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魔王聖女  作者: 未羊


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第93話 女難に見舞われる元魔王

 ゼラブ国の教会のお風呂は、意外にも立派なものだった。

 国自体は現状、かなりの苦境に立たされている。それだというのに、教会のお風呂がこれだけ立派だと、なにかと問題が起きそうな予感がする。


「ずいぶんと立派なお風呂ですね」


「ゼラブ国の建国の際に造られたお風呂ですからね。その時の国力は今よりも十分ありましたので、この当時が反映されているというわけなのです」


「なるほど、それで現状に似つかわしくない状態になっているのですね」


 立派なお風呂に目を奪われて気が付かなかったが、よく見るとお風呂には水が張ってなかった。


「エリス様?」


「なんでしょうか」


「お湯がないのですが?」


「はい、いつもこうですよ」


「え?」


 アリエスは目が点になる。エリスがいうには、お風呂にはいつもお湯どころか水すら張ってないのだという。

 ならば、どうしてお風呂というのだろうか。アリエスは理解に苦しんだ。


「いつも最初に入るボクが、水を張っているんです。聖女の魔法であれば、恩恵にあずかれるからということなのだそうですよ」


 エリスの答えに、アリエスは言葉を失っている。

 どうやら、どこの国でも聖女は何でも屋といった感じで見ているところがあるようだ。


(聖女を崇めるのはいいが、労いの一つくらいはしてもいいのではないかな。俺もこういう扱いになるのだろうかな……?)


 自分の今後に、なんともいえない不安感を抱くアリエスである。

 とはいえ、まずはお風呂だ。お湯がないと話にならないので、アリエスは魔法を使うことにする。


「ウォーター、ファイア」


 二つの魔法を同時に使い、湯船一杯にお湯を満たしていく。この程度の魔法の使い方は、魔王時代から実に手慣れたものだった。

 ところが、二つの魔法を同時に使うという光景は、エリスにとっては珍しかったようだ。


「すごい。魔法をふたつ同時にだなんて、どうやったらできるんですか?」


 エリスがものすごく目を輝かせている。


「そんなにすごいことでしょうか。キャサリーン様でしたらみっつやよっつも同時に扱えるはずですし、聖女ならできることではないのですか?」


「キャサリーン様を基準にされては困りますよ。あの方は最強聖女の名の通り、ボクたちと比べても特殊なんですから」


 アリエスが話すと、エリスから真面目なツッコミが飛んでくる。

 真面目なツッコミに、アリエスはつい笑ってしまう。


「さあ、お湯が張れました。ゆっくり浸かって、今日の疲れを癒しましょう」


「はい、そうですね」


 お風呂の準備もできたことで、アリエスはエリスと一緒にゆったりと体の疲れを癒したのだった。


 夕食の時を終えると、エリスはアリエスを誘って自分の部屋に来てもらっていた。


「昨日に続いて、申し訳ありません」


「いえ、熱心なのはいいことですよ。私もヴァコル様に教えていただいていた間は、自室でずっと勉強しておりましたから」


 アリエスはにっこりと微笑んでいる。


「それで、エリス様。私にお話とは何でしょうか?」


「昨日のことですね。私の角とアリエス様が近付かれた時に起きた共鳴についてです」


「ああ、あれですか。それがどうなさったのですか?」


 エリスが真剣な表情で尋ねてくる内容に、アリエスはちょっといい加減な反応を見せている。アリエスにとって、どうやら触れてほしくない内容のようだ。

 しかし、エリスは相当に気にしているらしく、アリエスに確認しようと必死のようだった。


「司祭様に確認を行ったのですが、魔力の共鳴というものは滅多に起きるものではないそうです。特に性質の違う者同士では絶対に起きないというお話でした」


 エリスに強くはっきりといわれ、アリエスは動揺を隠し切れない。

 こればかりはエリスの言っている通りなのだ。エリスの角は魔族の証であるので、魔族の魔力に共鳴を起こしたとなると、近付けた魔力は魔族由来のものということになる。

 つまり、アリエスには魔族の魔力が含まれているということになるわけである。

 ならば、エリスがこれだけ詰め寄ってくるというのも分かるというものだ。


「アリエス様も、実は魔族なのですか?」


「わ、私は人間ですよ。孤児ではありましたけれど、これは間違いのないことです」


 アリエスの容姿は完全に人間であり、魔力も聖女のものそのものである。どこにも魔族の要素などないはずだ。強いて言うならば、前世が魔王だったというくらいである。

 これまでのことを必死に訴えるものの、エリスからの疑いの目は避けられそうになかった。

 とはいえ、自分の前世が魔王だと言ったところで、誰が信じるのだろうか。アリエスはこの危機をどう乗り切ろうかと、冷や汗を流し続けている。


「え、エリス様。そんなことより、聖女としての実力を鍛えることにしましょう。雑念はこの際捨てましょう、ね?」


「むむむむ……、そうこられますか」


 苦し紛れのアリエスのひと言だが、今のエリスにとってはかなり効果的だったようだ。

 共鳴のことは気になるものの、ゼラブ国の安定はエリスにとって急務である。

 効果的なひと言だったらしく、ようやくアリエスはエリスから解放してもらえた。

 ほっとしたアリエスだったが、部屋に戻るとカプリナに再びふくれっ面で出迎えられる。


「もう、アリエス様ってば……」


「ごめんなさい、カプリナ様」


 エリスから解放されたと思ったら、カプリナをなだめるのに追われるアリエスなのであった。

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