第51話 因縁と顔を合わせる元魔王
新しい聖女の誕生日ということで、会場の前方に座ったアリエスのところには有力貴族たちが次々と挨拶に訪れていた。
誕生日を祝う言葉は仕方ないとしても、その後に続く言葉も似たり寄ったりで、アリエスは内心顔を引きつらせていた。
(下心というもの丸見えすぎるな。魔族ならもっとうまく隠すぞ。こういうところは人間は未熟よな)
内なる魔王が、ついつい目の前の貴族たちに評価を下しているようだった。
心が透けて見えてしまうと、聖女としてきちんと挨拶をするものの、興味関心がついつい薄れてしまう。
(まっ、顔と名前だけ覚えておいてやるか。カプリナも貴族はそういうものだって言っていたしな)
アリエスは、名前以外の言葉をさらりと聞き流していくのだった。
長い長い貴族の挨拶が終わるかと思った頃だった。目の前にはひときわきれいな服装に身を包んだ人物が現れた。
誰かと思ってしっかりと顔を見てみると、このサンカサス王国の王子と王女だった。
「正式な聖女への任命、それと誕生日おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「おめでとうございます、アリエス様」
シーラ、ラソーダ、ソファリスの三人から、丁寧にお祝いの言葉を贈られるアリエスである。
さすがにこの三人が相手となると、他の貴族たちとは明らかに違う対応を見せている。
「ありがとうございます、ラソーダ殿下、ソファリス殿下、シラー王女殿下」
教わっていた通り、年上の王子から順番に名前を呼ぶアリエスである。
デビュタントの時にはいろいろとあったものの、この三人とはしっかりと和解をしていたので、アリエスは実に丁寧に対応をしている。
「殿下方がいらしていらっしゃるのでしたら、国王陛下と王妃様もいらっしゃっているはずですよね。どちらの方に?」
「父上と母上でしたら、あちらで他国の聖女様とご挨拶をなさっておられます」
「自国よりも他国の聖女様をご優先されたということですね。実に嘆かわしいお話ですね」
アリエスが問い掛けると、ラソーダとシーラからそのような答えが返ってきていた。
確かに、主役である自国の聖女を放って他国の聖女たちと言葉を交わしているというのは、普通に考えれば自国をないがしろにしていると取られても仕方がない。
しかし、先に他の貴族が寄ってたかって挨拶に集まっていたので、めでたい席での行動を慎んだのかもしれない。それで、話している間に貴族たちがはけてしまったので、そう見える状況になってしまったとも考えられる。
「仕方ありませんと。他国とのよい関係を保つということは、国を預かる陛下方からすれば自国の民を守ることにつながります。殿下方が挨拶に来て下さっただけでも、私は許します」
「なんとも慈悲深い。聖女アリエス様のお心遣い、実に心に染み入ります」
なんとも大げさな反応であると、アリエスは感じていた。
その後は、デビュタント後の様子など簡単な話をお互いに交わしていた。
こんな感じでひと通りの挨拶が済み、アリエスはふうっとひと息をつく。
シーラたちが呼びに行ったことで、国王たちとも言葉を交わすことができた。あとはただパーティーを楽しむだけである。
「アリエス様、私、お食事を取ってきますね」
「はい、行ってらっしゃいませ」
聖女の生誕祭というが、中身は実質立食パーティーに近い。ビュッフェスタイルなので、カプリナは料理を取りに行ったようだ。
アリエスはカプリナの方ににこやかな表情を向けていたのだが、そこにすっと影が迫る。
「これは、他国の聖女様ですね。どうなさったのでしょうか」
急に暗くなったからどうしたのかと思えば、どうやら他国の聖女がアリエスのところにやってきたようだ。
「サンカサスの聖女アリエス様、此度は就任ならびにお誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
お祝いの言葉をかけられたので、アリエスはお礼を返しておく。
「私、テレグロス王国の聖女でキャサリーンと申します。あなたを稀代の聖女と見て、お声掛けをさせていただきました」
「はい? それは一体どのようなことでしょうか」
思わぬ言葉に、アリエスは首を傾げてしまう。
なにせ、かつて前世の自分を殺した相手から予想もしない言葉が飛び出てきたのだから。何をもって稀代と口にしたのか。それが気になって仕方がないのである。
「ふふっ、とぼけてもらっても困りますね。スライムの襲撃、気が付いて結界を展開なさっていたでしょう?」
「ああ、あの時のですか」
アリエスはようやく何を指してこのような言い回しをしてきたのかに気が付いた。
そう、スライムというのは擬態をされると気付くのはかなり難しい。それでありながら、結界を展開してスライムを弾き飛ばしていたので、スラリーのことを知らないキャサリーンからすればそのように感じられたということだった。
「あれのおかげで、私はスライムとテイマーのすべてを倒すことができました。ええ、とても感謝しておりますとも」
「それは喜ばしいことですね」
十数体いた擬態スライムと、そのテイマーを一瞬で倒したというものだから、アリエスはその表情が引きつっている。
これはスラリーとサハーの二人と、この目の前の聖女は会わせられないなと本気で思ってしまう程だった。
だが、アリエスはこの時まったく思ってもいなかった。
かつて、魔王であった自分と、魔王を殺した聖女との因縁が、今世でも長く引きずることになるということを。




