2.吸血殺人事件
この間の怪獣騒動から一週間が経った。
今の所、新たな怪獣は出現していない。
休暇をいただいた光一は、自衛隊駐屯地を出て街へと繰り出していた。
あの巨人、一体何者なのだろうか。自分を火球から庇ってくれたことを踏まえると、悪意のある者ではなさそうだった。
住宅街を歩いていると、後ろから男が駆けってきて、光一のポケットから財布を引っ張り出してそのまま去っていく。
ひったくりだ。
「あ、待て!」
慌てて追いかける光一。
ひったくり犯は躓いて転び、財布を落としたが、すぐに立ち上がると財布を諦めて逃げる。
向かい側から、同じく休暇の恭子が現れる。
ひったくり犯は前方の障害物である恭子をどかそうと、ナイフを取り出して振り回した。
ナイフは恭子の首を掠める。
逃げ場を失ったひったくり犯は、踵を返して光一の方へ突っ込んできた。
「うお!」
光一はナイフをかわし、腕を掴んでひったくり犯をはっ倒して取り押さえた。
「高木さん、危ないでしょ」
「大丈夫よ」
「何が大丈夫なんだよ。一歩間違ったら刺されてたかもしれないんだぞ」
「掠めるって予測してたからね。避けるまでもないかなって思って」
(この子、やっぱり只者じゃないな)
光一は通報で駆けつけた警察にひったくり犯を引き渡す。
「ところで高木さん。この間、俺が怪獣に銃撃してるとき、どこ行ってたの?」
「え? ああ、避難誘導に」
「なんだ、そうだったのか。じゃあ、怪獣を倒す巨人の姿は見た?」
「ええ、見たわよ」
「あの巨人、一体何者なんだろうな」
「アストライア」
「え?」
「ああ、巨人の名前」
「知ってるの?」
「惑星ヴァルシアから来た超機械生命体よ」
「なんでそんなこと知ってるんだ?」
「知ってるっていうか、本人が言ってたのよ」
「知り合いなのか?」
「まあね」
「どこにいるかわかる? 助けてくれた礼を言いたいんだ」
「うーん、伝わってると思うよ?」
「だといいんだけど」
その時だ。
「うわああああ!」
どこからともなく悲鳴が聞こえてくる。
二人が悲鳴の元に駆けつけると、男性の遺体が倒れていた。
「死んでる?」
恭子は遺体を調べる。
目立った外傷はない。
眼球に搭載された血管透視装置で血液の流れを確認するが一滴も残されていない。
(人間の仕業ではなさそうね)
「とりあえず、警察呼ばないと」
光一は警察に通報し、発見時の状況を駆けつけた捜査員に伝えた。
その後の捜査で、遺体には一滴の血も確認できず、外傷もないことから奇怪な事件として、状況を調べるために捜査が始まった。
それは自衛隊にも及び、光一の隊にも合同捜査の指示が入った。
「なんか吸血鬼みたいな事件だよな」
と、光一が呟く。
司令官の指示でバディを組まされた恭子は、「宇宙には何種類かの吸血生物がいるみたいよ」と答える。
「それは怖いな」
恭子は考える。
(恐らく手口は空間転移を使った血液のテレポート。とてもじゃないけど、地球の技術では不可能ね。今度の敵は血液を回収してるのかしら)
「他に同様の被害者がいないか調べてみましょう?」
「ああ、そうだな」
二人は隣県の警察にも事情を説明し、同様の被害者がいないか調査をしてもらった。
「一件だけ該当する事件を見つけたよ」
資料室を管理する職員が、捜査ファイルを持ってくる。
被害者は女性。
やはり男性と同じように、外傷もないのに血液が失われているという奇妙な事件だった。
こっちの事件は、現場に防犯カメラがあったため、その映像も記録されていた。
映像によると、女性は男と面会した瞬間、彼がなんらかの装置のようものを取り出して、彼女の方へ向けている。その直後、被害者の女性が意識を失って倒れた。
警察はその装置と血液消失との因果関係を説明できず、事件はお蔵入りにされていた。
「この男性の所在は?」
「一応、話を聞くため調べましたが、前歴もなく、どこに住んでいるかもわかりませんでした」
恭子は考え込む。
(テレポート技術を得意としたテレポット星人か? いやしかしテレポット星人は温厚で争いを嫌う友好的な種族のはず……)
「あれ?」
光一は女性の名前を見て、男性被害者と同じ苗字であることに気づいた。
「どうしたの?」
「いや、この女性の名前、俺たちが発見した男性と同じだよなって思って」
恭子も苗字を確認する。
「確かにそうね」
(もしかして、同じ名前の人を狙ってる? 血縁者とか?)
