第91話 エリスに何かを感じる元魔王
「な、なんですか、この強力な魔力は!」
あまりに突然なことに、アリエスは驚いてしまっている。
「うっ、頭が……」
キーンという音が響き渡り、アリエスとエリスの二人が頭を押さえてその場に座り込んでしまう。
あまりの高音の響きに、二人とも耐え切れない。
「す、少し距離を取らなければ……」
アリエスがどうにか少し距離を取ると、ようやく耳障りな音がやんだ。
アリエスもエリスも、息を乱してその場にしゃがみ込んだままになってしまっている。
「今の音は、一体……」
「うう、頭が、痛いです……」
アリエスはなんとか耐えているものの、エリスの顔色がとても悪い。さすがにこのままにはしておけないだろうと、アリエスはエリスの頭にフードをかぶせるとベッドへと運ぶ。
(フードはこの角の魔力を抑えるためにかぶっているのか。さっきまでと違って、ずいぶんと楽になったな。それにしても、今の魔力、まさかな……)
どうやら、アリエスは今の魔力に何か覚えがあるようである。
だが、どうにも今は思い出せそうにないので、ひとまずはエリスの看病をすることにした。
さっきまでは苦しそうだったエリスの状態も、フードをかぶってからというもの、かなり落ち着きを取り戻しつつある。
(無理に触ろうとしたのはよくなかったな。どれ、お詫びにちょっとだけ回復させてやることにしよう)
アリエスはエリスの体の上に手をかざし、癒しの魔法を使う。
魔王からの転生体とはいえど、アリエスは聖女としての能力はかなり強い。回復なんてものは、魔王の時代からお手の物である。
エリスに回復魔法を使うと、その状態はみるみるうちに落ち着きを取り戻していく。悪くなっていた顔色も、すっかりよくなっている。
「んん……、お父さん……」
「うん?」
どうも気を失っているのか、うわごとでそんなことを呟くエリス。これにはアリエスもびっくりしている。
「どういうことでしょうか。誰を指してお父さんなどと言っておられるのでしょうか。お父さんはいらっしゃらないと、先程申しておりましたのに」
アリエスは不思議そうな顔をしながら、ぽつりとこぼしている。
ひとまず、エリスが目を覚ますまで、アリエスはそのままエリスに付き添うことにしたのだった。
そうしている間に、エリスの部屋に人がやって来る。
「エリス様、お食事の用意が整いました」
「はい、すぐに参ります」
エリスがまだ目を覚まさないので、アリエスが代わりに返事をしておく。返事が聞こえたことで、確認にやってきた人物はそのまま部屋の前から去っていった。
「さて、いい加減に起こしませんとね」
アリエスはエリスの体を揺らし、無理やり起こしていた。
「う……ん……」
「エリス様、お食事の準備ができたそうですよ。起きて参りませんと、食事抜きになってしまいます」
「はっ! それはいけません」
ベッドから飛び起きて、エリスは服装を整えている。
「あ、アリエス様」
「はい、どうかなさいましたか?」
エリスがアリエスに呼び掛けるものだから、アリエスはにこりと微笑んで反応している。
「あ、いえ。やっぱりなんでもありません。食堂に参りましょう」
「え、ええ……」
何かを言いかけただけに、アリエスは気になって仕方がないようだった。
しかし、ここで話をしているわけにはいかない。さすがに食事抜きの方が問題なのだから。
聞きたい気持ちをぐっとこらえて、アリエスはエリスと一緒に食堂へと向かったのだった。
食事の後、アリエスは自分の客間へと向かう。その間中、カプリナからはずっと睨まれ続けていた。
「カプリナ様、申し訳ありませんでした。エリス様とつい話し込んでしまいまして、部屋を移動するタイミングを失ってしまったのです」
「ぶう、アリエス様ってば本当にひどいんですから」
アリエスは謝っているものの、カプリナは頬を膨らませて本当に怒っているようである。
ただ、その姿が可愛らしすぎて、ついつい微笑ましくなってしまうアリエスである。
(なんだろうかな。ほぼ一つ年が違うだけのはずなのに、まるで自分の子どものような感覚に陥ってしまうな。可愛がってやらんとな)
アリエスはついついそんなことを思ってしまう。
だが、その時同時に、エリスに対して抱えていた不思議な感情に気が付いてしまう。
(子ども……? あのエリスとかいう聖女の角から感じた魔力、魔王時代の俺の魔力となんとなく似ていたな。いや、俺は人間と交わった記憶はないし、そんなことがあり得るというのだろうかな……)
アリエスは、先程エリスに対して感じていたことを思い出して、腕を組んで悩み始めてしまう。
「アリエス様? どうなさったのですか」
「えっ。なんでもありませんよ、カプリナ様。ここまで長旅でしたから、早く部屋に移動して今日はもう休みましょう」
「は、はい。それはそうですね?」
カプリナに声をかけられて、アリエスは慌てたように反応している。あまりにも反応がおかしかったように映ったのか、カプリナには首を捻られてしまっていた。
(いかんいかん。余計なことは考えずにいよう。ひとまずは、このゼラブでやることに集中せねばな)
気になるのは仕方がないことだが、カプリナが隣にいる状況ではひとまず考えることをやめることにした。
こうして、ゼラブ国の首都に到着した初日は暮れていく。
明日からは、ゼラブ国での活動が始まる。それに備えて、この日のアリエスは早めに眠りにつくのであった。




