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魔王聖女  作者: 未羊


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第54話 複雑な心境の元魔王の部下

 アリエスと話した翌々日、ライラは依頼を受けて街を出ていく。

 すっかりランクが上がってしまったので、様々な依頼を受けられるようになっていた。おかげで、誰も人が来なさそうな場所へも平然とやって来られるというものだ。

 今日は、ここで魔王軍の人物と落ち合うことになっている。

 ライラには通信用の魔道具があるとはいっても、教会があって聖女もいる場所だ。あまり長く使うと勘付かれてしまうからと、街の外での接触という形を取っているのである。

 アリエスの正体がライラが以前仕えていた魔王だと分かっても、その方法は変えなかった。

 あの短絡的な思考の持ち主である今の魔王なら、方法を切り替えればすぐにでも攻め込もうとするだろう。そうなると双方に死傷者が出かねない。アリエスの性格をよく知るライラだからこそ、聖女は脅威だと思わせるために連絡方法を変えなかったのである。


(面倒事を増やす必要はありませんからね。聖女になられたからとはいえ、あの方の性格上、魔族が死ねば悲しむのは容易に想像がつきます。あの方への配慮をするなら、これでいいのです)


 ライラはふうっと息を整えていた。


「ライラ、待たせてしまったようですね」


「いえ、私も来たところですよ、ピスケース様」


 ライラはすっと敬礼のような動作を取る。


「なんですか、改まって。名前を呼ぶなんていつぶりですか」


 いつもと態度の違うライラに、ふと疑問を感じてしまうピスケースである。

 それもそうだ。前回の報告の態度とは明らかに違うのだから。


「嬉しいことがありましたのでね。任務に対しての不満がなくなったのですよ」


「へえ、嬉しいこととは?」


 思わず尋ねてしまう。


「それはですね……」


 ピスケースの質問に、ライラはここ数日間の街であったことを包み隠さずに話す。アリエスからの許可も出ているとあって、結構詳細に話をしている。

 さすがに急にあまりにも詳細な情報だっただけに、ピスケースはかなり疑っているようだ。


「今回の報告はやけに詳しいですね」


「パイシズ様の御子息であるピスケース様でしたら、お話しても構いませんでしょうかね」


「……何をです?」


 ライラの態度がとても怪しく思えてしまうので、ピスケースはかなり警戒を強めている。


「実はですね。今の報告とは別に、パイシズ様だけへの報告があるのですよ」


「父上だけへの報告?」


 ピスケースの表情が厳しくなる。


「今回調査対象となっている聖女ですけれど、実は、聖女とその仲間によって討伐された、私たちの魔王様だったことが判明したのです」


「なんですと?!」


 思わず叫んでしまうピスケース。ライラは大声を出すなと忠告するかのように、ピスケースの口をとっさに塞ぐ。

 さすがにがっつり口を塞がれては、ピスケースも冷静になる。


「なんと、あの魔王様が、聖女に……」


 どういうわけか嬉しそうな顔をしているピスケースである。


「私もアリエス様から直接聞かされた時は信じられませんでした。ですが、聖女のそばにはスラリーとサハーがいますのでね、信ぴょう性は十分にあると思います」


「ふむ……。しかし、聖女になったとしても、魔王様がご存命とあれば、父上は大喜びでしょうな。現在の魔王に不満を抱く者も表立って目立たないとはいいましても、それなりにいるでしょうからね。ええ、私もですが」


 ライラと二人きりだからと、ピスケースもついつい口を滑らせてしまっている。


「やはりそうですか。まあ、私もその一人ですけれどね」


 ピスケースの失言を笑いながら、ライラも正直なことを話してしまっていた。


「そうです。アリエス様からのお願いがあるのでした」


「なんでしょうか」


「『すべてではないにしても、時々魔王軍の情報を流してほしい』とのことですね。自分の築いてきた魔王軍を好き勝手にされるのが、嫌みたいですよ」


「ふっ、なるほどね」


 ライラからの伝言を聞いて、あの人らしいなと笑っている。

 アリエスの前世に付き従ってきた配下たちは、今なお慕い続けているようである。


「分かりました。ですが、さすがに父上からの許可がないことには流せること流せないことがあります。相談の上、決めさせて頂きましょう」


「ええ、頼みますよ。私は引き続き潜入捜査をしますのでね」


「はい、お気をつけて下さいね」


「気をつけますとも」


 話を終えると、ピスケースはその場から姿を消してしまう。

 一人残ったライラは、ぐっと背伸びをしている。


「さて、それでは傭兵ギルドの依頼を片付けてしまいましょう。魔物でしたら、いくら狩ろうとも私の心は痛みませんしね。それに……」


 背伸びを解くと、武器を取り出して構える。


「私の腕が鈍っていないことをアピールできますからね。聖女になられたとは言いましても、私はあの方にお仕えしたいのです」


 その言葉には強い決意がこもっているようだった。


「まったく、奇妙な話ですよね。あの方が仰られていた目指す世界というものが、敵対する存在になることによってでしか実現できそうにないということが」


 ライラは一歩を踏み出す。


「聖女になられたからとはいえ、単純にはいかないでしょう。最悪、すべてを敵に回しかねません。私も少しはお役に立てますでしょうかね」


 ぽつりと寂しそうにつぶやくと、ライラは依頼をこなすために活動を再開したのだった。

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