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魔王聖女  作者: 未羊


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第82話 魔法使いを魅了する元魔王

 一部の魔族が滞在していることもすんなりとクリアし、ヴァコルによる魔法講義もいよいよ終わりが近付いていた。

 最初に比べるとアリエスもかなり楽に魔法を扱えるようになってきているようだ。


「マジックシールド!」


 アリエスは魔法に対する障壁を展開する。

 魔法を叫んでから発動までのラグが、ずいぶんと短くなったように思われる。


「すごいですよ、アリエス様。一瞬で魔法障壁が展開できています」


「うむ。魔力もかなり安定しているし、これならかなり強力な攻撃まで防ぐことができるでしょうね」


 カプリナが目を輝かせて褒めてくる隣で、ヴァコルからもかなりの高評価をもらっているようである。

 だが、褒められたところでアリエスは調子に乗ることはなかった。

 自分はあくまでも聖女。聖女は自信過剰になってはいけないと、小さい頃から言い聞かせてきた成果である。


「ありがとうございます。以前に比べると、魔力の消耗が緩やかになったと思います。本当にこんなに変わるものなのですね」


「ああ、魔力を効率よく扱えるということは、それだけ魔法を発動する際の魔力のロスが減ります。それに加えて、魔力の消耗も抑えられますから、疲れにくくなるという利点もあるのですよ」


「なるほど、そういうわけですか」


 ヴァコルの説明を聞いて、納得しかしないアリエスである。

 話を終えると、ヴァコルは片付けを始めている。


「あら、ヴァコル様。一体どうなさったのですか」


 アリエスが気になって声をかけてしまう。


「これで僕の役目は終わりました。お二人は合格です」


 くるりと振り返ったヴァコルが、にこりと笑ってアリエスとカプリナに告げる。

 この話を聞いた二人は、わあっと表情を明るくする。


「ありがとうございます、ヴァコル様」


「はい、とても勉強になりました。本当にありがとうございます」


 アリエスとカプリナは、揃って深々とヴァコルに頭を下げている。


「べ、別に……。僕は命令に従って教えただけです。感謝されるほどではありませんよ」


 素直にお礼を言われたためか、ヴァコルはとても照れくさそうに視線を外しながら言い返してくる。

 さすがはまだ十代という若さゆえか、可愛らしい照れ具合である。


「まだ子どもと思ってちょっとなめていたことを謝罪しましょう。これだけ熱心に聞いて頂けたのは、本当に初めてでしたからね」


「そうなのですか。やはり、ヴァコル様がお若いからでしょうか?」


 ヴァコルの愚痴のようなものを聞かされて、アリエスはつい疑問を投げかけてしまう。

 質問が返ってきたことにちょっとびっくりしていたようだが、ヴァコルは落ち着いて答え始める。


「まあ、そうですね。お城にいる魔法使いたちは、お二方のような若い方から祖父母世代ほどの老齢の方もいらっしゃいます」


 語り始めたヴァコルの話に、二人は耳を傾けている。

 このヴァコルの話によれば、やはり十代で宮廷魔導士という要職に就いたことに、妬みを持つ者がいるらしい。

 ヴァコルの話を聞きながら、アリエスもつい頷いてしまう。

 アリエスの前世である魔王も、実力でのし上がった魔王だったからだ。

 最初はバカにされたものだが、実力を発揮しているうちにあれこれ言う魔族たちはだんだんと減っていった。そんな経験があるゆえに、アリエスはとてもヴァコルのことを他人のようには思えなかったようだ。


「最初のうちは、必ず妬む方が出てこられるものです。ですが、努力を続けて実力を示せば、きっとヴァコル様のことを、みなさんが認めて下さいますよ」


 アリエスは、ヴァコルに微笑みかけながら話をしている。


「そうでしょうかね……」


「はい、きっとそうなります。いえ、そうならなくてはいけないのです。私は認めているのですから、ね?」


 パチンとウィンクをするアリエス。その表情に、思わずヴァコルはどきりとしてしまっていた。


「そうですね……」


 アリエスから視線を逸らすと、ぼそりとヴァコルはつぶやいた。


「とりあえず、講義は終わりました。一度部屋に戻りましょう。カプリナ嬢は自宅へとお戻りください」


「分かりました。それでは参りましょうか、カプリナ様」


「はい、アリエス様」


 ヴァコルの言葉を受けて、アリエスはカプリナを連れて部屋を出ていく。

 一人残ったヴァコルは、真っ赤にした顔を手で隠しながら、しばらくその場を動けないでいた。


「まったく、なんという笑顔なのですか。これが聖女という存在ですか……」


 ぽつりと呟くと、ヴァコルは頭を左右に振り、荷物をまとめて立ち上がる。


「と、とにかくこれで王都に戻るのです。止まってしまった研究を再開させねばいけません。この程度のことで立ち止まっていられないのです」


 混乱する頭をどうにかしたいのか、ヴァコルは聞こえるような大声で今後の予定を喋っている。

 

(聖女アリエス……。なぜこんなに気になるのだろうか。ここまで僕の心を動かすとは、一体どのような魔法を使ったのですか、あなたは……)


 自分のよく分からない気持ちに、ヴァコルはこう思うことにしたようだ。


 魔王時代に魔族たちを引き付けていたアリエスの魅力は、どうやら堅物魔法使いにも通用するようなのであった。

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