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魔王聖女  作者: 未羊


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第67話 帰国の途に就く元魔王

 新年祭が終わった夜は、宮殿の中での宴が待っていた。

 皇帝たちがお酒をたしなむ中、アリエスたちはちびちびと果汁を味わっている。


「無事に終わりましてよかったですよ」


「誰かさんのおかげで大雪でしたからね。まったく、新しい聖女には早くどうにかして頂かないと困りますね」


「まったく、面目ございません」


 キャサリーンに叱られて、アリエスは激しく落ち込んでいた。危うくハデキヤ帝国の一大イベントを台無しにするところだったのだ。こうなるのも仕方はあるまい。

 だが、当事者であるハデキヤ帝国の聖女であるオーロラがあまり怒っていないのに、隣国のキャサリーンはかなり目くじらを立てているようだ。


「まあまあ、キャサリーン様。まだ幼いんですから、自分の力のコントロールのミスのひとつやふたつ、よくあることですよ。もう怒るのもそこまでにしてあげてはどうですか?」


「怒ってなどいませんよ。不甲斐ないと言っているのです。私なんて、このくらいの年の頃ですと、魔王を倒すために必死に修業を積んでいた頃ですからね」


「……テレグロスって変わった国ですよね」


 キャサリーンの言い分を聞いて、オーロラはついそんなことを口走ってしまう。


「変わっている。大いに結構。ですが、私にとってはその環境こそが普通なのです。今回も、隣国のよしみだから挨拶してきなさいというだけの付き合いですよ。明日にはもう帰ります、見送りは要りませんよ」


「いえ、聖女が帰るとなると見送りはきちんとしませんと」


 キャサリーンの言い分に、オーロラが苦言を呈している。

 聖女というのは国王や皇帝などと並んで国の顔なのである。その人物を見送らないということは、国家間の信用問題にもつながりかねない。だから、オーロラはキャサリーンを説得しているというわけなのだ。

 オーロラの必死の説得に、キャサリーンは大きなため息をついた。


「まあ、仕方ありませんね。友人であるあなたにそこまで言われれば、見送りは受けてあげましょう」


 キャサリーンの反応に、オーロラはほっとひと安心のようだ。

 だが、直後にもうひとつ問題をぶち込んできた。


「ただし、同時にそこのアリエスたちも帰ること。見送りのタイミングがずれれば、私は勝手に帰ります、いいですね?」


「え、ええ……?」


 なんということだろうか。キャサリーンのわがままで、アリエスたちの帰国タイミングまで勝手に決められてしまったのだ。

 だが、ここで断って二人の仲をこじらせるわけにはいかない。


「承知致しました。それで、そのタイミングはいつなのでしょうか」


 百歩譲ってキャサリーンに合わせることにしたアリエスは、ひとまず帰国のタイミングを確認することにした。


「朝食直後」


「は、はい。承知致しました」


 ひと言答えたキャサリーンに対し、アリエスは渋々了承するしかなかった。


(くそっ。魔王時代にこてんぱんにやられたせいか、キャサリーンが怖くてたまらん。文句を言おうにも、隙ひとつない立ち振る舞い。これが真の聖女というものか……)


 アリエスの内なる魔王も完敗である。


「うん? 今、不穏な魔力を感じたようですが?」


 キャサリーンがふと反応する。

 思わぬ反応に、アリエスはついギクッとしてしまう。


「どうしましたか、アリエス様」


「いえ、なんでもございませんよ」


 オーロラに声をかけられるも、アリエスはごまかしていた。

 今は宴の真っ只中なのだ。下手にごちゃごちゃするのはよろしくないので、さっさと話題を切り替えるべきだとアリエスは考えていた。


「そういえば、スラリーが思ったよりもすんなり受け入れられましたね」


「キャサリーン様が認められたというのが、なんといっても大きいでしょう。本質は見誤りませんからね」


「聖女の修行で鍛えられましたからね。普通の魔族であれば感じられるものが、そのスライムにはまったくありませんでしたから。ですので、見逃したまでです」


「ふふん」


 キャサリーンに褒められれば、スラリーは実に得意げである。

 元部下をいいように言われれば、アリエスもついご機嫌になってしまう。


「アリエス様?」


 カプリナに顔を覗き込まれてしまう。


「仲間が褒められて嬉しいだけですよ。わ、私の見立てに間違いはありません」


 焦ったかのように胸を張るアリエスである。

 こうして、和やかなうちに、新年の宴は終わりを告げたのである。


 翌朝。


「それでは、私たちはそれぞれの国に帰ります。ご招待いただき、誠にありがとうございました」


「いえ、こちらこそ応じて頂きありがとうございました」


「本当に朝食後直後に帰れるとは思いませんでしたね」


 宮殿の入口には、サンカサス王国とテレグロス王国の馬車が待機している。

 それぞれの国の聖女を乗せて、帰国するためである。

 キャサリーンが出した条件の通り、朝食後に無事に帰れる算段がついた。そのために、三人分の荷物となるアリエスたちは必死に準備をしたのだという。


「まったく、私たちは飯抜きですよ。途中でたらふくおいしいもの食わしてもらいますからね」


「ありがとうございます、サハー、みなさん。埋め合わせはしますので、まずは城を発ちましょう」


「約束ですからね」


 どうやら、朝食を抜いてまで荷物を馬車に積み込んでいたらしい。この話にはオーロラは苦笑いをし、キャサリーンは呆れた様子でアリエスたちを見守っていた。


「それでは、また機会がありましたらお会いしましょう」


「そうですね」


「それもいいですけれど、きちんと魔力の制御を身につけて下さいね」


「はい」


 それぞれに言葉を交わすと、アリエスたちの乗った馬車と、キャサリーンが乗った馬車が宮殿を後にする。

 長いハデキヤ帝国の滞在となったが、アリエスにとってはかなり印象深い訪問となったようだった。

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