「作戦がある。基地に戻るわよ」
「なにか思いついたのか?」
二人は駐屯地の作戦司令室に移動した。
「司令官、血液消失事件で犯人を誘き出す作戦があるんです」
と、恭子。
「なんだ? 言ってみろ」
「男性の他に隣県の警察を調べたら同じ苗字の女性が同じ手口で亡くなってることが判明しました」
「ほおう?」
「架空の戸籍を作って、囮を用意できないでしょうか?」
「上に掛け合ってみよう」
司令官は上層部に話をつけ、恭子の作戦に承認が下りた。
囮には恭子が光一を推薦した。
光一は駐屯地を離れ、公園のベンチに座っていた。
そこに映像に映った男が現れる。
「小島 秋吉さんですね?」
男の問いに光一は頷く。
「小島 明美さんと小島 快人さんとのご家族の方ですよね?」
両名は兄妹だが、秋吉は組織の力ででっち上げた架空の血縁者だ。
「はい」
「あなたを捜していたんです。見つかってよかった」
男は懐から空間転移装置を取り出す。
「そこまでよ!」
「うん?」
男が声の方を向くと、その先には恭子が拳銃を構えて立っていた。
「おやおや!」
男は両手を上に挙げた。
光一は装置を取り上げる。
「テレポット星人ね?」
「違うね。私はキュレックス星人だ」
(キュレックス……宇宙吸血鬼の方だったか)
「なんの目的で人間の血を採取しているのかしら? しかも血縁関係者を狙ってるわよね?」
「そこまでわかっているとはな」
星人は横跳びで照準から抜け出し、恭子に向かって光弾を放った。
「きゃあ!」
不意打ちを受けた恭子は吹っ飛ばされてしまう。
「高木さん!」
光一は恭子の元へ走ろうとしたが、星人に麻酔を打たれて気絶してしまう。
「柳田!」
体を起こした恭子が呼びかける。
「こいつはもらっていく」
星人はそう言って光一の体をファイヤーマンズキャリーで担ぎ、空間転移でその姿をくらました。
「くそ!」
(私がついていながら、彼を誘拐されてしまった!)
恭子は端末を取り出すと、空間転移エネルギーの残滓で移動先の座標を特定する。
「本部!」
恭子は無線で作戦司令室に通信を行う。
「囮の柳田隊員が宇宙人に拐われた! 至急応援を頼みたい! ポイントは駐屯地上空の敵宇宙船内! 繰り返す——」
「了解! 空自に要請して航空機を派遣する!」
陸上自衛隊の要請を受けた航空自衛隊が航空機を陸上自衛隊駐屯地の上空へ飛ばす。
上空でホバリングしている宇宙船が、ミサイルで航空機を迎撃する。
航空機はミサイルをかわし、乗り込む手立てを考える。
一方、宇宙船内に囚われた光一は、拘束された状態で意識を取り戻す。
「目が覚めたか」
「ここはどこだ?」
「私の宇宙船内だ」
「今すぐ解放しろ!」
「それはできない。お前の血液をいただくまではな」
「無駄だ。俺は小島 秋吉ではない」
「なに?」
「小島 秋吉は我々がでっち上げた架空の名前でな。俺の本当の名前は柳田 光一だ」
「な、なん……だと!?」
「だから俺に用はないはずだ」
「そうだな。だが食用の肉として持ち帰ってやろう」
「野蛮な宇宙人だな」
「お互い様じゃないか。地球人だって月にミサイルを放っているだろう?」
「あれは月面探査の一環だ。攻撃ではない」
「月の内部の空洞には文明が築かれている。月星人は地球人を攻撃的な種族と認定している。隣接する火星人も地球人を警戒しているぞ? ん?」
「ところでお前知っているか?」
「何をだ?」
「ヴァルシアのアストライアを」
「ヴァルシア? アストライア? なんだそれは?」
「知らぬか。先日、地球に現れた怪獣を倒した戦士だよ」
「ああ、あの巨人のことか。現れても無駄だ。この宇宙船を戦闘ロボットに変形させて返り討ちにしてみせる」
星人はそう言って、光一を置いて部屋を出ていく。
(どうしよう)
光一は拘束を解く方法を考える。
そこに、空間転移で恭子が現れる。
「やあ。大丈夫かい?」
「高木さん!?」
「どうやって来たの?」
「あいつと同じ方法を使ってね」
「同じ方法?」
「量子テレポートって知ってる?」
「聞いたことがある」
量子テレポートとは、未知の量子状態そのものを、量子もつれと古典通信を使って遠隔地に転送する仕組みである。空間転移装置はそれを応用した技術で物質をAからBへと瞬間的に移動させる万能アイテムである。
