改訂【塀の上、綱渡りのハッカーズ】 本編 14 証券スキーム
太田黒の言葉は、まるで氷の下を流れる川のように静かでありながら、確実な熱量を持って久保の耳に届いた。
「いいか、久保。この『譲渡』という名の毒杯を、彼らにどう飲ませるかがすべてだ。単なる金儲けの勧誘ではない。『君たちの負けは、運営側に回るための試練だった』とでも思わせろ。選ばれた3人が、自分たちの負けを帳消しにできるという希望に酔いしれた瞬間、彼らは自ら進んで檻の鍵を内側から閉めることになる」
久保は深く頷き、太田黒の描いた青写真の細部を頭の中で精査した。
勝ち組を連れ出し、潜伏させ、負け組を新たな「管理人」として仕立て上げる。
組織という名の巨大な爆弾を、自分たちではなく、被害者であったはずの客たちに抱かせる。これ以上の隠蔽工作があるだろうか。
「配下の者たちには、どう言い含めますか?」久保が問いかける。
「『お前たちの報酬は保証する。だが、ここぞという時に、客の口座と全データを物理的に破壊して、消えろ』とだけ伝えろだ」
太田黒の視線は、既に数ヶ月先の「霧」の向こうを見据えていた。
負け組の客たちが、自分たちの名義で発行された「譲渡契約書」を盾に、税務署や警察に追及される未来。それを想像するだけで、太田黒の口元には微かな笑みが浮かぶ。
「行ってこい。銀座の灯りが恋しくなる前に、すべてを完了させろ」
久保は部屋を出た。エレベーターの鏡に映る自分の顔は、既に「次の準備」を始める狩人のそれになっていた。
オフィスは、その夜から急速に整理が始まった。
シュレッダーの音が、深夜のオフィスに静かな雨のように響き続ける。太田黒の指令通り、勝ち組には「バカンス」が提案され、負け組には「支配の夢」がささやかれる。
相沢は、その光景を遠巻きに眺めながら、自分の仕事が「狩り」から「掃除」へと変わったことを理解していた。霧の中に消えるまでの、最後のカウントダウンが始まっている。
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