第64話 新年の挨拶をする元魔王
年が明けて、新年を迎える。
あれだけあった雪が、新年の朝にはすっかりとなくなっていた。
「すごいですね。あんなに積もっていた雪がひとつも残っていません」
「これが最強と呼ばれる聖女のお力なのですね」
窓の外を見ながら、アリエスとカプリナが驚いている。
昨日の夜までは驚くくらい真っ白だった宮殿や帝都の中が、すっかりと本来の風景を取り戻していたのだ。
アリエスだって、魔力だけなら単純にキャサリーンには負けていない。しかし、属性が水や氷に偏っているために、同じような芸当はとてもできない。ただただ感心するのみだった。
(俺もこのくらいのことができるのだろうかな。こんなものを見せられては、俺が負けたというのも納得がいってしまう。苦手な属性というものがないのか、あのキャサリーンとかいう聖女は……)
アリエスは自分の不甲斐なさに大きなため息をついていた。
あまりにも大きなため息だったので、隣に立つカプリナが心配そうに見つめている。
「アリエス様。私では力不足ですか?」
カプリナからの思わぬ言葉に、アリエスは驚き、首を横に振る。
「いえ、これは私の問題です。今回の魔力暴走ではっきりと認識しました。聖女でありながら、みなさまを傷つけてしまうのは、私はとても許せません」
いつになくアリエスは険しい表情を見せている。
「カプリナ様。領地に戻りましたら、すぐにでも魔法使いを紹介して頂きましょう。まずは魔力のコントロールを完璧にしませんと」
「そ、そうですね。私もご一緒させて頂きます」
なぜかアリエスの決意にカプリナまでもが乗っかってきた。カプリナもまだ十歳の少女なのだ。当然未熟だというものだ。
しかし、カプリナにはアリエスを守護する聖騎士という立場がある。ならば、聖女同様に自分の力を使いこなせる必要があるというわけなのだ。
決意をするカプリナの可愛らしさに、アリエスは思わず微笑んでしまう。
「ええ、頑張りましょうね、カプリナ様」
「はい」
微笑み合う二人ではあったものの、その二人を見つめる目があった。
「えーっと、そろそろ声をかけてもいいでしょうか」
「わわっ、オーロラ様!?」
突然聞こえてきた声に、アリエスもカプリナもびっくりしている。動じていないのはベッドの上で枕の振りをしているスラリーくらいである。
「朝食の支度がそろそろできるそうです。着替えを用意している使用人の方々が困ってらっしゃいますので、そろそろ着替えて下さい。私は先にキャサリーン様と一緒に食堂へ行かせて頂きます」
「は、はい。これは失礼致しました」
オーロラに謝罪をすると、アリエスとカプリナは早速服を着替えるのだった。
食堂へとやって来ると、皇帝と皇妃、それとキャサリーンにオーロラと、主だった面々は既に集まっていた。アリエスとカプリナが最後である。
「大変お待たせ致しました。新しい年を無事に迎えられたこと、神に感謝致します。皇帝陛下、皇妃殿下、ハデキヤ帝国に神の祝福のあらんことを」
アリエスは両手を胸の前で合わせて祈りの言葉を述べていた。
毎年これを教会でしていたので、さすがにすっかりしみついてしまっているようである。
「うむ。この程度の遅れは許す。さあ、腰掛けるとよい」
「はい、ありがとう存じます」
アリエスとカプリナは、キャサリーンとオーロラと向かい合うように座る。
「新年祭だが、お昼からだ。朝の時間は貴族どもは忙しいのでな」
「まあ、どのような理由なのでしょうか」
「それはお昼になってからのお楽しみだ。初めてで気になるのは仕方ないが、あまり詮索をするものではないぞ」
「はっ、はい。失礼致しました」
にやりと笑う皇帝の姿に、思わずびっくりしてしまうアリエスだった。
なんといっても、この数日間険しい顔をした皇帝しか見ていなかったからだ。まさか笑うだなんて思ってもみなかったのである。
それにしても、ここまで秘密にするとは一体どのようなお祭りなのか。アリエスは気になって仕方がないというものだ。しかし、皇帝から秘密だと言われてしまったからには、これ以上聞くのは野暮というもの。アリエスはおとなしく配膳された朝食を黙々と食べているのだった。
「それにしても、ずっと見ていて思ったが、サンカサスの聖女はおとなしそうだな」
「そ、そうでございましょうか」
おとなしいと言われて、ちょっと驚いてしまう。
「アリエス様の普段とはどのようなものなのでしょうかね。ぜひとも教えていただきたいものですね」
今までほとんど無言だった皇妃が声をかけてきた。皇帝が話題に出したことで、ようやく尋ねられるとほっとした表情を見せているようだ。
思わぬ皇妃の表情に、アリエスもついつい頬が緩んでしまう。
これをきっかけに、アリエスは普段の自分をちょっとだけ話したようである。
「まあ、馬に乗るのですか」
「はい。カプリナ様が聖騎士ということで馬に乗られます。ですので、せっかくですから私もと思いまして、ゾディアーク伯爵家で乗馬を習っております」
「ほほう。ならば、次の誕生日にでも馬を贈ろうか。サンカサスの馬よりも頑丈だぞ」
「お言葉はありがたく受け取らせて頂きます。ですが、私はサンカサス王国の聖女ですから、他国からの貢ぎ物はご遠慮させて頂きます」
「ふむ。ならば仕方あるまい。だが、乗りたくなったらいつでも言って構わぬぞ。オーロラもこう見えて馬には乗るんでな。一緒ならさぞかし喜ぶだろう」
「ちょっと、陛下。そ、それを話さないで下さい」
皇帝にばらされて、オーロラが恥ずかしそうにしている。
これにはキャサリーン以外の全員が笑っている。
楽しい朝食が終われば、いよいよ新年祭の本番だ。
果たしてどんなお祭りなのか、アリエスは楽しみで仕方ないようである。




