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魔王聖女  作者: 未羊


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第77話 現魔王にいら立つ元魔王

 その日の夜、食事を終えたアリエスのところにサハーがやってきた。


「アリエス様、ちょっとよろしいでしょうか」


「なんですか、サハー。私は今から復習をするんです。ようやく魔力制御のことが分かってきましたので、忘れないうちに振り返りたいのですが」


 ヴァコルと行う魔法制御の講義が楽しくて、アリエスはサハーの登場にちょっとご立腹のようである。

 しかし、サハーの方も引くわけにはいかない事情があるので、怒られることを覚悟でアリエスに近付いていく。


「アリエス様、実はライラから預かりごとをしております」


「なんですって?」


 サハーから告げられたことに、思わず大声を出してしまうアリエス。そのため、思わず口を押さえてしまう。


「ほ、本当ですか?」


「本当ですとも。このことでアリエス様に嘘を言ってどうなるのですか」


 アリエスはつい考え込んでしまう。


「分かりました。では、私の部屋で話をしましょう」


 アリエスはサハーを連れて自分の部屋へと連れていく。

 部屋に入ったところで、アリエスは念のために防護魔法をかけておく。


「壁を厚くしましたので、これで多少大きな声を出しても大丈夫でしょう」


「お気遣いありがとうございます」


 サハーはアリエスの前に跪いている。

 アリエスは自室の椅子に座ると、改めてサハーをじっと見つめる。


「それで、ライラからの預かりごととは何ですか?」


「はい、それがこのような書類を渡されまして、アリエス様にお渡しするように頼まれまして……」


 サハーが一枚の紙きれを引っ張り出してきた。

 フィシェギルという半魚人ではあるが、サハーほど鍛えたものであれば、水場から離れても平然と生活できる。そのため、体はしっかりと程よい湿り気で、書類はまったくふやけているようなことはなかった。

 サハーから書類を受け取り、アリエスはじっくりと目を通す。

 目を通しているうちに、どんどんとアリエスの顔の眉間にしわが寄り、さらには体を細かく震わせ始めていた。


「なんなんですか、この内容。このふざけた状況、本当なのですか?」


 アリエスがブチ切れていた。

 それもそのはず。書類に書かれていたのは、魔王軍の現在の状況だ。

 かつては自分が指揮を執って整えてきた魔王軍が、今やあの頃の見る影もないくらいにボロボロになっていると記されていたのだから、怒って当然というものだろう。

 それに加えて、今現在、魔王と名乗っている魔族の名前を聞いて、さらに苛立ちが募るというものだ。


「本当に、この者が今の魔王軍を率いているのですか?」


 アリエスはサハーに確認を取る。


「いえ、私は魔王様が亡くなられた後に配属が変わりましたので、今の魔王様の名前も姿も存じ上げません。しかし、アリエス様の様子を見る限り、あまりよろしくない方のようですね」


 サハーは平然と話してはいるものの、その身は恐怖で震えていた。

 それというのも、再会から今まで一度も怒ったところを見たことのないアリエスが、怒りに震えているのだから。

 魔族にとってダメージとなる神聖力という聖属性の魔力が、アリエスの体から漏れ出ているのだ。そのあまりの強力な魔力に、サハーは震え上がっているのである。


「アリエス様。そこにある名前の人物について、お聞かせいただいてもいいでしょうか」


 サハーはただ事ではないと思いつつも、アリエスから話を聞こうとしている。


「そうですね……。と言いたいところですが、あいつのことは私は思い出したくもありません。顔も見たくないです。そんなに聞きたければ、ライラに聞けばいいのですよ。魔族の諜報を務める彼女であれば、魔王との接触の機会は多いですからね」


 アリエスはかなり抑えているようだが、それでも怒りを全身ににじませている。

 サハーもこれ以上は危険と判断したようで、アリエスに渡した書類を自分の手元に返してもらった。アリエスに預けておくと、何かの拍子に目に入れて魔力を暴走させかねないからだ。

 アリエスはこくりと頷き、サハーに書類を返す。

 この判断は正しかったらしく、アリエスの暴走しかけた魔力が徐々に落ち着きを取り戻していた。


「おほん、失礼致しました」


 すっかり落ち着いたアリエスは、サハーに対して謝罪をしている。いくら部下であったとしても迷惑をかけたのなら謝る。それが今のアリエスなのである。


「いえ、知らなかったとは、こんなものをアリエス様に見せてしまった私も悪うございます。あまりお気になさらずに」


 サハーも謝罪をしている。


「それで、その文面を見る限り、ライラは私と会ってほしい感じですね。次に外出できるのは、三日後のカプリナ様との乗馬訓練の時ですね」


 腕を組んでアリエスはしばらく考え込む。


「そうですね。おじいちゃんに頼んで、カプリナ様との約束を一日前倒しできるように調整してもらいましょう。こういうのは早い方がいいでしょうから」


「可能なのでしょうかね」


「カプリナ様との約束はこれでどうにでもできるはずです。問題があるとするなら……、ヴァコル様の方でしょう」


 アリエスは、自分に魔法制御を教えに来ている宮廷魔導士をどうにかしなければならないと考えたようだ。

 ここまで見てきた結果、予定を崩されることをあまりよしとしているように見えなかったからだ。

 となれば、明日一日で二日分の予定を一気に消化させれば、予定を前倒しにできると踏んだようである。


「明日一日が正念場ですね。サハー、私は頑張りますよ」


 両手の拳をしっかりと握りしめ、アリエスは魔王軍の問題に一日でも早く取り組めるように決意を固めたのだった。

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