第85話 隣国へと向かう最強聖女
国境付近の盗賊被害の話を聞いたキャサリーンは、騎士隊を編成して現場へと向かっていく。
ゼラブ国の聖女のところに真っ先に飛んでいきたいところだが、聖女である以上は問題解決の方が優先だからである。
人間相手となると、魔族を相手にするよりも面倒らしく、キャサリーンの機嫌は実によろしくないようである。
「キャサリーン様、討伐隊、調いました」
「分かりました。それでは、ゼラブ国へ向けて出発します」
「はっ!」
キャサリーン自身も馬を駆り、ゼラブ国との国境付近へと向かっていく。
数日も移動すると、いよいよ国境が近くなってくる。
地形は山岳地帯となっているため、この地形が災いして盗賊被害が発生しているようなのだ。
「なんとも入り組んだ地形ですな」
「姿を隠すにはこの上ない感じだな」
「森もありますしね」
キャサリーンを取り囲む騎士たちが話をしている。
「いい加減に黙りなさい。前方、左右に四ずつ」
「はっ!」
キャサリーンの言葉に反応し、騎士たちが備える。
「魔法隊、撃ち方用意!」
「撃ち方用意!」
隊長の言葉を復唱し、魔法の準備を始める。
「撃て!」
「マジックアロー!」
合図でもって、一斉に魔力の矢を放つ。
制圧が目的であるため、そこまで威力の高くない魔法だ。普通ならば、これで盗賊ならば制圧できるはずである。
「ちっ、面倒なのがいますね」
キャサリーンは小さく舌打ちをすると、すぐさま魔法を展開する。
「ぐわっ!」
「うわっ!」
その直後、マジックアローに射抜かれた盗賊たちの悲鳴が聞こえてくる。
「後方、歩兵7!」
「はっ! 歩兵隊、迎撃せよ!」
「はっ!」
キャサリーンの指示を受け、隊長が各隊に号令を出す。
この的確な指示によって、キャサリーンたちに襲い掛かってきた盗賊たちは、なすすべなく制圧されてしまった。
「聖女様、こやつらはどうしますか?」
「連れていきます。ゼラブの聖女にお説教はせねばなりませんし、そこの彼らも重要な労働力です。生活が苦しくてやむなく盗賊をしているようですからね」
「承知致しました。それでは、縛り上げて同行させます」
「よろしくお願いします」
縛り上げられた盗賊たちは、ぐったりと項垂れた状態でキャサリーンの後ろをついていく。
やがて国境を無事に越える。
ここで盗賊たちは警備隊に預けられ、キャサリーンたちは再び身軽となって馬を走らせる。
目指すのゼラブの首都だ。
地形は一気に開けたものの、見る限りやせた土地が広がっている。
こんな状況では、人々の生活が苦しくなるのも無理はないというものだ。
キャサリーンの表情はますますいらつきを募らせている。
ゼラブ国の首都にある教会に、キャサリーンは突撃している。
「ちょっと、エリス!」
「ひゃ、ひゃいっ!」
突然入ってきたキャサリーンの声に、中にいた聖女がびっくりして飛び上がっている。
エリスと呼ばれたのは、キャサリーンの前にいる青い髪の少女だ。くるんとした目が特徴でどことなくおどおどとしている。
「まったく、あなたはちゃんと聖女としての仕事をしているのですか?」
「も、もちろんですよ」
キャサリーンに問い質されて、エリスは答えている。
「だったら、どうしてこのような荒れた土地が広がっているのですか。まったく、あなたも見たでしょう。今年、新たに聖女になったアリエスという少女のことを」
「は、はい! ボクは感動しました。あんなに小さな子だというに、ボクよりも神聖力に満ちあふれてるんですから」
エリスの話に、キャサリーンが頭を抱える。
「新しい子に負けて、悔しくないのですかね」
「い、いえ。もちろん悔しいですよ。でも、神聖力の差は生まれつきのようなものですから、どうにかできるとは思えません」
「まったく、そんなことを言っているから、このゼラブの土地はやせたままになるのですよ」
キャサリーンはエリスの手をつかむと、礼拝室へと連れていく。
「私が、聖女というものを見せてあげます。少しはあなたも努力をしなさい」
「え、えええっ!」
キャサリーンに言われて、エリスは大慌てである。
「なんですか。この国が滅んでもいいとでもいうのですか?」
「い、いえ、そういうわけでは……」
キャサリーンに詰められると、エリスは人差し指を突き合わせながら、キャサリーンから目を逸らしている。
「まったく、このゼラブの国が貧しくなると、私の負担が増えるんです。ただでさえ、テレグロス王国は広いんですからね。この程度の広さの国、あなただけでどうにかして下さい」
かなりお怒りモードである。いちいち口答えをされて、さすがのキャサリーンも我慢できなくなっているようだった。
ところが、ここまで怒っていたかと思うと、すっと精神を落ち着けてしまう。これが歴代最強と言われているキャサリーンの強さの秘訣でもある。
この精神の切り替えができるからこそ、常に冷静に物事へと対処できるというのだ。
(ああ、キャサリーン様はとても美しいです)
つい見とれてしまうエリスである。
しばらくして、祈りを捧げ終えたキャサリーンがエリスの方を見る。
「これを、自分でできるようになりなさい。もっと、聖女としての自覚を持つように」
「は、はい。……頑張ります」
エリスにお説教を終えたキャサリーンは、ゼラブ国の頭首に会うために、教会を後にしたのだった。




