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魔王聖女  作者: 未羊


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第92話 特訓指導を始める元魔王

「そんなわけでして、エリス様。覚悟はよろしいでしょうか」


「はい。よろしくお願いします、アリエス様」


 翌日、朝の祈祷を終えたエリスを連れて、アリエスは教会の敷地の広い場所にやって来ていた。

 手紙にあった魔力の修練を行うためである。

 ヴァコルとの修行によって、魔力制御を身に付けたばかりのアリエスではあるが、まさかこんな短期間で他人に訓練をつける日がやってくるとは思ってもみなかった。

 だが、昨日の一件以来、アリエスにとってエリスはどうも他人に思えないらしく、元々の世話焼きの性格も災いしてこのような事態となっているようだ。


(この感じ、魔王の時に部下に訓練とつけていた時のことを思い出すな。スラリーやサハーもその訓練を乗り越えてきたがゆえに、あれだけの実力の持ち主になったのだよな)


 つい昔のことを思い出して、アリエスは笑いをこぼしてしまう。

 アリエスの笑いの理由が分からないカプリナとエリスは、どういうことなのかと首を傾げてしまっていた。

 二人の様子に気が付いたアリエスは、びっくりした上で咳払いをして気を取り直している。


「おほん。それでは、サンカサス王国の王宮魔導士であるヴァコル様直伝の訓練方法で、エリス様の魔力を鍛えて参ります。カプリナ様、助手をよろしくお願い致します」


「アリエス様、お任せ下さい」


 アリエスが声をかけると、カプリナはやる気十分に返事をしていた。


 いざ特訓が始まると、アリエスはヴァコルにされた時と同じように、お昼の時間を除いてみっちりとエリスを鍛え上げていく。

 アリエス自身は魔王時代にたくさん勉強や訓練をしてきたこともあって、ヴァコルの厳しい講義にも十分耐えることができた。

 だが、エリスはそうはいかない。


「はあはあ……」


 始まってから二時間もしないうちにすでに息が上がっている。さすがはただの十三歳の少女である。


「ふむ。根本的に体力がないと見ていいのでしょうかね」


「ですね。私たちは乗馬もこなしますので、体力がないとやってられません。この程度で息をあげているということは、単純に体力不足ということでしょうね」


 カプリナからも厳しい評価を下されていた。

 そんなわけで、予定を変更して、お昼からは教会の周りを走り込むことにした。

 聖女というのは国中を巡ることが多い。体力がないと、とてもではないがやってられないのである。


 お昼休憩に入ると、教会の司祭から質問をされる。


「どうでしょうか。うちのエリスは」


「はい、筋はいいとは思うのですが、体力がなさすぎるかなと思います」


「ほう、そうですか」


 司祭はそう言いながら、エリスに顔を向ける。司祭と目が合った瞬間、エリスはふいっと顔を背けてしまう。どうやら恥ずかしいらしい。

 エリスの態度を見た司祭は、どうやら悟ってしまったらしい。


「エリスはこの国の希望です。大きな希望となれるよう、ビシバシと鍛えて下さいな」


「そ、そうですね。無理をさせ過ぎない程度に、やらせて頂きます。聖女とはいいましても、私もそうですが、まだまだ子どもですからね」


「はい、よろしくお願いします」


 話を終えた司祭は、アリエスたちから離れていった。

 ふうっとため息をついたアリエスがエリスを見ると、ぶすっと頬を膨らませた姿を見せていた。


「私より年下ですのに、子ども扱いしないで下さいよ」


 どうやら、さっきのアリエスの言葉に反発しているようだった。


「だから、言ったではないですか。私もですが、と。今のエリス様は、年下の私に負けているということをまずは自覚して下さいね」


「……はーい」


 少々不満そうな感じではあるものの、エリスはおとなしく返事をしていた。

 現段階では魔力制御も体力も、エリスはアリエスに大きく劣っている。そのことが分かっているので、エリスは渋々返事をしたのだ。


 そんなわけで、お昼からは教会の周りの走り込みを行う。これにはカプリナも参加しての走り込みである。

 今日のお昼までだけで分かっていたことではあるが、エリスは一周目からすでに息が上がっている。

 その結果を見て、アリエスもカプリナも、ここまでかとびっくりしてしまう。いくらなんでも体力がなさすぎである。これでは、魔力を強化しても、扱う体が耐えきれない。

 さすがに由々しき問題だと思い、当面は体力づくりを集中的に行うことになった。


「うう、自分が情けなさすぎます……」


 走り込みを終えたエリスは、その場に座り込んで落ち込んでいた。

 一方のアリエスとカプリナは、ものすごく余裕がありそうである。


「まだ始まったばかりです。数日も続けていれば、かなり違ってきますから、頑張りましょう」


「そ、そうですね……」


 エリスの凹みようはかなりの深刻なようだった。

 アリエスは仕方なく、湯あみを一緒にすることにした。同じ聖女であるし、頭の角だって気になるところ。ちょっとでも探りを入れるべく、アドバイスと称して同行することにしたのである。

 さすがに心身ともにボロボロになったのか、エリスはアリエスの申し出を断るような余裕はなかったようだ。

 こうして、アリエスとエリスは、一緒にお風呂へと向かうことになったのである。

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