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魔王聖女  作者: 未羊


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第73話 過度の期待を抱く元魔王

 夜には歓迎の晩餐が出されたのだが、ヴァコルは終始むすっとした顔のままだった。

 黙々と食べていたかと思うと、皿を空にした瞬間、立ち上がってそのまま食堂を出ていってしまった。

 あまりにも突然の行動だったので、司祭もアリエスもびっくりして表情がなくなってしまう程だった。


「も、申し訳ございません。ヴァコル様は王宮内でもかなり気難しくて自由な方でしたので」


 あまりにもだったらしく、同行していた騎士が慌てて弁明に入るくらいだった。

 それを聞く限りは、どうも普段からあんな感じのようである。

 ならば仕方ないなと、アリエスはことさら気にすることなく、黙々と食事を平らげたのだった。


 翌日、早速ヴァコルによる魔法の講義が始まる。

 宮廷魔導士であるヴァコルの魔法の講義なので、かなり厳しいものを想定していたアリエスだが、そのしょっぱなから表情を凍り付かせている。


「なるほど……。よくもまあ、その合わない魔力で聖女などしていられるものですね」


 いきなり聖女に対する暴言から始まったのだ。

 しかし、十一年間聖女として教会で過ごしてきたアリエスからすれば、その程度の言葉、冷静に躱すことができるというものだ。


「どういう意味でしょうか。私が聖女にふさわしくないとでも仰られるのですか?」


 にこにことした笑顔で返しつつも、内心は冷や汗だらだらのアリエスである。

 魔力の本質を見抜かれたのだろうかと、緊張しているのだ。


「これでも僕は宮廷魔導士だ。魔力の質くらい簡単に見抜ける。君の魔力は、確かに神聖力で構成されているが、ちらちらと他の魔力が見え隠れしている。つまり、混ざりものの神聖力ということだ」


 ヴァコルはそのように指摘している。


「ふふっ、仰られる意味がよく分かりませんね」


 アリエスは冷や汗を浮かべながらも、ヴァコルの言い分に言い返している。自分が元魔王の転生者だということを、悟られるわけにはいかないのだから。

 アリエスの返しを聞いて、ヴァコルは大きなため息をついている。


「なんというのでしょうかね。僕でも知らない魔力があるというのは面白い。だが、近しいものというものはありますね」


 ヴァコルはそう言って、とある方向に指を向ける。

 その指差す先にいたのは、アリエスの護衛となったフィシェギルのサハーだった。


「まあ、どのように近いのでしょうかね」


 アリエスはちょっと怒ってみせる。

 だが、詳しい話はしない。ヴァコルはまだ、サハーが魔族だということを知らないはずだからだ。

 その一方で、この指摘には別の問題もはらまれている。

 魔族と同じ魔力を、サンカサス王国の聖女が持っているということになるからだ。

 つまりは、神聖力とは最も遠いはずの魔族の魔力が、神聖力と同居しているということになる。

 これが知れ渡れば、大問題になるのは目に見えた話なのだ。それゆえ、アリエスは知られまいと不機嫌な顔を見せているというわけなのだ。


「うむ、分かりませんね。あの者の魔力も、どういうわけかぼやけています。どういった魔力かは断定できないが、それでも特殊な魔力であることには違いないでしょう」


 ヴァコルははっきりと断言している。

 この話には、アリエスは冷や汗が止まらなくて困っている。

 どうにかして話題を変えねばと思うものの、これといった話題が思いつかない。アリエスはつい唸り出してしまった。


「まったく、どうしたというのですか。僕から魔法について教わるのがそんなに嫌なのですか?」


 ヴァコルは無表情になりながら、アリエスに問いかけている。

 険しい顔をしたり、唸り出したりと、どう見てみても講義を受けたいという態度には見えなかったからだ。


「あ、いえ。魔法について教わるのは問題ないです。むしろさっさと教えていただきたいと思います」


 唸ることをやめて、アリエスはすっぱりと言い切っていた。

 魔王時代は独学で魔法を扱っていたので、魔法に関する理論というものにはとても興味があるからだ。

 その魔法理論を魔王時代に持ち得ていたのなら、キャサリーンに負けることなく魔族たちを守りきれたのではないか。そうとまで考えてしまうくらいには、である。

 アリエスの真剣な表情を見たヴァコルは、つい顔をにやけさせてしまっていた。


「そうですか。僕の講義は厳しいですが、はたして耐えられるのでしょうかね」


「耐えなければならないと思います。なぜなら、私は聖女なのですから」


 アリエスは決意に満ちた表情で、ヴァコルの脅しに屈することなくはっきりと言い切っていた。

 目の前の聖女の決意に、ヴァコルは少し驚きながらも、満足そうに笑っている。


「分かりました。祈りと食事の時間はきちんと確保します。それ以外はみっちりと教え込みますから、覚悟していて下さいね」


 アリエスの表情が険しくなるくらい、なんともいえない邪悪な笑みがヴァコルの顔に浮かび上がる。


(この笑顔、人間でもできるのか……。なんというか、いいおもちゃを見つけたような表情だな)


 アリエスの中の魔王が呆れてしまうくらいのヴァコルの笑顔である。

 ちょっとした心配があるものの、これを乗り切れば、新たな可能性が見出せるのではないか。アリエスの中の期待は膨らむばかりである。

 宮廷魔導士であるヴァコルによる魔法の講義が、いよいよ始まるのだった。

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