「それより、これ解いてくれないか?」
「ああ、そうね」
恭子は光一の拘束具を外した。
「脱出するよ」
恭子は空間転移で光一と共に地上に移動する。
「陸上から航空へ。船内に囚われていた人質を救出完了。敵船に攻撃願いたい」
無線で航空機に指示を入れる恭子。
航空機が宇宙船に攻撃を始める。
コックピットの星人は、目の前のパネルを操作して宇宙船を戦闘ロボットに変形させて応戦を始めた。
攻撃していた航空機を巨大ロボットが撃墜する。
「柳田、住民の避難誘導をお願い」
「わかった。けど、君はどうするんだ?」
「私は私のできることする。頼んだわよ」
恭子はそう言って走り出し、誰もいないところに移動する。
「彼に見られるわけにはいかないからね」
懐からスティック型の装置を取り出す。
ボタンを押した瞬間、恭子の体が巨大なアストライアに変身する。
変身プロセスをもう一度スローで追ってみよう。
スティックのボタンを押すと、自身が乗って来た宇宙船に待機させていたアストライアが空間転移で現れ、恭子がその巨人に瞬間的に格納され、主観的意識がその体へと転移するのである。
「現れたな!?」
と、ロボットのコックピットで星人が叫ぶ。
アストライアはロボットの懐に走り出すと、繰り出されたパンチを受け流してカウンターを浴びせ、拳を乱打してダメージを与えていく。
ロボットは体勢を崩しよろめく。
アストライアはその巨体に見合わない俊敏な動きでロボットに追い打ちをかける。
「は、早い!?」
ロボットがバランスを整える前にアストライアの攻撃が放たれロボットはボロボロになっていく。
アストライアは虫の息になったロボットに、トドメのヴァルシアブラストでロボットを爆破した。
「うわああああ!」
爆風で星人が宙に投げ飛ばされる。
アストライアは星人を右手で受け止めその姿を睨む。
「お前は決して赦されない過ちを犯した。処刑する」
アストライアは星人を握り込みそのまま押し潰した。
手を開くとペシャンコになって息絶えた星人の姿がある。
アストライアはフウっと星人に息を吹きかける。
星人は枯葉のようにヒラヒラと空中に舞い散る。
「アストライア!」
地上で光一が彼女を呼ぶ声がする。
アストライアは振り返り、しゃがんで光一を見下ろした。
「君にずっと礼が言いたかった。この間は助けてくれてありがとう」
アストライアは無言で頷く。
「それと、俺の一生に一度の願いを叶えてくれないか?」
アストライアは首を傾げて疑問符を浮かべた。
「俺、子どもの時、ウルトラマンが好きでよく見てたんだ。当時、俺はウルトラマンは本当にいるって思ってたけど、大人になってからはそんなことはないと気づいたんだ。でも、ウルトラマンではないが似たような存在の君が現れた。君は空を飛ぶことができるよな? 俺、子どもの時はウルトラマンの手に乗って飛んでみたいって思ってたんだ。だから、俺を一度その手に乗せて飛んでくれないか?」
アストライアは右手を光一の前に下ろし、その上に彼を乗せて立ち上がった。
「た、高え!」
全長五十二メートルもの高さのある立ち上がったアストライアの手から地上を見下ろした光一は恐怖を覚えた。
アストライアはゆっくりと宙に舞い上がり、光一を落とさないようにデリケートに空を飛行する。
「すげえ! 俺飛んでるよ!」
光一は目の前の光景にとても興奮した。
アストライアは暫く空を飛び、やがて地上に着地して光一を手から下ろした。
「ありがとう。貴重な体験ができたよ」
アストライアは頷くと、立ち上がりながら地面を蹴って飛翔し、空の彼方へと消え去った。
地上に転移した恭子は、興奮が冷めやらない光一の元に移動した。
「そんなに興奮してると頭の血管切れるよ?」
「ええ?」
振り返る光一。
「だって俺、一生に一度の体験をしたんだぞ。興奮するなってのが無理って話だよ」
「よかったね」
「高木さんもアストライアに乗って飛んでみなよ」
そう言って光一は嬉しそうな顔で歩き出した。
恭子はそんな光一を見つめるのだった。
次回のアストライアは
接近する飛行物体は怪獣だった。
攻撃を受けた恭子と光一は無人惑星に迷い込む。
アストライアなしで怪獣とどう戦う!?
守りたいと思った時、それが私の戦う理由だ!




