第68話 魔力をどうにかしたい元魔王
アリエスたちは、ゾディアーク伯爵領に戻ってきた。
「ただいま戻りました、司祭様、おじいちゃん」
「おお、アリエス、戻ったか。お疲れ様」
アリエスが教会の中に入れば、司祭と牧師が同時に迎えてくれる。
昔は部下に慕われていた魔王だが、今は教会や街のみんなに愛される聖女なのである。
「王都には寄って来たのかい?」
「いえ。なんだかちょっと寄りづらくてですね。教会を通じて報告を行うことにしました」
「そうですか。ならば問題はないですね。聖女様は基本的に教会の所属ですからね」
牧師の質問に答えると、司祭はそんなことを言いながら笑っていた。
すぐに王都への報告の準備をしようとする司祭に対し、アリエスはちょっと要望を付け加えることにした。
「どうかしましたか、アリエス」
「あの、魔法に詳しい方を派遣して頂きたいのです。今回の大雪は、どうやら私の無意識の魔力暴走が原因のようなんです」
「おやおや、そうでしたか。それは確かに困りましたね」
司祭はあごに手を当てながら考え込んでいる。
「分かりました。私たちの神聖力と魔法使いの扱う魔法力とでは、その働きに違いがあります。ですが、根本的な扱い方は同じですので、腕のいい魔法使いに来て頂けるように申し入れておきましょう」
「お手数をおかけいたします」
「いやいや、アリエスのためでしたら、このくらいの労力は惜しみませんよ」
アリエスが申し訳なさそうに頭を下げると、司祭も牧師も揃って笑っていた。
アリエスは周りの人たちにも恵まれているようである。
「それでは、長旅でお疲れでしょうから、もう今日はお休みにしなさい。一日行わなかったくらいで、神様は罰を与えたりしませんからね」
「はい、ありがとうございます」
司祭に言われたアリエスは、おとなしく自分の部屋へと戻っていったのだった。
自室に戻ったアリエスは相当疲れていたのか、世話をする使用人たちに出ていってもらって、そのままベッドにうつぶせに倒れ込んでいた。
これだけの長旅は、デビュタントを行った時以来である。その時も緊張感はすごかったのだが、さすが前世の自分を殺した相手との数日間は、気の休まる時がなかったのだ。こうもなってしまうというものである。
「借りを返すどころか、さらに借りが増えてしまいました……。これが現役最強の聖女様ですか。元魔王とはいっても、今の私では足元にも及びません……」
キャサリーンの力を前に、完敗を悟るアリエスである。
やはり、もっとしっかり聖女として勉強してくるべきだったと、今さらながらに後悔をしてしまう。
「はあ、おじいちゃんたちに甘やかされすぎましたかね。もうちょっと厳しくしてもらえるように、今度やって来る魔法の先生にはお願いしてみましょうか」
ごろんと寝返りを打って、アリエスは真剣に考えている。
今回の魔力暴走では、自分のところだけではなく、移動中の国にも多大な迷惑をかけてしまっていた。このことは聖女としてはもちろんだが、元魔王としても猛反省である。自分の力が扱いきれていないというのは、元魔王という立場からして屈辱なのである。
そんなわけで、今回のハデキヤ帝国への訪問の反省から、アリエスは自分の力と本気で向き合うことにした。
王都の教会までは一瞬で連絡がつくだろう。教師となる魔法使いの選定から、ゾディアーク伯爵領までの道のりを考えれば、勉強が始まるのはおそらくは十日後だと見込まれる。
「そうなれば、彼女の力をしばらくことにしましょう。できればすぐにでも始めたいですからね」
体を起こしたアリエスは、こっそりと教会を抜け出して街の中へと出かけていく。
やって来たのは、とある宿の前だった。聖女服のせいでアリエスはものすごく目立っているため、道行く人たちからはじろじろと見られる始末である。
「いらっしゃいませ。って、聖女様ではないですか。どうなさったのですか?」
アリエスが宿の中に踏み入れると、おかみさんから声をかけられる。
「傭兵のララっていう方はいらっしゃいますか?」
「ララさんですか? 申し訳ないけど、今は依頼で出払ってしまっていますね。傭兵ギルドに行かれてみてはどうでしょうか」
「そうですか。それは失礼致しました」
答えてもらったので、お礼に頭を下げるとアリエスはそそくさと宿を立ち去っていった。あまりにも突然のことだったので、おかみさんはよく分からない様子でアリエスを見送っていた。
宿屋から出たアリエスだったが、結局傭兵ギルドでもライラと会うことはできなかった。よりにもよってちょっと難しい依頼をこなしているらしく、数日間不在にしているようなのだ。
「なんてことですか……」
あまりの間の悪さに、アリエスもびっくりである。
もうやけになったアリエスは、ゾディアーク伯爵邸に足を運んでいた。カプリナの魔法の先生ならいるだろうと踏んだのだ。
最終的にはこれが当たったようで、王都から正式に教師がやって来るまでの間、カプリナの魔法の先生にお世話にすることにしたのだった。
「これで、少しは魔力のコントロールがつくといいですね」
「頑張りましょう、アリエス様」
苦労はしたものの、カプリナの喜んでいる姿を見て、なんとなく疲れが吹き飛んだ気がするアリエスなのであった。




