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魔王聖女  作者: 未羊


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第56話 お誘いを受ける元魔王

 このみんなが寒がっている中、ゾディアーク伯爵領の領都に馬に乗った騎士がやってきた。騎士や馬のまとっている衣装についた紋章から、ハデキヤ帝国の騎士だということが分かる。


(まったくなんなのだ。外が騒がしすぎないか?)


 窓から雪景色に染まった教会の庭を眺めているアリエスは、廊下から聞こえてくる足音や声に煩わしさを感じていた。

 雪が思ったよりも降ったので、今日の予定がかなりキャンセルになっている。そのため暇を持て余しており、アリエスはゆっくり雪景色を眺めていたのだ。なにせ、魔王城の周りにもこんなに雪が降ったことがないので、アリエスにとっては珍しいものだったからだ。

 ところが、アリエスの気持ちとは裏腹に、外の足音が自分の部屋に近付いてくる。足音は部屋の外で止まり、続けて扉を叩く音が響いた。


「アリエス様、司祭様がお呼びでございます」


 女性の神官の声が響いてくる。


「分かりました。すぐに向かいます」


 司祭はこの教会では一番上の人物である。その人からの呼び出しとあれば、応じなければならない。なにせここまで育ててもらった恩というものもある。アリエスはおとなしく呼び出しに応じ、司祭の部屋へと向かって行った。


 司祭の部屋に到着すると、自分を呼びに来た神官が扉を叩いて報告を行う。


「司祭様、聖女様をお連れ致しました」


「ご苦労、入りなさい」


「はい」


 神官は扉を開けるとアリエスを見る。


「聖女様、お入り下さい」


「はい。それでは失礼致します」


 アリエスが扉の中へと入っていく。

 部屋の中には三名の騎士が座っており、アリエスは驚いている。


「アリエス、よく来ましたね。そちらに座りなさい」


「はい、司祭様」


 アリエスは司祭の隣の席に座る。ちょうど騎士たちと向かい合う席だ。


(なぜこんな時に騎士たちがやって来ているんだ? まったく、こういう日くらい静かに過ごさせてほしいものだが……)


 アリエスは不満たっぷりである。

 なにせ外は移動も困るくらいに真っ白に雪が積もっている。

 しかし、ハデキヤ帝国から来たのであるのならば、強行するのも無理はないのかもしれない。


「新年会、ですか?」


「はい、我がハデキヤの聖女様が、ぜひともアリエス様をお招きしたいと申されまして……」


「それで、我ら遠路はるばるやって来たというわけでございます」


 そう、ハデキヤ帝国に存在する、新年会を行うという風習のためである。一年最初の景気づけというのが、その目的だ。帝国らしいといえば、実に帝国らしい話である。


「話は分かりました」


 司祭はそういうと、アリエスの方へと視線を移す。


「アリエスはどうなさいますかね。どうやらあちらの聖女様が関わっていらっしゃるようですが、同じ聖女でありますから、断ることもできますよ?」


 司祭はアリエスに対してこのようにアドバイスを送っている。

 なるほど、聖女同士であるならそういうこともできるのかと、アリエスは考え込んでいる。

 しかし、せっかく向こうからのお誘いである。これを断る理由もない。


「分かりました。招待をお受けいたします。せっかくのお誘いですし、他の聖女様たちと交流をしてみたいですから」


 アリエスがこう答えると、騎士たちはほっとした表情をしていた。

 司祭も特に反対する様子もないので、アリエスのハデキヤ帝国訪問はすんなりと決まったようである。


「そうなりますと、護衛騎士であるカプリナ様をお呼びせねばなりませんね」


 司祭がこう告げれば、神官の一人がすぐさまゾディアーク伯爵邸へと向かって行く。

 それを見届けると、司祭は騎士たちに話し掛ける。


「今日はこの通り雪が降り続いております。アリエスの支度もありますので、今日は教会に泊まっていかれてはいかがでしょうか」


「これはかたじけのうございます。それでは、今晩はお世話になります」


 ハデキヤ帝国からやってきた騎士たちは、ひと晩教会に泊まっていくことになった。


 話がまとまると、アリエスは自分の部屋に戻っていく。それと同時に、護衛を務めるサハーを呼んでくるように神官に頼んでいた。

 しばらくすると、部屋の扉が叩かれ、サハーが姿を現した。


「なんでございましょうか、アリエス様」


「サハー、ハデキヤ帝国に向かうことになりました」


「え?」


 突然のことに、サハーの目が丸くなっている。


「ですから、ハデキヤ帝国の聖女様からの招待で、新年間に参加することになりました。あなたは私の護衛です。カプリナと共にハデキヤ帝国について来て下さい」


「ええっ?! そいつは、困りますね。聖女直々の招待となると、私のことは確実に見抜かれますよ?」


 サハーは難色を示している。


「そうですか。ハデキヤはこことは違い、暖かいと聞きます。寒さに弱いサハーが、ここで冬を越せるとは思えませんけれど?」


「うっ……」


 アリエスの言葉に、サハーは固まっている。

 その通りだ。サハーはフィシェギルという半魚人の種族。寒さにはとても弱いのだ。

 今年の冬はこと雪が深く、かなり寒い。サハーに耐えきれるかどうか分からないのである。

 この条件を付きつけられたサハーは、観念したように頭を下げてしまう。


「分かりました。ですが、何かあった時には守って下さいよ?」


「護衛が何を言っているのですか。多少の擁護はしますけれど、自分でなるべく守ってみせなさい」


「……努力します」


 サハーはそうとだけ答えると、他の兵士たちのところへと戻っていった。


 こうして、アリエスは年越しを初めて他国で行うことになった。

 自分を招いたオーロラという聖女は一体どんな人物なのか。アリエスは非常に楽しみになっているようである。

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