第52話 他の聖女にも気に入られる元魔王
パーティーが無事に終わった翌日、各国の聖女たちはそれぞれの国へと帰っていく。
その中でもキャサリーンは、かなりアリエスのことを気に入ってるようだった。
「あら、キャサリーンってば、ずいぶんご機嫌のようですね」
そう話すのは、キャサリーンの所属するテレグロス王国の隣国である、ハデキヤ帝国の聖女オーロラだ。
「オーロラ、私がその様に見えますか?」
楽しそうに話しかけてくるオーロラに、キャサリーンはちょっとイラッときていたようだ。
キャサリーンの表情を見て、オーロラはちょっと心配そうに見つめている。
「キャサリーン、ちょっと聞いてもいいでしょうか」
「ええ、なんでしょうか」
「キャサリーンは、テレグロスの王族に仕え続けるつもりですか?」
オーロラの表情は、実に気遣っているような表情である。
それもそうだろう。キャサリーンの体は見るにも痛いくらいにやせ細っているからだ。あれだけ料理が並んでいたというのに、アリエスの生誕祭でもほとんど食事を取っていなかった。心配にならないわけがないのだ。
オーロラは隣の国だからこそ、気になってしまうのである。
ところが、キャサリーンはまったく動じないどころか、何を言うのかというような顔をしている。
「私は国の聖女となった以上は、そのまま仕え続けるだけですよ。大丈夫です、今だってしっかり元気ですから」
「でも、他の聖女と比べても明らかに大丈夫なようには見えない。私は心配しているのです。魔王も倒したあなたが、ただ国のいいように使われて一生を終えてしまうのではないかと」
オーロラがつい声を荒げてしまう。
キャサリーンは唇に人差し指を当てながら、何か魔法を使っている。
大声が出ると勘付いて、防音の魔法を展開したようなのだ。
「静かに。この馬車は私の国のものだと分かっておいでですか?」
「す、すみません。ついカッとなってしまいました。反省しております」
キャサリーンに叱られて、オーロラは反省をしているようだった。
話しぶりからすると、どうやらハデキヤ帝国はテレグロス王国にことに不信感を抱いているようにも思える。
「魔王を倒したとはいえ、今の世の中は昨日のようにまだ魔王の手先が活動しています。私の役目が果たせたわけではないですから、今のままでいいのですよ」
「しかし……。いざという時に力が足りなくなっては困ります。せめて、そのこけおちた顔はおやめください。あまりにも不健康で、国民に不安を与えてしまいますから」
キャサリーンは現状維持を話すものの、オーロラは心配のあまり、キャサリーンに忠告を与えている。
「大丈夫ですよ。ええ、私は大丈夫ですから」
キャサリーンはこう繰り返すばかりだった。
昨日のスライムたちを倒した時の動きを見れば、今の状態でも確かに問題はないだろう。それでも、やっぱりやせ過ぎだと思われるのだ。
「まあ、国の方針なら教会は従わなくちゃいけないでしょうけれど、いよいよ危険だと思ったら、いつでも来て下さいね。キャサリーンは小さい頃からの付き合いですからね」
「ええ、ありがとう、オーロラ」
キャサリーンはにっこりと微笑むと、魔法を解除して再び無表情で黙り込んでしまった。
オーロラは、そのキャサリーンの顔を心配そうに眺め続けている。
どう見ても放っておいたら倒れてしまいそうな体の状態だからだ。
おそらくキャサリーンが無事なのは、彼女が大量に抱え込んでいる神の加護のおかげだろう。
聖女になるには、聖女であるという神託を受けること以外にも相応の魔力と加護というものを授かるものである。
オーロラだって魔力と加護はそこそこ持っている。
ところが、キャサリーンはそれがかなり多い。そのため、このような細身な体でも大量の魔法を使ったり、とんでもない身体能力を発揮して行動したりといったことができると考えている。
(キャサリーンの信仰が消えることはないから、確かに大丈夫かも知れないけど、このままじゃあの国が神様の庇護を失いそうで怖いわ。もしもの時は、私たちハデキヤ帝国でキャサリーンを保護しなくては……)
キャサリーンの真向かいに座るオーロラは、心配が絶えないようである。
(そういえば、加護といえばサンカサス王国の新しい聖女アリエスちゃん。彼女もかなり強い加護を受けていたように思えるわね)
オーロラはアリエスのこともしっかりと注目しているようだ。なにせ、キャサリーンが気にかけている相手なのだ。気にならない方がおかしい。
(デビュタントも迎えたばかりということは、昨日の生誕祭で十一歳かあ。一度帝国に招いていろいろ話をしてみたいわね)
アリエスのことが気になって、つい笑いをこぼしてしまうオーロラである。
キャサリーンが気にしている新しい聖女。そのためか、オーロラもかなり気になってしまっているようだ。
しかし、二人はサンカサス王国からの帰路の真っ只中。気になったところで引き返すわけにもいかない。
そんなわけで、オーロラはキャサリーンを心配しながらも、アリエスとまた会える日のことを楽しみにしながら、自分の国へと戻っていったのであった。




