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魔王聖女  作者: 未羊


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第66話 聖女がよく分からない元魔王

 皇帝の前に、透き通るような青色のスライムが現れる。


「すらりー、けんざん」


「スラリー、どこでそんな難しい単語を覚えたんですか」


「ごめんなさい、アリエス様。騎士たちの会話を聞いていて覚えたようなんです。ほら、私ってば家の騎士に紛れて鍛錬していますから」


「な、なるほどね」


 スラリーの言葉に指摘を入れると、弁解はカプリナから行われた。

 そういえばそうだったのだ。普段からカプリナのマントに化けているスラリーは、どこに行くにしてもカプリナと一緒なのである。だからこそ、そこで見聞きしたことをどんどんと吸収していってしまうのだ。


「なに?! なぜスライムがここに」


 皇帝が驚き、周りの騎士たちが槍を向ける。

 しかし、オーロラもキャサリーンも動かない様子を見て、皇帝は武器を下ろさせていた。


「聖女が誰も動かないのだ。このスライムはいいスライムなのだろう」


「すらりー、せいじょさま、みかた。せいじょさまのいうこと、まもる。えらい? えらい?」


 ぶよんぶよんと体を揺らしながら、スラリーは喋っている。


「スライムが喋れるというのも驚きだな。人に擬態して襲って食うと言われているが、このような個体がいるとはな」


 皇帝が驚く中、アリエスがスラリーを抱え上げる。


「はい。この子はどういうわけか私に懐いていますので、普通の人間に危害を加えることはありません。どうぞご安心下さい」


「分かった」


 皇帝はアリエスの説明で納得してくれたようだった。

 このままスラリーに喋らせていると、自分が元魔王だということが知れ渡ったかもしれないので、アリエスはほっとした顔をしている。


「私たちも驚きましたけれどね」


「しかも、このスラリーとかいうスライムは魔物ではなく魔族と出ています。それだけ能力も知能も高いというわけですね」


「えっへん!」


 キャサリーンの説明を受けて、スラリーはスライムの体で威張っている。


「すらりー、すらいむのこと、おしえる。すらいむ、やっかい。みんな、きをつける」


 カプリナに連れられて、スラリーは大広間のど真ん中にやって来る。

 ぶよんぶよんと体を揺らしながら、スライムの能力を見せつけることにした。


「いろいろ、へんしん、する。みてて」


 スラリーはそういうと、犬や猫や鳥といった様々なものに変身をしていく。化けられないものはないんじゃないかというくらいに、たくさんのものに化けていっている。

 進んでいくと、人間たちの中から適当に選んだ人物にも変身していく。

 最終的にはカプリナやアリエスにも化けていたので、最後の方ともなると、見物人たちは恐怖すら感じるようになっていた。


「スライムは何にでも化けれるんだな。これは気をつけねばならんとな」


 皇帝はスラリーの変身を見て、真剣な表情で唸っている。


「スライムかどうかの見分け方は、あるんですか?」


 聴衆の一人が、スラリー向かって問い掛ける。

 質問を受けたスラリーは、こくりと頷いて答え始める。


「すらりーと、すらりーいがい、みわける、かんたん。しゃべれる、しゃべれない、これだけ。しつもん、すればいい。すらいむ、しゃべること、むり」


「な、なるほど~……」


 スラリーの説明を聞いて、帝国の民たちはただただ感心するだけだった。

 こういった受け答えができるのも、スラリーならではといったところだ。

 その一方で、スラリーはカプリナの姿で喋っているのだが、スラリーが化けた方のカプリナは喋り方がスラリーのままだった。

 つまり、スライムは喋れば簡単にばれてしまうというわけだ。動物になっても鳴き声が出せなければ、バレてしまう。

 スライムは厄介なようでバレる機会というものが意外にも多いようなのだ。

 最終的に、スラリーはカプリナのマントへと姿を変え、大広間からアリエスの横へと戻ってきたのだった。


「ふむ、大変勉強になった」


「スライムは厄介だと思いますよ。場合によっては私たち聖女ですら、見破れないことがあります。近くに寄れば、感じ取れるようになりますが、実際私の生誕祭の際に侵入していたスライムは、スラリーしか気づくことができませんでしたからね」


「えっへん」


 スラリーは聖女に勝てたということで、とても満足そうである。

 この態度には、アリエスたちはただ笑うだけだった。


 ちょっとした飛び入り参加があったものの、新年祭は無事に最後となる帝室親衛隊の団体演武で締めを迎える。

 十人の鍛え上げられた騎士たちによる演武は、それは見所ばかりだった。


「皆の者、見事なものであった。だが、これに飽き足らず、これからも更なる高みを目指し技術を鍛え、また、次に伝えていけるように頑張ってくれ」


 皇帝の言葉をもって、新年祭は無事に閉幕したのだった。


 その一方で、聖女という存在の力というものを改めて認識させられた。

 魔族が乱入しようとも、聖女が認めているとなると、皇帝ですら聖女の判断に従うのだ。

 その様子を見ていたアリエスは、ますます聖女というものの立ち位置というものに困惑をしてしまう。

 はたして聖女とは一体何なのか。その疑問が大きくなるばかりのハデキヤ帝国への訪問なのだった。

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