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魔王聖女  作者: 未羊


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第96話 思い悩む元魔王

 謎は解けたアリエスは、ちょっと気が楽になったようだ。

 ところが、自分の魔力の影響で子を成すという不可思議な現象には首を捻るばかりだった。


「アリエス様、部屋に戻られてきてからどうなさったのですか?」


 同じ部屋で寝泊まりするカプリナが、不思議そうな顔をしている。

 それというのも、部屋に戻ってきてからのアリエスの行動が不審すぎたからだ。


「いえ、ちょっと気になっていることがありましてね。私の問題ですので、カプリナ様は気になさらなくても大丈夫ですので、ご安心下さい」


「そうですか」


 カプリナは、なんともすっきりしない表情をしてはいる。だが、アリエスがそういうのならと、あまり気にしないようにすることにした。

 夜も遅くなったので、アリエスとカプリナは翌日に備えて休むことにする。


 ところが、真夜中のことだった。

 アリエスはむくりと体を起こす。


「スラリー」


「なに、ありえすさま」


 こっそりと呼べば、部屋の隅っこで待機していたスラリーがアリエスのところにやってくる。


「どうやらエリスという聖女ですが、前世の私、つまり魔王とこの国の神官だった女性との間に生まれた子どもだったようです」


「すごい、ありえすさま」


「しっ! ちょっと、声が大きいですよ。カプリナ様に聞かれたらどうするつもりですか」


 びっくりして飛び跳ねるスラリーを、アリエスは叱っている。

 他国とはいえども、聖女が魔族との混血だなんて知られるわけにはいかないからだ。

 だが、アリエスが気になるのは、キャサリーンと会っているにもかかわらず、魔族との混血であるエリスのことに気が付いていないということだ。

 スライムは擬態してしまえば魔物としての気配を消すことができる。だが、普通の魔族にそう言ったことができるかといったら、無理というものだ。

 魔族が魔族たる痕跡は、どのような方法をもってしても消すことは不可能だ。となると、エリスのかぶるフードにこそ秘密がありそうである。


「エリス様は、普段は髪の毛で角をしっかりと隠し、その上からフードをかぶっておられます。それによって魔族であるという痕跡を消し去っているようですね」


「まぞく、かくせる?」


「無理ですね。それこそ、私がしたように、よほど強い神聖力で覆いませんとね。魔族の魔力というのは簡単に隠せるものではありませんから」


「ありえすさま、すごい」


 アリエスが言っているのは、自分の聖女の任命式の時の話だ。

 あの時にはサハーとライラという二人の魔族が紛れ込んできた。にもかかわらず、あのキャサリーンすらも欺き通したのだ。これは、アリエスの強い神聖力あってのことなのである。

 もっとも、あの時は聖女の任命式ということもあって、あまりことを荒げたくなかったのかもしれない。だが、街の内外に紛れていた魔族やスライムたちを一瞬で消し去っていたことを考えれば、気が付かなかったか見過ごされたかということだろう。

 事実はどうあれ、サハーやライラは無事だった。


「とにかく、これはかなりの国家機密です。いいですか、スラリー。絶対にこのことは他の方には内緒ですからね」


「わかった。すらりー、やくそく、まもる」


 ぶよんぶよんと体を揺らすスラリーではあるものの、アリエスはいまいち不安があった。

 しかし、なんにでも擬態のできるスラリーは、いざという時には役に立つ存在だ。だからこそ、リスクも承知の上で、アリエスはスラリーには教えることにしたのである。


「それにしても、本当に不思議な話ですよ」


「なにが、なの?」


 ため息をついたアリエスは、窓の外へと視線を向けている。


「何がって、私はあの時、傷ついたアクア様、エリス様のお母様を手当てしていただけです。それこそ魔法を使ったり、看病をしていただけなのです」


 アリエスは真剣に考え込んでいる。


「本当に何もしておりませんのに、妊娠することなどあり得るのでしょうか。魔族というものも、分からないことが多いですね。第一、私の魔族時代の種族は一般的な魔族でしたからね」


「たしかに、ありえすさま、まりょくと、ちから、つよかった。とくしゅなちから、とくにない」


 スラリーは当時のことを思い出して、アリエスの話を肯定しているようだった。


「まったく、不思議な話ですよ。聖女キャサリーンに倒された私は聖女となり、私が手当てをした女性は、聖女の母親となったのですから。何の因縁でしょうかね、これは……」


「ありえすさま、やさしかった。だから?」


 スラリーの言い分に、アリエスは複雑そうな顔をして固まっている。


「まあ、そうですね。聖女に転生させられるくらいですものね。でも、できれば、魔王の時に人間たちと和解がしたかったですよ」


 アリエスはため息をついていた。

 そうかと思えば、思い切りあくびをしてしまう。


「むぅ、やっぱりまだ十一歳の体では、夜に起きているなんてことは難しいですね……」


 アリエスはスラリーを脇に置くと、布団の中へと入っていく。


「スラリー、絶対に今の話は誰にも話してはいけませんよ。カプリナ様もサハーもライラも、絶対にダメですからね」


「わかった。ぜったい、いわない」


「本当に頼みますからね。ふわぁ……」


 最後にしっかりと念を押したアリエスは、布団をしっかりかぶって眠りについたのだった。

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