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改訂 【 塀の上、綱渡りのハッカーズ 】  作者: 風風風


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改訂【塀の上、綱渡りのハッカーズ】 本編 29  証券スキーム

(注) 本編 28 は、ほんの少々の手直しを加えました。混乱を避けるため、


    改訂【塀の上、綱渡りのハッカーズ】 本編 28  証券スキーム と改題しました。




 六本木の塔、最上階の執務室。太田黒は窓の外に広がる、光り輝くコンクリートの森を見下ろしていた。その視界に映るのは街の風景ではない。市場という名の巨大な水槽で、躍動する幾千、幾万の細胞だ。


 彼の目の前には、1024個の口座を同期させたメインコンソールが鎮座している。一人あたり4つの口座を操作する256人のエリート・トレーダーたちが、地下の選抜エリアで静寂の中、モニターを凝視している。


「準備はいいか。今日から、およそ3か月。証券コード1570。これだけを、お前たちにトレードしてもらう」


 太田黒の声は淡々としていた。彼にとって、この256人は、市場からカリスマトレーダーを生み出すための「駒」に過ぎない。一人4口座。彼らに与えられたのは、組織から貸与された強固な回線と、太田黒の「売買の指示」のみ。


「第1ラウンド。イン」


 太田黒の号令と同時に、1024の口座が一斉に「1570」のトレードを始める。256人のトレーダーが、機械的な動作で一斉にクリックした。その瞬間、市場には4つの口座を操るトレーダーたちが、太田黒の要求する「買い」と「売り」を自身の口座でトレードする。


 七日後、最初の決済で、半分の口座が振り落とされた。太田黒のモニター上には、1024口座が512口座に半減した。

「生き残った512口座。予めの指示通り、同時にインする」


 十日後、第2ラウンドの決済、および第3ラウンドのイン。ラウンドを重ねるごとに、口座が振り落とされていく。これを繰り返すうち、連勝を続ける口座だけが残る。


 二月後、第7ラウンドを終えたとき、残ったトレーダーはわずか16人。16口座のみが、塔の深部で鼓動を続けていた。


 太田黒は、冷えたコーヒーを一口飲み、満足げに微笑んだ。この段階に達した者は、もはや市場の波を見ているのではない。市場の背後に潜む「太田黒の意思」そのものを視認しているのだ。


「いよいよ最終だ。最後の16口座の選抜だ」


 最後の選抜戦は、計16口座。

 太田黒は、ただモニターを眺める。最後に残った一人が、真の「カリスマ」として覚醒する瞬間を。


 決済の刻。選抜の末に一人だけが、その椅子に座り続けている。太田黒は、生き残ったそのトレーダーの名前を、静かにノートに記した。


「完成だ。1024口座の摩擦を熱に変え、ようやく一個の純銀が精錬された」


 選抜されたカリスマは、立ち上がり、無言で太田黒の前に進み出る。その眼には、恐怖も歓喜もない。ただ、太田黒の思考を投影する空虚な光が宿っている。


 塔の地下では、すでに次の256人が新たな座席を埋めようと列を作っている。市場が動く限り、彼の錬金術に終わりはない。選ばれしカリスマという名の「操り人形」が、今、塔の外へと放たれる。太田黒の計算式が、現実の経済を支配し始める。その静かな足音が、六本木の夜に溶けていった。


©2026 [風風風]. All rights reserved.

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