第90話 ゼラブの聖女と会う元魔王
アリエスたちは、教会の中に入っていく。
中に入ると、教会の司祭と聖女が出迎えてくれた。
「ようこそ、サンカサス王国の聖女アリエス様。このような場所の教会にお越しいただけるとは、光栄ですな」
「いえ、エリス様とキャサリーン様からのお誘いがございましたからね。さすがに応じなければ失礼というものです」
司祭の言葉に、アリエスは照れくさそうにしながら言葉を返している。
内面には魔王の状態を残しながらも、うわべではちゃんと聖女を演じているのである。
「さあ、エリス。あなたも挨拶しなさい」
「はい」
司祭に促される形で、エリスは一歩前に出てくる。
(ん? なんだこの聖女の魔力は……)
エリスがアリエスに近付いた瞬間、アリエスの中の魔王が反応を示している。
何か不思議な感じがするものの、アリエスはとりあえず聖女としてぐっとこらえている。
「ゼラブ国の聖女、エリスと申します。任命式以来でございます」
エリスは両手を前で軽く握って、大きく頭を下げて挨拶をしている。その姿を見て、しゃべってから頭を下げてほしいなあと思うアリエスである。
とはいえ、挨拶をされたからには返すべきだろう。
「サンカサス王国の聖女、アリエスと申します。このようにお話するのは、初めてですね」
「アリエス様の護衛を務める聖騎士のカプリナです。どうぞよろしくお願いします」
二人とも笑顔を見せて自己紹介をしている。
アリエスがしっかりとした挨拶をするものだから、エリスはびっくりして慌ててしまっている。
自分より確か年上だよなと思いながらも、笑って済ませるアリエスである。
「あの、司祭様」
「なんでしょうか、アリエス様」
挨拶を終えて、アリエスは司祭に何かをお願いしようとしている。
「エリス様とお話をしたので、二人きりにさせていただくことはできませんでしょうか」
「えっ、私もご一緒できないですか?!」
アリエスの話した内容に、カプリナはかなり動揺をしている。
ところが、アリエスはカプリナを見てこくりと頷いている。
「はい。エリス様と二人きりでお話をしたいので、カプリナ様は先にお部屋に移動して頂けると助かります」
「……分かりました」
どうしてもといわれたので、カプリナはしゅんとしつつも頷いている。
「何かあれば、この子が守ってくれますよ。信じて待っていて下さい」
「分かりました」
にっこりと微笑むアリエスに説得されて、カプリナは引き下がっていた。
そんなわけで、アリエスはエリスの案内でエリスの部屋へとやってきた。
中に入ると、そこにはきちんと整えられた部屋があった。
「エリス様はきれい好きなのですね。きちんと整理整頓されていて、それでいて汚れもない。素晴らしいですね」
「あ、ありがとうございます」
アリエスが褒めると、エリスは恥ずかしそうにお礼を言っている。
「それはそれとしてですね。エリス様、ちょっとよろしいでしょうか」
「なんでしょうか」
アリエスが動き始めたので、エリスが警戒を強めている。
「頭、ちょっと失礼しますね」
「えっ、ちょっと?!」
頭にいきなり手をかけようとするので、エリスは抵抗しようとしている。
ところが、十三歳と十一歳という差がありながらも、十一歳のアリエスに抵抗できずに、エリスは頭のフードを取り払われてしまう。
「やはり、この感じは魔族ですね」
「ぎくっ!」
驚いた擬音を思わず口にしてしまうくらい、アリエスの言葉にエリスは動揺を見せている。
気付かれただけで観念したのか、エリスは髪の毛をほどいて額にある角を見せた。
「なるほど、前髪に三つ編みをしていて面倒な髪型だと思っていましたが、この角を隠すためだったんですね」
「は、はい……」
魔族の象徴である角を見せながら、エリスは恥ずかしがって下を向いている。
「ふふっ、大丈夫ですよ。私のところには魔族の方もいらっしゃいますから、私はとても寛容なんです」
「そ、そうなんですね」
「でも、不思議なものですよね。魔族であるのに、聖女をしていられるなんて」
エリスの角を見ながら、アリエスは疑問を呈している。
「私の母が、この教会で神官をしていたんです。多分、そのせいだと思われます」
「ということは、父親が魔族ということですか?」
アリエスが聞き返していると、エリスは黙り込んでいる。エリス自身はあまり触れてほしくない事情があるのだろう。
しかし、知ってしまったからには、アリエスとしてはお節介心がくすぐられるというものだ。ついつい深入りをしてしまう。
「黙っていては分かりませんね。そもそも、その頭の角は魔族という証明です。母親が神官であったのなら、父親が魔族であることは明確でしょう。その父親はどこにいるのですか?」
「分かりません。私が生まれる前から父親はいなかったそうです。神官をしているお母さんには、そもそも男性が近付いてくることはありませんでしたからね」
「話が見えてきませんね。ちょっとすみません、この角をもっとしっかりと見せてもらいますね」
「えっ?」
アリエスがエリスの角に近付いて、手を触れようとした時だった。
「なっ、これは?!」
角から強力な魔力が流れてくる。
その魔力に、アリエスは思わず驚いてしまうのだった。




