契約
世界には幽霊や悪魔、妖怪等と言った『非現実』的な存在がある。信じるか信じないか、それは自分次第……だが、十年前にその常識は覆された。
二〇一五年八月十日、十二時頃。
突如として空に現れた謎の空間から一匹の鎌を持った何かが降り立った。
住民達はとにかく逃げるも、一瞬で見えない斬撃で建物や住民が斬られる。
やがてそこから数分間、東京は地獄に変わってしまう。
「うっ……ぐぁ……!」
一人の少女が瓦礫の下敷きになり意識が遠のいていく中、空から何かの破片が目の前に落ちてきたのが見えた。
何を思ったのか、少女は自由だった右手で破片を握る。
その時、鎌を持った何かが少女を見て何か喋っているのが見えた。
意識が遠のいていた為、微かな声が脳内に響く。
少女はその後ろ姿を見るのを最後に意識が途絶えた。
二〇二三年五月十日。
東京は復旧作業が続いているも、不良等がたむろして治安が悪い状態になっていた。
無免許運転や万引き、殺人などは当たり前の東京。
そんな所に一人の少女がどこかに向かって歩いていた。
「っ……ちゃんと前見ろ!」
「……すみません」
通りすがりの男とぶつかるも、少女は見向きもせずに謝罪しつつ、近くの路地裏に隠れてはポケットから財布を取りだした。
「ひーふーみー……なァんだ、これっぽっちか」
少女はぶつかった男から財布をスっていたのだ。
札だけ取り出し財布を投げ捨て、路地裏を出るもスられた男が目の前で仁王立ちしていた。
「おいガキ、返せ」
「……お金ないから恵んでよ、見殺しにするつもり?」
「はァ?テメェの人生なんて興味ねェんだよ!」
少女は頬を殴られ、壁にぶつかり鼻血を腕で拭き取る。
キッと男を見るも、その態度が気に食わなかったのか思い切り膝で腹を蹴る。
「義務教育も受けてねェガキに教えておいてやるよ、ここに慈悲なんて存在しねェ街なんだわ。恨むならテメェの親を恨むんだな!」
「義務教育受けてそうなあんたが、今はこんな奴になってると親は悲しむだろうね」
「……クソガキが」
数分後、路地裏で倒れ込む少女。
雨も降り始め、まるで今の自分の心を映し出されているようだった。
立ち上がろうとするも、力が入らずにその場で倒れ込んでしまう。
「今日はツイてない日だな……」
水溜まりに映る自分を見ていると、爆音と共に強風が発生し不良達が逃げ惑う姿が見えた。
路地裏に居たからか、風の影響で吹き飛ばされる事は無い。
だが、これから来る何かに見つかってしまう可能性がある。
「……妖怪!」
二〇一五年に発生した空間を境に、数々の妖怪が全国に現れ始めた。
妖怪を倒す為に全国に点々と『対妖怪駆除団体:スレイヤー』が設立されるも、ここ東京には作られておらず、助けなどは全く来ない状況だ。
東京に設立は何度も試みたが、妖怪が建設に支障をきたし実質不可能なのである。
「……最悪……今日はほんとツイてない」
数分前の殴ってきた男が妖怪に捕まり食べられる姿が見えた。
地獄絵図が広がっていく。沢山の血がみるみる増えていく。
「……ここまでか」
死を悟ったその時、ふとポケットにあった破片を取り出す。
八年前に手に取った破片を今更見てもどうにもならない。
……あいつが落として行ったこの破片、意味が無いのかと考えるも、妖怪の足音が近づいてくる。
「……妖怪に殺されるぐらいなら……破片で首を斬って死んだほうがマシかも」
妖怪はついに路地裏を覗き、少女を見つけ無数の手を伸ばす。
少女の身体をがっしりと掴み、巨大な口を開ける。
だが少女は怯えるどころか笑みを浮かべ首に破片を当てた。
「私を生きて殺せなかった事を悔いるんだな、クソ妖怪」
首に破片を刺し、大量の血を妖怪に浴びさせる。
視界が暗くなっていく。
意識が無くなっていく。
音が聞こえなくなっていく。
これが……死……。
走馬灯が見えた。
八年前に出現した謎の空間。
崩れる家の下敷きになり、助けを求める自分。
破片を手に入れた時、微かに聞こえた声が今はっきりと聞こえた。
「契りは交わされた……私の能力を使いこの世界を壊したまえ」
……なんだろう、気持ちが昂ってくる。
胸が……暴れたくて何かが胸から何かが出たがってる……?
