リョースケ嗤い、身に宿したるその魔力、パンプアップも兼ねたなら、ムキにムキたる己が手拝見、動かす指は、アース噴かれしゴキブリの脚。
「ヤアヤア絶景かな絶景かな」
ともに勇者の身体が縮み、魔女もシーフも皺が寄り、ヒーラー既に、木乃伊のごとく。引っ込む眼窩でおろおろと、リナハト我が身を見回せば、
「アアどういうことジャ、なんなのじゃ」
「マナの総量合わせても、足りぬ足りぬは禊の重さ。我がただ今受けた恥、それも揃って返してもらう」
更にリョースケ哄笑し、マナに満ちたるその身は十尺、吉備の鬼にもまさるる姿、さすがは無双の異世界人。
リョースケ怨みはなおつきず、レベルドレイン発せれば、グアアアと四人が声を上げ、スキルドレイン発せれば、ああグァグアア、ああグァグアア。
異世界人、吸いに吸いたるその身体、超超デカく、超デカく、酒場の屋根をぶち破り、およそ身長二十尺。角生え牙生え翼はえ、体色変ぜば、五条河原の擬宝珠色。
「ああ、満腹じゃ満腹じゃ」
腹を擦りてリョースケは、小さきパーティ見下ろせば、更に笑いて、
「絶景かな絶景かな、勇者の眺めは値千金たぁ小せえ小せえ。このリョースケには値万両、もはや全てのスキル吸い、誠のミイラとなりはてりゃ、マナの盛りもまたひとしお。はてうららかな眺めじゃなァ」
空と海の間にて、異界に大声響いたならば、リョースケ轟音あげ足上げて、酒場全てが壊れゆく。あわれなるかな勇者ども、酒場の瓦礫に塗れれば、ミイラの姿で、
「ば、化物……」
哄笑あぐるる金色の、異世界人たるリョースケは、背の羽根揺らして下天を舞い、姿はまさに金天使、紅き眼で地平を見れば、
「スローライフを目指そうか、悪役令嬢娶ろうか」
虚空の彼方へ消えていく……。
今日は、これぎり。




