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魔王聖女  作者: 未羊


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第9話 再会する元魔王

「きゃあっ!」


 カプリナの元へと急ぐアリエスの耳に悲鳴が聞こえてくる。


「カプリナ様!」


(くそっ、この体は動きは遅い。身体強化を使ってもこの程度なのか?)


 アリエスは小さな体躯を必死に走らせると、ようやくカプリナのいる場所へとたどり着く。

 そこで見た光景は、ゴブリンアーチャーが奇妙な物体によって倒された光景だった。


(半透明の体をして不定形の物体……。こいつはスライムか。だが、このスライムはどこかで……)


 奇妙な物体はゴブリンアーチャーを何度も踏みつけている。


「あぶなかった。たすかる? たすかる?」


「ひぃっ、なんですか、これ。喋りましたよ!」


 目の前で左右に体を揺らしながら言葉を発する様子を見て、アリエスは目の前のスライムが何者か思い出したようだ。


(思い出した。こやつは俺の部下だったスラリーだな。喋るスライムという時点で、もはやあいつしかおらん)


 アリエスの中の魔王が、目の前のスライムの正体を突き止めたようである。


 スラリーというのは、魔王だった頃の配下の一人で、四天王とまではいかないものの重要な地位についていたスライムである。

 最後の聖女たちの襲撃の際にも、それをいち早く伝えてきたのがスラリーであり、なんにでもなれるその性質はずいぶんと諜報活動では役に立ったものだった。


「怖がることはありませんよ。どうやらこのスライムは、私たちを助けてくれたようです」


「まおうさまをねらう、ふとどきもの。だから、たおした。すらりー、えらい?」


(おいこら、面倒な単語を出すな)


 スラリーの反応に、アリエスは表情を笑顔のまま引きつらせた。


「えと、魔王様ってなんですかね……」


 カプリナはおそるおそるアリエスに尋ねている。

 魔王なんて単語が出てきたら、聖騎士として反応せざるを得ないというものである。


「き、気のせいではありませんかね。魔物のいうことを真に受ける必要はありませんよ」


 アリエスは表情を引きつらせたまま、カプリナに言い聞かせるように声をかけている。この時のアリエスの表情が恐ろしかったのか、カプリナは黙ったままこくこくと何度も頷いていた。

 カプリナが黙ってくれたので、アリエスは両手でスラリーを抱え上げる。


「スラリー? 魔王とかいう単語を口にするんじゃありませんよ?」


 両手で押し潰すような形で、アリエスはスラリーに言い聞かせている。もちろん、カプリナには聞こえないくらいの声でだ。


「いたい、まおうさま」


 だが、スラリーはアリエスのことを魔王と呼び続けている。

 言葉が話せたり、情報のやり取りができたりと、スラリーはスライムにしてはとても頭がいい。だが、ところどころ抜けているところが問題なのだ。

 この状況の理解力というのが、スラリーの最大の欠点だったのである。

 ただ、言ったことに対してはちゃんと守るので、言い聞かせれば大丈夫というわけだ。

 そんなわけで、今はアリエスによるお説教タイムに突入していた。


「今の私は聖女見習いアリエスです。呼ぶならば聖女様、もしくはアリエス様と呼ぶようにして下さい」


 スラリーを挟み込む手にものすごく力が入っている。いくらスライムとはいえ、神聖魔力のこもった手でつかまれてはひとたまりもない。


「やめて、まお……ありえすさま。そのちから、からだ、とけてしまう」


 スラリーは、必死に手を離すように懇願してくる。そのくらいに、アリエスの手にはたっぷりと神聖魔力がにじみ出ていたのだ。


「おっと、それはいけませんね。恩人に対して、それはあまりにも失礼というものです」


 ようやくアリエスはスラリーから手を離して解放したのである。


「あ、アリエスさん、そのスライムは一体……?」


 カプリナは完全に自分が何を見ているのか分からないようだった。


「落ち着いて下さい、カプリナ様。とりあえず状況を説明願いますか?」


「は、はい」


 アリエスはスラリーが登場するまでの状況の説明を求める。

 カプリナによれば、アリエスの指摘した通り、ゴブリンは第二の矢を放てずに困っていたらしい。そこに近付いてきたカプリナに対して、その場に落ちていた石を拾って投げつけようとしたそうだ。

 ところが、その石は投げられることはなく、身構えた再び見た時には先程の状況になっていたのだという。


「なるほど、スラリーはカプリナ様を守って下さったのですね」


「ありえすさまの、においがする。なかま、まもる。すらりー、えらい?」


 体を左右に震わせながら、スラリーは自慢げに話をしている。


「ふふっ、えらいですよ、スラリー」


「このて、あたたかい……。なつかしい」


 神聖魔力を抑えた状態であるなら、スラリーの体も平然と撫でることができるようだ。


「聖女様、カプリナ様、どうかなさいましたか!」


 ようやく落ち着いたと思ったら、落ち着かない人たちがやって来た。

 そう、カプリナとアリエスを陰から支援しようとしていた騎士たちだった。

 当然ではあるものの、スラリーを見つけた騎士たちは剣を構える。


「聖女様、カプリナ様、早くそのスライムから離れて下さい!」


 必死に訴えてくるものの、アリエスとカプリナは笑いながら顔を見合わせていた。

 状況が分からない騎士たちが再度訴えるものの、アリエスはスラリーを抱きかかえてにこりと微笑む。


「大丈夫です。このスライムは私たちを守ってくれたのですから」


「へ? スライムが守る?」


 アリエスの証言に、騎士たちはわけが分からないという感じで間の抜けた表情をさらしていた。

 これは説明が必要そうだと、アリエスは苦笑いを浮かべたのだった。

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