……フフ。
「アーッハハハハハハハハハ!!!!!!!!!」
「グギャアアアアアアアアアア」
胸から巨大な鎌が出現し、無数の手が斬られていく。
地面に着地し、今まで負っていた傷も体力も完治していた。
一本だけ逆立っている髪の毛が鎌になり胸には巨大な鎌、右手には巨大な鎌を持っていた。
「お前がどこの誰かは知らないけどさァ!感謝してるよ!まさか妖怪に感謝するとは思いもしなかったなァ!!」
「グッオォォオ……!!」
妖怪は無数の手を再生し、少女に向かって走ってくる。
片手の鎌で手を斬り、後ろに回り込む。
「本当は死ぬつもりだったけど、こう気持ちが高なったらさァ……生きてぇって思っちまうなァ!!」
妖怪は振り向いた瞬間、顔面を斬られその場で倒れ込んでもがくもそんな余裕を少女は与えない。
少女は鎌を数百回程斬り刻む。妖怪の抵抗も虚しく、数分後には動かなくなっていた。
「はァ……はァ……!?」
変身も解け、今の状況を把握しようとする。
動きが完全に止まっており倒したかと思ったその時、無数の手が少女を襲い捕まってしまう。
「……グッ!?」
変身をしようとするも意識が朦朧をしており、変身が出来ない状況だった。
その時、ひとつの弾が少女の目の前を横切った。
みるみると妖怪が溶けていき、やがてドロドロの状態になった。
「こちら二班、現場に到着……何だこれは……?」
一人の男性が車から降り、今の現状を確認した。
一般市民が妖怪と戦闘を行なっているという、前代未聞の状況に驚きを隠せない。
通常は一般市民から妖怪に触れることが出来ないのだ。
「……対象の妖怪の処理を頼む。俺はあいつのとこに行く」
「了解」
ぞろぞろと団員達が妖怪の方に向かっていき、処理を開始し始めた。
一方、男性は少女に近づき銃を構えて質問を問いかけた。
「……お前も妖怪か?」
「……だったらどうすんの」
「ここで処分する。否定をするなら本部に連行だ。どちらにせよお前は俺達から逃げれない」
男は冷静に銃の引き金に指をかける。
少女は今までの疲れがどっときたのか、その場で倒れ込む。
「……こちら二班隊長、霧原です。今から本部に帰還します」
『随分と早い帰還だな』
「言語を話せる妖怪を確保しました。残りの処理は他隊員に任せて、俺はこの妖怪を拘束しながら帰還します」
『……分かった』
「……い、おい!起きろ!」
「……んぁ?」
目を覚ますと眼鏡をかけた老人が座っており、少女が起きるのを待っていたらしい。
隣には少女を確保した男性が立ちながら睨みつけていた。
立ち上がろうとするも、手を後ろに回され手錠がされていた為、思うように動けなかった。
「誰だよあんた」
「無理矢理連れてきてすまないね……私の名前は武中。このスレイヤーの総司令官をしているおじさんだよ」
「そーか、んじゃ帰るからこれ外せ」
「まぁまぁ、少しお話をしようじゃないか。君、どうやってあの妖怪を倒したんだい?」
少女は朧気な記憶を頼りに武中に喋る。
「なんか首に破片刺したら……変身した。そっからの記憶は無い」
「……やっぱりね、霧島。この子は憑依者だ」
「やはりですか」
少女の隣に立っている男性は霧島。
まるで憑依者という存在を知っているかのような感じだった。
当然、少女はそんなことを言われてもピンと来ない……それどころか興味すら湧かない。
「……結論を言って欲しいんだけど。あたしはこれからどうなるの?」
「我々スレイヤーの一員になってほしいんだ。これまで憑依者を何人も見てきたが、変身した時の痛みや変身後で死ぬ人しかいなかったんだが……これほど自我がある子は初めてでね」
「んー、要はあたしの力を利用して妖怪と戦うんだな?」
武中は立ち上がって少女に近づき手錠を外す。
「利用という言い方は好まないなぁ……君の力が必要なんだよ」
「あたしをオトすならそれなりの対価を用意してほしいね」
「今何が欲しいんだい?」
少女は顎に手を添え、暫く沈黙する。
霧島と武中はその姿を見ながらともに沈黙した。
静かな空間に少女から一つの単語が響き渡る。
「名前」
「……な、名前?」
「そ、あたし名前ないんだよね」
武中と霧島は少女の欲しいものに、唖然としていた。




