第84話 テレグロス王国の最強聖女
その頃、テレグロス王国ではというと……。
「聖女キャサリーン。最近の魔物討伐はどうなっている?」
ひげの生えた細目の男が、キャサリーンに問いかけている。ずいぶんと偉そうな態度である。
「国内に攻め入ってきた者どもは、すべて討伐完了しております。この私がいるとも知らずに、よくやって来れるものだと思いますが」
「ふむ、さすがはキャサリーンといったところか」
キャサリーンが答えると、男はひげをピンとさせながら淡々した反応を見せている。
「国外はどうなっておるかな」
「聖女の所属する教会の取り決めである以上、他国の状況にはあまり立ち入れません。ですが、目についたものは徹底的に叩かせて頂いております」
「そうかそうか。それでこそ聖女というもの」
男は満足そうに笑っている。
かなり近いところまで男は近づくと、キャサリーンを舐め回すような視線を向けながら話し始める。
「これからも頼みますよ。あなたはこのテレグロス王国の誇りである最強の聖女なのですからね」
「承知しております。お話はそのくらいですか?」
気持ち悪い動きを見せる男をまったく気にすることもなく、キャサリーンは堂々としている。
怖がる様子も見せないキャサリーンに対し、男は小さく舌打ちをする。
「ええ、それだけですよ。下がってよろしいですよ」
「そうですか。では、失礼します」
キャサリーンは実に堂々とした態度のまま、部屋から立ち去っていった。
さすがは魔王を打ち倒した時の主力である聖女である。偉そうな人間でも太刀打ちができないくらいの、圧倒的な雰囲気を持っているのである。
「くそっ、なんだあの女は……」
細目の男は、いらいらとした様子を見せている。
「まったく、聖女についていった討伐隊どもは抱え込めたというのに、あの女だけはどうにもならん。まったく不愉快だ」
細目の男は悔しそうに床を強く踏みしめている。
「くそっ、聖女さえこの手にできれば、この国など手に入れたようなものだというのに、どうしてあやつはああも動じぬのだ」
いらいらとして、男はまったく落ち着かない様子である。
そこへ、扉がどんどんと叩かれる。
「なんだ!」
「大臣、陛下がお呼びです。至急、陛下の執務室においで下さい」
「ああ、分かった。今行く」
突然の国王からの呼び出しにも、男はいらいらとしているようだった。
かなり乱暴な声で呼びに来た兵士に答えている。
「くそっ!」
いらついた様子のまま、大臣と呼ばれた男は国王の呼び出しに応じて部屋を出ていった。
「陛下、グボンでございます。招集に応じて参りました」
「おお、グボンか。入るとよいぞ」
グボンと名乗った男に対し、国王が優しい声で中へと招き入れる。
グボンが扉を開けて中に入ると、そこには国王と……さっき別れたはずのキャサリーンの姿があった。このキャサリーンの姿に、グボンは思わず引いてしまう。
「どうしたのかね、グボンよ」
「いえ、なんでもありません」
国王に心配されて、グボンは適当にごまかしている。
「まあ、今回呼んだのは他でもない。国境の警備についてだな」
国王は静かに呼び出した理由を話し始めた。
キャサリーンが飛び回っているとはいえども、限界というものはある。聖女とて人間なのだ。どうしても漏れというものが出てきてしまう。
「あら、私が潰してきたというのに、まだ何かあるというのでしょうか」
キャサリーンも疑問を感じているようで、国王に思わず問い掛けてしまっている。
「ああ、魔族や魔物に関しては、確かにキャサリーンが潰してくれているのでそちらは心配がない。それよりも人、だな」
「人でございますか」
グボンが反応している。
「盗賊の被害が出始めているという話だ。小国であるゼラブとの国境だな」
「ああ、ゼラブですか。あそこは確か、聖女はいますけれど、国力自体が問題で内政状態がよろしくないと聞き及んでおります」
「その通りだ。国内情勢の不安定さが、よりにもよって我が国にまで影響を及ぼし始めているというわけなのだ」
「承知致しました。では、私は早速向かうこととしましょう」
国王の話を聞いて、キャサリーンはすぐに出発しようとしている。
「まあ、待ちなさい。一人の方が楽ではあるでしょうが、その後の処理を含めると騎士団を連れていった方がいい。私としては、あまり聖女に無理はしてもらいたくないのだ」
「ですが、陛下。事態はよくないのです。それこそ迅速に動ける聖女に任せておけばよいではないですか」
「グボン、お前は聖女を何だと心得ているのだ。便利屋ではない。一人の女性なのだ。かつて強大な魔王を倒した人物を、少しくらい労わったらどうなのだ」
「は、はい……」
国王にはっきりと言われてしまい、グボンは黙るしかなかった。
「そういうわけだ。同行させる騎士を選んで、すぐに出発してくれ。だが、くれぐれも無理はしすぎぬようにな」
「承知致しました、国王陛下」
国王からの指示を受け、キャサリーンは早速動き始める。
キャサリーンが出ていくと、国王はグボンを見る。
「さて、我々は聖女の助けになるように動かねばな。その間の指揮は、グボン、お前に任せるぞ」
「はっ、必ずや国王陛下の期待に応えてみせましょう」
国王に対しては、きちんと忠誠を示すグボンである。
隣国との問題が発生したテレグロス王国。無事にその問題を解決できるのであろうか。
聖女キャサリーンのお手並み拝見というところである。




