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魔王聖女  作者: 未羊


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第88話 唐突に思い悩む元魔王

 キャサリーンがゼラブの国を発ってから十日ほどが経った日のことだった。


「アリエス様、お手紙が届いております」


「お手紙ですか。サハー、差出人は?」


 ヴァコルとの魔法の特訓を終えてのんびりと過ごすアリエスの手元に、どうやら手紙が届いたようなのだ。

 アリエスはサハーにすぐさま確認をさせている。


「一通は、テレグロス王国の聖女であるキャサリーン様ですな。いやはや、あれだけ近くにいながら、私もよく生き延びられたものですよ」


 手紙の差出人を確認したサハーが冷や汗を流している。

 聖女キャサリーンは最強聖女とも呼ばれ、特に魔族や魔物に対しては存在すらも許そうとしない人物である。

 年末にハデキヤ帝国を訪れた際には、やはり消されそうになったのだからサハーがこんな反応になるのも仕方のないことだった。


「もう一通は?」


「こちらは、ゼラブ国のエリス様ですね。聖女のお名前はひと通り確認しておりますから、すぐに分かりました。お二人の聖女からの手紙とは、さすがアリエス様ですな」


 手紙の差出人を確認して、今度は笑う余裕まで見せている。どれだけキャサリーンを恐れているのかがよく分かるというものだ。

 露骨な態度の違いに、アリエスはつい笑ってしまう。


「分かりました。それで、手紙の内容はなんと書かれているのでしょうか」


「いや、それはまだ確認しておりませぬ。アリエス様宛ですから、私が開けるわけには参りませんでしょうからな」


 意外とサハーは律儀だった。

 そこで、アリエスは仕方なく自分で手紙の内容を確認することにした。


「まあ、これは……」


「どうかなさいましたか?」


 アリエスの反応にびっくりするサハー。一体どうしたというのだろうか。


「困りましたね。同じような内容が書かれているのですよ」


「と、いいますと?」


 困った顔をしているアリエスを見て、サハーは手紙の内容を確認しようとしている。


「どうやら私は、ゼラブ国へと向かわなければならないようです」


「は、はあ……。どういうことなのでしょうか」


 いまいち状況がのみ込めないようである。どういうことなのか、サハーは詳しくアリエスに聞いてみることにしたようだ。


「ゼラブ国の聖女であるエリス様が、自分の能力に悩みがあるそうです」


「ほうほう」


「それで、最近魔法の制御について学んだ私に助言を求めてきたというわけです。いきなり頼られるとは思いもしませんでしたね。ふふっ」


 アリエスはおかしそうに笑っている。


「まあ、それは確かにそうですな。しかし、同じ聖女から頼られたとあっては、確かに放ってはおけないでしょうな。アリエス様は、昔から困った人を見ると助けずにはいられない方でしたからな」


「ええ、そうですよ。だからこそ、神様は私を聖女に転生させたのでしょうけれどね」


 どこか納得のいかない感じでため息をつくアリエスである。

 とはいえ、アリエスは性格上、エリスの頼みを断れそうになかった。

 アリエスはそれぞれの返事をすぐに認め始める。


「では、サハー。司祭様にお願いして下さいますでしょうか」


「はっ、すぐに届けて参ります」


 サハーは元気よく返事をすると、勢いよく部屋を出ていった。


 再び部屋で一人になったアリエスは、少し考えごとを始める。

 その理由は、カプリナである。

 カプリナはアリエスの護衛を務める聖騎士である。しかし、聖女と聖騎士が同時に国を離れていいのかどうか、それが悩みというものだ。

 確かに年明けまでは一緒に外国に出向くこともあった。

 ともに十一歳となった今年は、そろそろ力をつけてき始めた頃でもある。一緒に向かうべきかどうか、悩んでしまうのだ。


(一人で考えても仕方ないな。司祭や育ての親にも聞いてみるか)


 一人で考えていてもらちが明かないので、責任者たちに聞いてみることにしたのだった。


 夕食の席、アリエスは頃合いを見計らって司祭たちに声をかけてみる。


「司祭様、お爺ちゃん、ちょっとよろしいでしょうか」


「なんですかな、アリエス」


「なんでしょうか、アリエス」


 二人揃ってアリエスの顔を見てくる。


「はい、お手紙の内容の件について、確認をしたいことがあるのです」


「ほうほう。ゼラブ国へ招かれたことかな?」


「はい、その通りです」


 サハーに手紙を託したので、司祭もしっかりと状況を把握しているようだ。


「聖女様同士のお付き合いはとても重要なことです。止めはしませんよ」


 司祭はこういうが、アリエスの求めていた答えではなかった。


「カプリナ様はやはり同行でしょうか」


「そうですね。カプリナ様の役目を考えるのなら、同行が当然でしょう。今までと同じようにですね」


 やはり、カプリナは一緒に行くことになりそうである。


「カプリナ様のことは心配しなくてもよいですよ。本人に確認したら、絶対同行なさるでしょうからね」


「やっぱり、そうでしょうね」


 聖女と聖騎士は、切っても切り離せない関係のだった。これは昔からの決まりごとのようなものなのである。


「おそらく、置いていこうとしたら、カプリナが寂しがってしまいますよ。サンカサス王国のことは気になさらずに。今までも聖女様不在の状態でどうにかしてきたのですからね」


 アリエスは確かにそうだなと思った。

 司祭たちにここまで言われてしまえば、アリエスは腹を決める。


「分かりました。カプリナ様と一緒に、ゼラブ国に向かいますね」


 結局、アリエスはカプリナと一緒にゼラブ国へ向かうことになったのだった。

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