第59話 帝都に到着する元魔王
結局、ハデキヤ帝国の帝都についても雪はやまなかった。アリエスの行くところ、全部が雪まみれのようで頭が痛くて仕方ないようだ。
「なぜ雪が降り続いているのでしょうね」
「こんな雪、初めて見ましたよ」
頭を抱えるアリエスに対して、呆然と帝都の様子を眺める騎士たち。
帝都の民は初めて見る雪に大はしゃぎのようだ。
「とりあえず、ハデキヤ帝国の聖女様に相談をしてみましょう」
「その方がよさそうですね」
「私は死にたくないんで外で待ってますよ」
カプリナとスラリーが同意する中、サハーだけが逃げようとしている。
ところが、アリエスはサハーを逃がさなかった。
「あら、いけませんよ。私と一緒の方が、かえって安全だと思います。逃げてはいけませんよ、サハー?」
「うっ……」
アリエスのにっこりとした笑顔からは逃げられないようである。
そう、サハーは知らなかったのだ。聖女となった魔王からは逃げられないと。
サハーはがっしりと腕をつかまれてしまい、観念したように首を垂れていた。というわけで、アリエス、カプリナ、スラリー、サハーの四人は、そろって帝国の宮殿へと足を踏み入れたのである。
降り続く雪に真っ白に染め上げられたハデキヤの宮殿は、いつもと違った美しさを見せている。
だが、宮殿で働く人たちは、いつもと違う年末にものすごく戸惑いを感じているようだった。
ばたばたと兵士や使用人たちが行き交う中、騎士たちの案内でアリエスはまずはハデキヤの皇帝と顔を合わせることになった。なので、今向かっているのは謁見の間である。
さすがは帝国の宮殿というだけあって、ものすごくきらびやかな装飾が施されている。
「皇帝陛下、我ら親衛隊、サンカサスの聖女様を連れて戻りました」
「うむ、ご苦労。入れ」
「はっ!」
中からは力強い男性の言葉が聞こえてきた。
(今の声がハデキヤ帝国の皇帝の声か。二十代だろうかな。声がずいぶんと若い気がする)
思わず声で人物像を探ってしまうアリエスである。これは魔王時代からのちょっとした癖ともいえるもの。
なにせ魔王といえば魔族の最高権力者だ。魔族は野心の強い者が多く、周りは実質敵だらけといえる。
そのため、声や魔力などから、敵か味方か、部下のつけられるかなどの様々な情報を判断していたのだ。
過去の経験から、無意識のうちに相手を分析してしまうのが、いつの間にかアリエスの癖として定着しているというわけである。
扉が開いて、謁見の間へと入っていく。
両側にはそれほど多くはないが兵士が立ち、正面には皇帝と皇后、それとオーロラという聖女も立っていた。
「よくぞ参られたな、サンカサスの聖女よ。余がハデキヤ帝国の皇帝、ゴルド・ハデキヤである」
「わたくしは皇后、ブローゼ・ハデキヤです。遠路はるばるお疲れ様です」
「ハデキヤ帝国聖女オーロラです。今回は私の招待に応じて頂き、ありがとうございます」
皇帝たちが挨拶をすると、今度はアリエスたちの出番である。
「この度はお招きいただき、ありがとう存じます。私はサンカサス王国の聖女アリエスと申します」
「私は護衛騎士、カプリナ・ゾディアークと申します。父の爵位は伯爵でございます」
「私はアリエス様の普段の護衛を務めるサハーと申す者です。事情あって兜を外せませんので、このままでご容赦ください」
アリエスたちも自己紹介を終える。
「ふむ。オーロラがかなり推しておるからどのような人物かと思えば、普通の小娘ではないか」
皇帝は反応を示すと、オーロラへと顔を向ける。
「オーロラよ。そなたが招待したのだから、そなたにすべてを任せる。余はこの不可思議な雪に対応せねばならぬのでな」
「承知致しました」
皇帝の命令に返事をすると、オーロラは立ち上がる。
アリエスたちに近付くと、まずは自室へと案内することになった。
緊張する中、オーロラの自室までやってきたアリエスたち。
部屋の中に入ると、オーロラは世話役の侍女たちに用事を申し付けて、部屋から退出させていた。
「さて、任命式以来ですね、アリエス様」
「はい、そうですね、オーロラ様」
穏やかな挨拶から始まる。
「それにしても、おかしな天気ですよね。このハデキヤでは雪など降ることはありませんのに」
オーロラの言葉に、アリエスはぎくりとしている。確証はないのだけれども、十中八九自分のせいだと考えているからだ。
「あ、あの……。この雪は何日ほど前から降り始めましたか?」
アリエスはおそるおそるオーロラに尋ねてみる。
オーロラはあごに手を当ててちょっと考え込むと、アリエスを真っすぐ見て答える。
「二日前からですね。それからまったくやもうとしません。それどころか、強くなっているようなのですよ」
答えを聞いて、アリエスは確信した。間違いなくこの雪は自分のせいだと。
こう思ったアリエスが口を開こうとするが、それよりも早くオーロラの方が口を開く。
「アリエス様、お尋ねしてもよろしいでしょうか」
「は、はい。なんでしょうか」
急な質問にびっくりしてしまう。
それと同時に、オーロラの視線がサハーに向けられていることに気が付いた。
「どうして、魔族などを従えているのですかね。あなたは聖女でしょう? 理由をお聞かせ願えますでしょうか」
やはりサハーのことはばれてしまっていたようだ。
人払いをしてまでストレートに尋ねてきたオーロラの圧に、思わず目を泳がせてしまうアリエス。
ハデキヤ帝国の宮殿にやって来て早速訪れたピンチ。アリエスは無事に乗り切れるのだろうか。




