第8話 魔物討伐に向かう元魔王
それから数日後のこと、アリエスは街の外にいた。
目の前にはカプリナがいる。
つまり、合同訓練ということである。
「えと……、アリエスさん、でしたわよね」
「はい、カプリナ様」
きょとんとした顔をするカプリナに、アリエスはにっこりとした微笑みを返す。
「今回の討伐、ご同行いたします。なんといっても私は聖女ですから、カプリナ様をサポートして差し上げられます」
胸に手を当てて、自信たっぷりに言い放つアリエス。
だが、宣言をされたカプリナは、戸惑ったような表情でアリエスを見ている。
「私は聖女、カプリナ様は聖騎士です。一緒に行動するものではございませんか?」
「うっ……」
アリエスがにっこりと問い掛けると、カプリナは黙り込んでしまった。何も反論ができないからである。
カプリナは父親である伯爵たちを見るが、伯爵たちはどうしようもないというような表情で視線を逸らしていく。どうやら同行を認めるしかなさそうである。
そんなわけで、カプリナはアリエスと一緒に魔物討伐の依頼へと向かうことになった。
今回の対象となるのは、初心者向けの弱い魔物ゴブリンだ。
(ゴブリンか……。奴らは確かに個々の能力は弱い。ただ、持っている武器によっては厄介になる相手だし、群れることだって考えられる。どう考えても八歳の子ども向けという相手ではないな……)
アリエスは依頼内容を確認しながら、考え込んでいる。
(俺がいることを考えても、せいぜい相手にできるのは二体同時までか。それ以上になったら、周りの大人どもに援護を頼むしかあるまい)
魔王は実に冷静だった。アリエスという少女になった今でも、それはまったく失われていない。
しばらく進んだところで、アリエスがカプリナを止める。
「カプリナ様、少し急きすぎです。騎士たるもの、常に冷静でなければなりません。実力を知りたいお気持ちは分かりますが、少しは落ち着かれてはいかがでしょうか」
アリエスがカプリナの肩をつかんだのだが、カプリナは無言のまま振りほどこうとする。
(くっ、力が強い……。聖騎士の加護のせいか?)
思わず吹き飛びそうになったところを、アリエスは必死に耐えてカプリナの前に回り込む。
次の瞬間だった。
スパン!
アリエスの平手が飛ぶ。
ここで止めておかなければ、さすがに危険だと思ったのだ。
「カプリナ様、もうゴブリンの巣の中です。落ち着いて下さい」
「えっ!?」
アリエスの言葉に、カプリナがようやく我に返る。どうやら、必死になりすぎて何も見えていなかったようだ。
「危ない!」
悪いことは立て続けに起こるもので、カプリナを正気に戻したかと思ったら、よりにもよって矢が飛んできたのだ。
アリエスはカプリナを勢いよく押し倒す。
「くっ!」
「アリエスさん?!」
飛んできた矢が、アリエスの肩をかすめる。
「このくらい大丈夫ですよ。ですけれど、ゴブリンアーチャーがいるようですね。飛んできた方向から大体の場所は分かりますが、よりによって、やばい場所のゴブリンを引いたかもしれません」
肩を押さえながら、アリエスはカプリナに話し掛けている。
「大変、大人の人を……」
援軍を呼ぼうとするカプリナを、アリエスが止める。
「ダメですよ。自分の実力を知りたくて来たというのに、すぐに投げ出してしまうようでは」
「でも、弓矢になんてどうやって対処を……」
「いえ、二発目は飛んできませんよ。あいつらはゴブリンです。物が使える程度の知能があっても、今頃は次の矢を探して焦っていることでしょう」
アリエスの言う通り、二発目の矢は飛んでこない。
しかし、周りにはアリエスたちの姿を認めたゴブリンたちがぞろぞろと姿を見せている。
「ひーふーみー……、弓矢を使ったゴブリンを入れて全部で八体ですか。相手に取って不足はないです」
「な、なにを言っているのですか?」
余裕たっぷりのアリエスの姿に、カプリナは戸惑いを隠せずにいる。
「こいつらは私は引きつけます。カプリナ様は矢を放ってきたゴブリンに集中して下さい。肩をケガしている私は、こいつらにとって格好の的でしょうからね」
「で、でも……」
「騎士たるもの、ですよ」
アリエスの言葉に、カプリナは表情を引き締めている。
「すぐに、戻りますから!」
カプリナは矢を放ってきたゴブリンに向けて走っていく。
素手だったり短剣を持っていたりするゴブリンが、カプリナに反応して追いかけようとする。が、足が動かない。
「だから、低級な魔族っていうのは、魔物と大差ないというんだよ。この俺の手でいけること、光栄に思うのだな」
「ギギッ!?」
どうやら、カプリナが走り出して意識が逸れたタイミングで、ゴブリンたちの足を拘束していたようなのだ。
「まったく、俺の理想の足を引っ張るのではないぞ」
アリエスは捕らえたゴブリンたちに魔法を放つ。
「ギギギシャーッ!」
よく分からない断末魔をあげながら、アリエスの魔法に打たれたゴブリンたちはその場に倒れ込んでしまう。
「ふん、口ほどにもない」
アリエスはゴブリンの討伐を終えると、すぐさまカプリナの様子を見に行く。
万一があってはいけないのだ。
「あの程度のやつにおくれを取らないと思うが、ここまでの様子を見ている限り心配だからな。無事でいてくれよ?」
アリエスはカプリナの後を追って、ゴブリンアーチャーのいた方向へと走っていくのだった。




