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魔王聖女  作者: 未羊


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第6話 成長する元魔王

 それから三年の月日が流れる。


「浄化!」


 教会の裏庭では、アリエスが神聖魔法の練習に打ち込んでいた。


(ふむ、さすが聖女というだけあって、俺が苦手にしていた魔法の類も難なく放てるな。ただ、少々強力すぎるのが難点か……)


 三年間の修行を経て、アリエスの浄化魔法はかなり強力なものとなっていた。

 各地で発見される、魔王軍によって汚れてしまった道具の数々。それらを使ってアリエスは魔法の練習を行っているのである。

 呪われた物品の浄化ができるし、聖女の能力向上にもなる。実に一石二鳥といったところなのだ。


「ほっほっほっ、アリエスの魔法は素晴らしいものですな。わしらでは苦戦するような呪われた物品すらも、あっという間にきれいにしてしまう。まことに聖女というものですな」


「ありがとうございます、お爺ちゃん」


 八歳となったアリエスの口調は、すっかりと丁寧なものになっていた。

 なにせ時々、領主である伯爵とその娘であるカプリナと会わなければならないからだ。

 地元の領主とはいえども、貴族は貴族。きちんとした対応をしなければならないので、アリエスはこれまで特訓の合間にマナーまで叩き込まれたのである。

 最初こそ内なる魔王が反発していたのだが、合同訓練の際に一緒に過ごしたカプリナの所作や言葉遣いの美しさに、すっかり見とれてしまったのだ。

 女性としての憧れと男性としての感情が合致した結果、アリエスはカプリナにも劣らないほどのマナーと教養を身に付けたのである。


「本当に八歳の子どもとは思えないくらいに、しっかりとした教養と能力を身に付けている。神様から祝福された子どもというのも、とても頷ける話ですぞ。ほっほっほっほっ」


 親代わりの牧師が笑っている。

 ところが、アリエス自信は喜んではいなかった。


(ふん。魔王である俺が神から祝福されたなど、片腹痛くてたまらん。俺の魔法の属性を魔王の時とは正反対の属性に転換しおって……。今の生活に不満があるわけではないが、会ったら一撃殴らせてもらいたいものだ)


 アリエスの内なる魔王は、相変わらずのようである。

 とはいえ、自分を苦しめた聖女の力を魔王だった自分が使っているという状況は、魔王にとってはなんとも新鮮な光景である。

 なので、文句がある一方で、楽しくもある。魔王としての心情は複雑極まりなかった。


 一方のカプリナの方はというと……。


「はあっ!」


 伯爵邸の庭で、藁人形を相手に剣を振り回していた。

 聖騎士という神託をもらったのはいいが、細めの軽い剣を手に、動かぬ相手にただ剣を振るうばかりの毎日である。


(私、強くなっているのかしら……)


 剣を振るいながら、カプリナは自分の実力に疑問を感じていた。

 伯爵が抱える騎士たちとは一緒に鍛錬をしたことがないのだ。

 ほぼ毎日のように一人で剣を振るい、走り込むなどの体力づくりをしている状況なのである。

 時折父親である伯爵が様子を見に来るものの、やはり自分がどれくらいの実力になったのかということが明確にできず、疑問を抱え続けているのである。

 父親もその娘の心情はどことなく察していた。


「騎士団長」


「はっ、何用でございますでしょうか、伯爵様」


 伯爵は騎士団長を呼び出し、娘のことで相談を持ち掛ける。


「今のカプリナは、自分の実力が分からずに伸び悩みを見せている。そこで、どうにか実力を分からせるいい策はないかと思うのだ」


「はっ、お嬢様のことでございますか」


 カプリナのこととなると、騎士団長はちょっと表情を曇らせてしまった。

 騎士団長は、カプリナにもたらされた神託のことは打ち明けてもらっている。

 カプリナが黙々とこなす日々の鍛錬の内容も、彼が考えたものだ。

 まだ幼い女性ということで、自分たちのメニューと比べても半分弱くらいの軽い内容となっている。

 普通の騎士を目指す少女ならば、それでもよかっただろう。

 だが、カプリナが目指すところは、聖女とともに戦う聖騎士だ。

 聖騎士自体はまだ数はいるものの、カプリナの場合は同じ女性である。それゆえ、男性の聖騎士に比べればまだ聖女と近いところで戦うことになる。

 そういった状況ゆえに、カプリナは焦りのようなものがあるというわけなのだ。


「私はしてはお嬢様に無理はして頂きたくはないのです。ですが、騎士を目指す者として、自分の実力を知りたがる気持ちはよく分かります」


「どうにかできぬか?」


「それでしたら、傭兵たちと同じように、討伐依頼を受けてみるのが一番かと存じます」


「ふむ、傭兵ギルドに出てくる討伐依頼か……。考えておこう」


 伯爵は考え込んだ。


「もし依頼を受けることになりましたら、我らにもお声掛け下さい。当方にも女性騎士はいらっしゃるのはご存じでしょう?」


「分かった。そうさせてもらうよ」


「はっ! お嬢様に神の加護のあらんことを」


 騎士団長は伯爵の前から去り、騎士たちの訓練へと戻っていった。


(くそっ、なにゆえ神は、我が娘を聖騎士に指名した。当時は珍しい称号だと誇らしげに思ったものだが、今の娘の姿を見ていると胸が苦しくなる……)


 葛藤する伯爵ではあるが、今さらながらにやめろとも言えずにいた。

 思い悩む中、伯爵はやむなく騎士団長の提案を実行することに決めたのだった。

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